「午前4時は、世界が眠る。」山中さん(猫)は、様子を見に来た僕にそう言った。この時間に来たことに怒っているのかな、と思ったが、そうではないようだ。「聞こえるかい?」「いいえ、何も聞こえません。何が聞こえるんですか?」山中さん(猫)は、ほんの少しニヤリとした。注意深く見ていなければ、見逃していた程度の笑いだ。「静寂だよ。そう、何も聞こえない。静寂が聞こえるんだ。少しでも気を抜けば、何処かに吸い込まれてしまう。そんな静寂が聞こえるんだよ。」遠くの方で、新聞配達員のバイクの音が聞こえた気がするが、“そういうこと”ではないのだろう。僕は黙って頷いた。確かに、虫の鳴き声ひとつしない。雨も先ほどから止んでいる。“世界中が眠っている”ようだった。僕は少しばかり耳が痛くなった気がした。「わしらの耳は敏感でな。この時間の静けさが好きなんだ。」猫の聴力は犬の2倍もあり、人間の4倍もあるらしい。首につけた鈴なんて、やたら煩いんだろうな、と、僕は家で寝ている、彼(猫)らのことを考えていた。「わかったかい?午前4時は、世界が眠るんだ。これより前でも、後でも違う、この時間が一番心が休まるんだ。」そう言って、山中(猫)さんはウトウトし始めた。無事を確認した僕は「そろそろ行きますね。」と言って、彼の寝床を後にした。その帰り道に僕は、買ったばかりのマールボロを開けジッポー・ライターで火をつけた。「午前4時は、世界が眠る。」なるほど。静かだ。そこには僕の足音しかしていなかった。僕は足を止め、タバコの煙が空に吸い込まれていくのを、ただただ見ていた。
「午前4時は、世界が眠る。」山中さん(猫)は、様子を見に来た僕にそう言った。この時間に来たことに怒っているのかな、と思ったが、そうではないようだ。「聞こえるかい?」「いいえ、何も聞こえません。何が聞こえるんですか?」山中さん(猫)は、ほんの少しニヤリとした。注意深く見ていなければ、見逃していた程度の笑いだ。「静寂だよ。そう、何も聞こえない。静寂が聞こえるんだ。少しでも気を抜けば、何処かに吸い込まれてしまう。そんな静寂が聞こえるんだよ。」遠くの方で、新聞配達員のバイクの音が聞こえた気がするが、“そういうこと”ではないのだろう。僕は黙って頷いた。確かに、虫の鳴き声ひとつしない。雨も先ほどから止んでいる。“世界中が眠っている”ようだった。僕は少しばかり耳が痛くなった気がした。「わしらの耳は敏感でな。この時間の静けさが好きなんだ。」猫の聴力は犬の2倍もあり、人間の4倍もあるらしい。首につけた鈴なんて、やたら煩いんだろうな、と、僕は家で寝ている、彼(猫)らのことを考えていた。「わかったかい?午前4時は、世界が眠るんだ。これより前でも、後でも違う、この時間が一番心が休まるんだ。」そう言って、山中(猫)さんはウトウトし始めた。無事を確認した僕は「そろそろ行きますね。」と言って、彼の寝床を後にした。その帰り道に僕は、買ったばかりのマールボロを開けジッポー・ライターで火をつけた。「午前4時は、世界が眠る。」なるほど。静かだ。そこには僕の足音しかしていなかった。僕は足を止め、タバコの煙が空に吸い込まれていくのを、ただただ見ていた。