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「見つめるほど大きくなる穴」の錯視 原因を網膜のコンピュータモデルで解明 豪州チームが発表Innovative Tech

» 2025年01月31日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

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 オーストラリアのフリンダース大学に所属する研究者らが発表した論文「A Bioplausible Model for the Expanding Hole Illusion: Insights into Retinal Processing and Illusory Motion」は、静止画なのに動いて見える「拡大する穴」という錯視について、その仕組みを解明した研究報告である。

拡大する穴の錯視 この静止パターンは動的な効果を生み出し、パターンの中心部が継続的に拡大しているような印象を与える 暗いトンネルへと前進していくような感覚を生成

 この錯視は、中心部が暗い円形で、その周りに同心円状の明暗パターンがある画像が、実際には動いていないのに、まるでトンネルの中を進んでいるかのように見える現象だ。研究チームは、この錯視が目の網膜にある神経細胞の働きによって引き起こされることを突き止めた。

 神経細胞は画像の明暗の差(コントラスト)を検出し、その情報を脳に伝える。研究チームは、この神経細胞の働きをコンピュータでシミュレーションし、錯視が起こる仕組みを分析した。

拡大する穴の錯視をフィルター処理で解析した画像

 その結果、神経細胞は検出した明暗の情報を単に脳に伝えるだけでなく、周囲の細胞とも情報をやりとり(側方抑制)していることが分かった。この情報のやりとりが、静止した画像を動きのある映像として認識させる原因となっていた。

 さらに、この錯視を見ているときには、実際に瞳孔が拡大することも確認。これは、私たちの脳が錯視を本物の動きとして処理していることを示している。また、中心部を白く、周りを黒くした逆転画像では、反対に瞳孔が縮小する効果が見られた。

左のパターンのコントラスト極性を反転させた「白い穴」バージョン この場合、観察者の瞳孔は拡大ではなく収縮し、明るい光に向かって進んでいくような感覚を生む

Source and Image Credits: Nematzadeh, Nasim, and David MW Powers. “A Bioplausible Model for the Expanding Hole Illusion: Insights into Retinal Processing and Illusory Motion.” arXiv preprint arXiv:2501.08625(2025).



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