英国メイド(家事使用人を含む)関連書籍の歴史の整理の一環です。まずはメイド関連の知識が掲載されている資料本の変遷を暫定的に公開します。語感がいいので30年史にしていますが、厳密ではありません。私が把握する限りなので、すべてではありません。
1980〜1990年代:「貴族の屋敷」と「生活史」の範疇
『路地裏の大英帝国』(1982年)
『英国生活物語』(1983年)
『英国のカントリー・ハウス』(1989年)
『生活の世界歴史10 産業革命と民衆』(1992年)
『英国貴族の館』(asin:4062050900)(1992年)
『台所の文化史』(1993年)
『イギリスのある女中の生涯』(1994年)
『19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう』(1997年)
『英国貴族の邸宅』(1997年)
『英国ヴィクトリア朝のキッチン』(1998年)
『英国カントリーハウス物語』(1998年)
『図説 英国貴族の城館』(1999年)
『十九世紀イギリスの日常生活 』(1999年)
2000年代(ゼロ年代):「メイド」ジャンルの独立へ
『階級にとりつかれた人びと』(2001年)
『ヴィクトリア時代の女性たち』(asin:4423493381)(2002年)
『図説 イギリス手づくりの生活誌』(2003年:改訂)
『エマ ヴィクトリアンガイド』(2003年)
『ヴィクトリアン・サーヴァント』(2005年)
『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(2005年)
『召使いの大英帝国』(asin:4896919351)(2005年)
『エマ アニメーションガイド(1)』(asin:4757724462)(2005年)
『エマ アニメーションガイド(2)』(asin:4757725973)(2006年)
『エマ アニメーションガイド(3)』(asin:4757727887)(2006年)
『図解メイド』(asin:4775304798)(2006年)
『図説 英国貴族の城館』(2008年:改訂)
『図説 英国貴族の暮らし』(2009年)
『従僕ウィリアム・テイラーの日記―一八三七年』(2009年)
『英国メイドの世界』(2010年)
2010年代:英国メイドの確立へ?
『図説 英国メイドの日常』(asin:430976164X)(2011年)
『執事とメイドの裏表』(asin:4560081794)(2011年)
『英国メイド マーガレットの回想』(asin:4309205828)(2011年)
概論
1980〜1990年代は「英国貴族の屋敷」と「庶民の生活史の中でのメイド」(日常生活ガイドブックや料理の中の1カテゴリ)、他に女性史での言及もあります。ただ、単独ジャンルとして成立していないのが特徴です。この「空白」と言える時期に「メイド資料本」を作っていたのが、同人ジャンルです。
2000年代に入ると如実にメイドブームの影響を受け(世の中の関心を満たすという意味において)メイド関連書籍が増加していきます。特に2005年ですね。しかし、少なくとも、2005年に刊行される『ヴィクトリアン・サーヴァント』『召使いの大英帝国』以前に「メイドだけ」を扱った資料的な和書は存在していません。一冊を除いて。
それが、『イギリスのある女中の生涯』(1994年)です。
なぜ1994年にこの本が出せたのでしょうか? 翻訳されたジャーナリストの徳岡孝夫さんが著名だったからでしょうか? 氏が知人から紹介されたこの本を出版に向かわせたとあとがきにあります。同書の出版社の草思社は、マークス寿子さんの本を出していたので読者のイギリスへの関心も開拓されていたからかもしれません。
私の手元にある同書は1994年時点で第三刷です。4月末にでて6月末でこの刷数というのも、「売れていた」という事実を示すもので興味深いです。
「世の中のトレンド」を複合的に見ると、2000年代半ば以降が「メイドブーム」の影響であるように、1990年代やそれ以前には別のブームがあったと考えるのが妥当かもしれません。少なくとも、1997〜1999年あたりには屋敷本・日常生活本の刊行が相次いでいます。
尚、ディケンズの孫娘のモニカ・ディケンズの家事使用人体験記『なんとかしなくちゃ』(asin:4794915462)は1979年に出ていますが、「体験記」なので個人的にはあまり取り上げていない本です。