対談!EC+【特別編⑤】進化する「地域DXソリューション」Vol.2──ふるさと納税から、ECの立上げ・運用、オフライン展開まで、多様な課題を解決するソリューション群
自治体や地域事業者のECやDXの課題解決を目指して、2023年2月から提供が始まった〈地域DXソリューション〉。博報堂DYグループのEC領域の専門家集団であるHAKHODO EC+が取り組んでいるこのソリューション群は、現在も進化を続けています。今回は、2024年7月にリリースされた新たなソリューション群の中から、ふるさと納税、EC立上げ、EC運用、オフライン出店の4領域の課題を解決する4つのソリューションを取り上げます。それぞれのソリューションのコンセプトと、そこで発揮されている各社の力について、メンバーたちが語りました。
(写真左から)
桑嶋 剛史
HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ イノベーションプラニングディレクター
野口 陽介
HAKUHODO EC+
ソウルドアウト デジタルマーケティングデザイン本部
ロイヤリティループデザイングループ グループ長
水穂 優太
HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター
杉山 典子
HAKUHODO EC+
博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部
コマースマーケティング部 EC構築運用チーム チームリーダー
ふるさと納税をめぐる2つの課題
- 桑嶋
- HAKUHODO EC+は2023年に〈地域DXソリューション〉をリリースし、6つのソリューションによって地方自治体や事業者の皆さんを支援してきました。この7月、そこに新たに6つのソリューションが加わりました。計12のソリューションによって、これまで以上に広範なサポートを実現していきたいと僕たちは考えています。
前回は、新しい6つのソリューションの中の〈観光DXソリューション〉をご紹介しました。今回は、〈ふるさと納税〉〈自社EC立上げ〉〈ECスタートアップ〉〈地域オフライン出店〉の4つのソリューションに関して、HAKUHODO EC+のメンバーと語り合っていきたいと思います。〈ふるさと納税〉ソリューションのご紹介をする前に、ふるさと納税の現状や課題感について水穂さんからお話しいただけますか。
- 水穂
- ふるさと納税の受入額は年々増えており、総務省の調査によると令和5年度の実績は1兆1175億円(対前年度比:約1.2倍)まで拡大しております。ご存知のとおり、寄付を受けた自治体は、寄付額の3割以下にあたる返礼品を寄付者に贈ることができます。返礼品は地域をアピールする取組でもあるので、できるだけ魅力的な商品を用意する必要があるのですが、「選んでもらうために、どんな返礼品をどのように訴求していけばいいのか」について悩まれている自治体は少なくありません。加えて、返礼品を紹介するサイトの運用や事業者とのやりとり、各種手続き周りといった多くの業務も存在し、リソースが足りないというお悩みを抱えている自治体も多いのではないでしょうか。返礼品戦略とリソース不足。この2つが、ふるさと納税をめぐる自治体目線での大きな課題と考えております。
- 桑嶋
- 返礼品は、既存の特産物を選ぶだけでなく、新たに開発するケースもありますよね。返礼品戦略のポイントについてもお聞かせいただけますか。
- 水穂
- 内からの視点と外からの視点。この2つを持つことが重要だと思います。内からの視点で大事なのは、返礼品を贈る側の想いです。事業者や自治体の皆様だからこそ持っている、寄付品に対する”想い”を生活者に伝えていくことが重要です。外からの視点で大事なのは、返礼品を受け取る側のニーズです。他地域の動向や生活者データなど、マクロ観点でどのような返礼品が支持されているのかを分析し、ニーズを捉えていくことが重要です。事業者や自治体の皆様だからこそ持っている寄付品に対する想いと、一歩引いて市場動向や生活者ニーズを広い視野から汲み取る力、この2つのバランスが重要だと考えております。
- 桑嶋
- 一方のリソース不足という課題について、杉山さんはどう捉えていらっしゃいますか。
- 杉山
- ふるさと納税の運用は、多くの部分でECサイトの運営と共通しています。返礼品を用意する事業者は、商品を期日までに発送しなければなりません。運用する事務局側は寄付の受け付けをしたり、問い合わせへの対応をしたりしなければなりません。そういったオペレーションをよりスムーズにするには、ECサイト運営のスキルを活用することが有効です。しかし、ECのスキルをお持ちの自治体や地域事業者は決して多くはありません。そこに大きな課題があると思います。
〈ふるさと納税〉ソリューションにおける3社の役割り
- 桑嶋
- そういった課題を受けて開発されたのが〈ふるさと納税〉ソリューションです。このソリューションの概要をご説明ください。
- 水穂
- ふるさと納税サイトのページ制作や返礼品開発に加え、サイト内外の広告運用や事務局代行、サイトの立ち上げまでをワンストップで支援するのが、我々の〈ふるさと納税〉ソリューションです。このソリューションを担当しているのは、HAKUHODO EC+に参画している博報堂、博報堂プロダクツ、ソウルドアウトのグループ3社です。戦略立案や全体統括が博報堂の役割です。博報堂プロダクツは、ふるさと納税のサイト制作から各種事務局運営まで運営支援全般を担います。ソウルドアウトには、地域や特産品の魅力が伝わるような広告・メディア戦略を担ってもらいます。杉山さんも仰っていた通り、ふるさと納税のオペレーションはECのオペレーションと共通する部分が少なくありません。博報堂にはECコンサルティングや、ECを起点とした事業コンサルティングの幅広いノウハウがありますので、そういったノウハウもふるさと納税領域でご提供できると考えています。
- 杉山
- このソリューションにおける博報堂プロダクツの役割は、サイトの制作や運用に加えて、弊社内で運営しているコンタクトセンターでふるさと納税の窓口業務の代行サービスを提供することです。サイト制作に先立って業務全体の設計をし、サイトをつくり、事務局機能を担う。それによって、自治体や地域事業者のリソース不足を補うだけでなく、コンタクトセンターへの問い合わせなどから見えてきた課題に応じて業務やサイトの機能などをクイックに改善していく──。そんな体制をつくって、ふるさと納税業務を支援します。
- 野口
- ソウルドアウトの役割は、デジタル広告を活用した集客です。データに基づいたターゲット設定やメディア選定をして、寄付のポテンシャルがある人たちに確実にメッセージを届けていきます。これまでソウルドアウトは、地方を含む日本全国の中小・ベンチャー企業の広告やマーケティング展開を支援する取り組みを続けてきました。私たちほど多くの地域企業支援の案件を手がけてきた会社はないと自負しています。その経験やノウハウを〈ふるさと納税〉ソリューションにもいかしていきたいと考えています。
- 水穂
- それぞれに異なる強みをもつ3社のスペシャリストが、会社の枠を超えてチームをつくり、自治体や地域事業者のふるさと納税の取り組みをワンストップで、かつ高次元で支援できること。それがこのソリューションの最大の特長と言っていいと思います。
クライアントともにECビジネスの成功を目指す
- 桑嶋
- 〈自社EC立上げ〉〈ECスタートアップ〉〈地域オフライン出店〉についても、皆さんに話を聞いていきたいと思います。この3つのソリューションは、ECビジネスにこれから取り組もうと考えている、あるいはすでにECに着手したけれど売り上げやオペレーションの点でお悩みがある地域事業者の皆さんを対象としています。まず〈自社EC立上げ〉について、杉山さんからご説明いただけますか。
- 杉山
- ECビジネスの多くはECサイトをつくることから始まります。私たちに寄せられるご依頼は、多くの場合「ECサイトをつくってほしい」というシンプルなものです。そういったご依頼に対し、クライアントのECビジネスに求められるサイトの要件やシステムの内容などを細かく検討して、最適な形をご提案し、実装までのご支援をするのが〈自社EC立上げ〉です。
ECは、複数社が出品するマーケットプレイス型ECと、一社完結型の自社ECに大きく分けられます。クライアントがどちらのタイプのECに取り組みたいかによって、ご提案する仕組みも異なります。マーケットプレイス型の場合は、博報堂プロダクツが独自に開発したフルファネル型サービス〈EC Cart +〉をご利用いただくことが可能です。一方、自社ECを構築する場合はSaaS系サービスを活用するのが有効です。
- 桑嶋
- 博報堂プロダクツは、SaaS系サービスをスコアリングする仕組みも開発しましたよね。
- 杉山
- クライアントが求める要件に沿ってサービスを客観的に数値化する仕組みです。しかし数値はあくまでも1つの目安で、スコアが最も高いものをそのままご提案するわけではありません。客観的数値と私たちのEC支援のノウハウを組み合わせ、クライアントに最適なサービスを見極めるようにしています。
- 桑嶋
- 〈自社EC立上げ〉がECへの取り組みをシステム面から支援するソリューションであるのに対し、〈ECスタートアップ〉は、立ち上げたクライアントのECビジネスに並走して、ビジネス成果の向上を目指すソリューションです。具体的には、経営・事業・マーケティングの各戦略の立案、運用代行、システム、広告展開、CRMなどの支援が含まれます。野口さんは、このソリューションがクライアントにもたらす価値をどのように考えていますか。
- 野口
- ECサイトを立ち上げただけでは、なかなか商品は売れません。日々コツコツ改善を続けながら、「売れるEC」を目指していく必要があります。ECビジネスを「総合格闘技」と表現することがあります。サイト設計、データ活用、広告展開、CRM──。そういった多面的な活動に地道に取り組みながら、徐々にビジネスを成長させていくというのがECビジネスの基本的な考え方です。〈ECスタートアップ〉は、HAKUHODO EC+のプロがそういった地道な取り組みを継続的に支援していくソリューションです。クライアントとともにECの成功を目指すソリューション。そう言ってもいいと思います。
- 桑嶋
- 地域では、長年商売を続けてきた企業が新たにECに取り組み始めるケースも多いですよね。従来の顧客基盤をECとどう統合していくか。それも1つ大きな課題だと思います。
- 野口
- おっしゃるとおりです。例えば、地域で数十年にわたって商売をしてきた老舗企業には優良顧客がたくさんいるし、顧客台帳も充実しています。その顧客情報をデジタル化し、ECにおける顧客データと統合してトータルなCRMに取り組んでいくことができれば、LTV(生涯顧客価値)の向上を実現できます。〈ECスタートアップ〉にはそのような支援内容も含まれます。
- 杉山
- ECビジネスには、CRMによって顧客のロイヤルカスタマー化を目指すダイレクトマーケティングの手法が有効です。博報堂プロダクツ内には、ダイレクトマーケティングの専門組織があります。その知見やノウハウも〈ECスタートアップ〉にぜひ活かしていきたいですね。
12のソリューションが出揃ったことの意味
- 桑嶋
- 最後に〈地域オフライン出店〉をご紹介します。ECを展開しているクライアントの中には、ポップアップストアなどを出店して顧客とリアルな接点をもちたいと考える方々も少なくありません。そういったニーズにお応えするためのソリューションが〈地域オフライン出店〉です。立地、店舗デザイン、集客、ECとの連携などをトータルにコーディネートして、オフラインでのチャレンジを支援します。
さて、今回は〈ふるさと納税〉〈自社EC立上げ〉〈ECスタートアップ〉〈地域オフライン出店〉の4つのソリューションをご紹介してきました。これらはそれぞれ独立したソリューションであり、個別にご利用いただくことが可能ですが、複数のソリューションを組み合わせることによってより効果が増すと僕たちは考えています。昨年から展開している6つのソリューションと、前回紹介した〈観光DXソリューション〉、そして次回ご紹介する〈グローバル進出ソリューション〉。この12個のソリューションを適宜組み合わせることで、より広範な地域特有の課題を解決することが可能です。それぞれのクライアントの個別課題を踏まえ、ビジネスを確実に成長させていけるソリューションの組み合わせを考えてご提案していきたいと思っています。
最後に、今後の地域DX支援にかける思いをそれぞれから語っていただきます。
- 水穂
- 今回新たにリリースした6つのソリューションは、自治体や地域事業者の皆さまの生の声をもとに開発したものです。これらを駆使しながら、地域の魅力を全国に広めるお手伝いを続けていきたいと考えています。特に、ふるさと納税は地域の文化や産品の魅力を多くの生活者に伝えられる仕組みです。自身がこれまでコンサルタントとして培ってきた知見やノウハウも活かし、ふるさと納税領域のご支援にこれからも力を入れていきたいです。
- 杉山
- ECビジネスにはデジタル活用のノウハウが求められますが、必ずしも高度な知識が必要なわけではありません。デジタルの知識がない場合でも、私たちがご支援することでECビジネスへの一歩を踏み出すこと、あるいはビジネスを拡大していくことは十分に可能です。たくさんの自治体や地域事業者の皆さんのお力になって、地域ECの可能性をさらに広げていきたい。そう考えています。
- 野口
- 地域の中小規模企業のマーケティングを支援してきたソウルドアウトが博報堂DYグループに加わったのは、2022年4月でした。グループ入りすることで、私たちがやれることの幅は大きく拡大しました。この〈地域DXソリューション〉の取り組みでも、グループの仲間たちと力を合わせて、地域ECのさまざまな課題を解決していきたいと思っています。現在は、地域のビジネスを日本全国に広げていくお手伝いをする活動がメインですが、ゆくゆくは皆さんの世界進出をサポートしていきたい。そんなビジョンを描いています。
- 桑嶋
- この1年半ほどの〈地域DXソリューション〉の取り組みの中で、僕たち自身が自治体や地域事業者の皆さんとともに成長させていただいたという確かな実感があります。ソリューションの数が増えただけでなく、新たなメンバーが加わりチーム力が大幅に増強されました。その力をもって、これからも地域の発展に寄与していきましょう!
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HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ イノベーションプラニングディレクター通販事業の運営チームを経て、博報堂のEC支援チームの旗揚げに参画。米国Kepler社への短期出向を経て、現職。ECを軸に、新規ビジネスの立ち上げや変革、事業設計を得意とする。各種講師や記事/書籍執筆なども担当。
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HAKUHODO EC+
ソウルドアウト デジタルマーケティングデザイン本部
ロイヤリティループデザイングループ グループ長デジタル専業のマーケティング支援会社にてSNSを用いた企業のマーケティング戦略の立案、インフルエンサーやD2Cなど新規サービスの開発に従事。
2022年、前職のD2C事業をソウルドアウトへ譲渡するとともに転籍。
現在はEC/D2C領域を中心に、デジタルマーケティング全般の支援を担当。
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HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター2022年博報堂中途入社。大手ECモールでのECコンサルタントの経験をもとに、EC領域全体の事業設計や戦略策定を担当。新規出店企業から月商数十億円規模のクライアントまで幅広いコンサルティング実績を持つ。EC領域に特化した「HAKUHODO EC+」にも所属し、新たなソリューション開発も推進している。
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HAKUHODO EC+
博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部
コマースマーケティング部 EC構築運用チーム チームリーダー
コマース領域における運用全般の業務設計・構築、ディレクションを担当。各種ECカートシステムの概略も理解し、システムとオペレーションを考慮して業務設計を行っている。
自社EC、マーケットプレイス型、ふるさと納税などのような複雑な形態でも、クライアントや出品企業側の負荷軽減も鑑み、セキュアで効率的な運用を心掛けている。