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生前整理・実家じまいは「会話できるうち」がマスト! YouTube登録者23万人の遺品整理のプロに聞いた!

生前整理・実家じまいは「会話できるうち」がマスト!YouTube登録者23万人の遺品整理のプロに聞いた!

愛知県を中心に、ゴミ屋敷の片付けから生前整理、遺品整理まで請け負う清掃サービス「片付けトントン(株式会社中西)」。掃除などの情報を発信するYouTubeチャンネルのフォロワー数は23万人を突破。一般人には掃除が難しいレベルのゴミ屋敷を手際よく片付ける様子が「爽快」「自分も片付けられるような気がしてきた」と話題になっています。

片付けトントンの元には「親が突然亡くなってゴミ屋敷状態の実家を片付けることになってしまった」「散らかった部屋に人を入れるのは恥ずかしい。でも自分ではどうにもならない」など、さまざまな悩みをもつ方からの依頼や相談が多く集まります。一人ひとりと丁寧なコミュニケーションをとりながら片付けていくそうです。

今回は、実家じまいをテーマに片付けトントンを運営する株式会社中西の高橋さんと小田さんに、生前整理や遺品整理を業者に依頼する際の交渉ポイントや自分で片付けるコツを伺いました。

記事の目次

片付ける場合は遺産相続がクリアになってから

小田さんと高橋さん

「片付けトントン」を運営する株式会社中西の小田さんと高橋さん(撮影/あべあさみ)

遺品整理や生前整理を目的としたお片付け依頼は、売り上げ全体の約25%を占めるそう。片付けトントンを運営する株式会社中西の営業・高橋さんは「不用品回収のご相談も、内容を詳しく伺うと遺品整理が目的の依頼のことが多いです」と語ります。

「多くが家族や親戚の方からのご相談ですが、場合によっては大家さんから依頼をいただくこともあります。相続人がいなかったり、独居中の方が亡くなられた場合ですね。どちらにしても、片付け中に契約書や貴金属などの資産を含め『こんなものがあったの!?』と驚くことが多く、亡くなった居住者と依頼主の間ではコミュニケーションをとれていなかったケースがほとんどです」(高橋)

片付け前

過去に片付けしたお宅。モノがあふれ、足の踏み場もない状態(片付けトントン提供写真)

片付け後

片付け後。出てきた書類はまとめて依頼者に確認するそう(片付けトントン提供写真)

遺品の片付けにかかる時間は、物量や家の広さにもよりますが、およそ1~2日。居住者が存命で、本人に確認を取りながら片付ける場合は6日程度かかることもあるといいます。モノを手放すことに心理的抵抗がある方も多く、作業が難航する場合もあるそうです。

「依頼主が継続して住む場合は、家具などを引き継いで使えるので、業者に依頼する必要はほとんどないかもしれません。しかし、家の全面リフォームや解体を考えているなら、すべての家具の撤去が必要です。家庭用の車では運搬も難しいので、トラックの手配が必要ですし、粗大ゴミとして出すのも一苦労。業者に依頼したほうが安心です」(小田)

そして実家じまいで注意したいのは、遺産相続の確認です。遺品整理に着手すると、その人が相続を認めた扱いになり、相続放棄ができなくなってしまうケースもあります。

「実家の片付けに手を付けることは『法定単純承認』(限定承認※や相続放棄を選ぶことができなくなる)にあたり、相続に同意したことになります。そうすると、仮に親にマイナスの資産(借金など)があったとしても相続放棄ができなくなりますから注意してください。まずはしっかりと確認してから、片付けに着手したほうがいいでしょう」(高橋)

また、相続人が複数いる場合は、ほかの相続人に確認せずに片付けを進めると、後から『形見でほしいものがあったのに』『資産を隠しているんじゃないか』といった相続トラブルに発展することもあります。

※限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ相続方法のこと

小田さんと高橋さん

片付けに必要なアイテムが詰まった倉庫(撮影/あべあさみ)

では、実際に実家じまいする際は、何から着手すればいいのでしょうか。片付けトントンのお二人は、居住者が元気なうちの生前整理をすすめています。さらに相続に関係する書類やへそくりを置いた場所などを教えてもらうのがいいのだそうです。

「生前整理って『死んだ後のことを考えて』と伝えることだから、親子であってもなかなか言いにくいんですよね。実際、そういうお話ができていない方が多い印象です。でも、片付けする際にどのエリアに大切な書類が集中しているかは、元気なうちに教えてもらうとご家族も助かると思います」(高橋)

片付けの視点では、箱に入ったまま手付かずの引き出物や、タオルや食器類から整理するのがいいそう。その際も、ただ物の価値だけで判断するのではなく、持ち主である親の気持ちを尊重しつつ整理する必要があります。

「高齢の親子が、ペットボトルのキャップを捨てるか捨てないかでもめているのを見たこともあります。なかには、『これはいらないだろう』と勝手にゴミを処分して、後から親が喪失感を味わうことも少なくありません。親のあまりの落ち込みぶりに、『捨てなければよかった』と後悔することもあるので注意が必要です」(高橋)

「高齢の方々は、ものを大切にする世代ですから『捨てる』という言葉は使わずに、『ちょうだい』『必要とする人に譲って(売って)、ご飯代にしよう』と声をかけながら整理していくのがいいかもしれませんね」(小田)

注意したい「実家のごみ屋敷化」のサイン

小田さんと高橋さん

(総務省「ごみ屋敷」対策に関する調査資料をSUUMO編集部で加工)

なかには、認知症などをきっかけに、高齢者の住む自宅がゴミ屋敷化するケースもあります。総務省が2024年に発表したゴミ屋敷の調査では、ゴミ屋敷の居住者は単身世帯が最も多く全体の59.1%を占め、その年齢別構成は65歳以上の高齢者が54.2%となっています。

「床にものが散乱したり、トイレットペーパーなどの消費財をいつも以上にストックしたり、無料でもらえるビニール袋やポケットティッシュ、割り箸、新聞やチラシなどがたまり始めたら、注意です。マインドが『手放す』より『増やす』ほうに傾いているサインですからね。モノがあふれて、部屋の1カ所が荒れ始めると、そこからどんどん荒れる可能性があります」(高橋)

「こまめに実家に足を運ぶことも大切です。たまにしか会わない関係性だと、片付けたいと思っても手を付けられないですけど、顔を合わせる頻度が高ければ、『少し片付けたら?』と言いやすいし、一緒に整理整頓ができると思います」(小田)

過去には、物が増えすぎた高齢者の家を高橋さんたちが部分的に片付けしているうちに、本人の気持ちが前向きになったケースもあるそう。

「ご高齢の方から、病気で入院したのをきっかけに片付けの依頼をいただいたことがあります。ご本人は家に帰りたかったのですが、自宅は物であふれて介護ベッドが入らない状態でした。まずは了承が得られた玄関やキッチン、トイレ、お風呂などの片付けを行い、入院中のご本人にビフォー・アフターの写真を送付したんです。そうすると、少しずつ片付けに前向きになり、『じゃあ、次のスペースも片付けをお願いね』と、どんどん片付けられるようになり、家がスッキリしました」(小田)

片付け前

片付け前、ゴミがあふれたキッチンとダイニングスペース(片付けトントン提供写真)

片付け後

プロの手でスッキリ綺麗になりました(片付けトントン提供写真)

なお、本格的に実家の片付けに着手する場合は、「台所や風呂、洗面所など思い出の品が少ない場所から片付けを始めてリズムをつくり、居間などの場所へ移行していくといい」と語ります。

「実は、片付けで最も時間がかかるのが写真の整理です。見返すだけで大変な量だと思いますから、デジタル化しておくといいかもしれませんね」(小田)

着物、レコード、ゴルフクラブなど重たくかさばる貴重品は買い取り業者に相談を

古いゴルフクラブを持つ高橋さん

古いゴルフクラブや釣りざおでも意外と買い取りしてもらえます(撮影/あべあさみ)

遺品整理では、着物や茶道具といった貴重品がどれくらい価値があるのかわからず悩む方が多いそう。片付けトントンでは遺品整理の依頼を受けた際、下記の品物は勝手に処分せず、買い取り業者に依頼するなど依頼主に対応を検討してもらうといいます。

  • 着物
  • 茶道具
  • 掛け軸
  • カメラ
  • 楽器
  • レコード
  • ゴルフクラブ
  • 釣りざお
  • フィギュアやソフトビニール人形など
  • 書籍類や雑誌(現在は入手が難しい貴重なもの)

「依頼主からは、『買い取り業者に連絡するのも手間だから、このまま処分してほしい』と言われることが多いです。

処分費は、総量と重さが関係しています。上記にあげた品物のうち、着物やレコードは可燃ゴミ、ゴルフクラブや釣りざおは不燃ゴミに分類される地域が多いですが、どれも重量があるので業者に処分を依頼すると費用が高くつきます。1つ10円でも売れそうなら、買い取り業者へ相談したほうがコストは削減できるでしょう」(小田)

「資源の回収を請け負っている片付け会社であれば、紙やペットボトルはお金をかけずに処分できるので追加費用を取られない場合もあります」(高橋)

思わぬところから出てくる「へそくり」にもご注意を

このほか、気を付けたいのが「へそくり」です。高齢者は、電子機器が苦手で、紙幣をタンス預金として持っていることが多く、思わぬところから金品が出てくることがあるといいます。

「貴重品が置いてあるエリアのほか、飾り棚や和ダンスの引き出し、額縁の裏など、注意して見てください。なかには台所にへそくりを隠している方も多く、新聞紙に現金が包まれていたこともありました。一見ゴミに見えるものも、都度確認しながら片付けることが大切です」(高橋)

こまごました引き出しを整理しておくと値引き交渉もしやすい

小田さんと高橋さん

これまでの事例を振り返る小田さんと高橋さん(撮影/あべあさみ)

遺品整理作業はポーチ1つ分だけでも中身を仕分けるのに時間がかかります。いるもの、いらないものを分別するだけでなく、地域に合わせたゴミの処分方法を調べるのも一苦労です。

プロへの依頼を検討するにしても、インターネットで検索して出てくる多くの会社のなかから優良な業者を見つけることは難しい現状があります。なかには高額な報酬を請求するなど悪徳業者も存在します。どのように適切な依頼先を見つけたらいいのでしょうか。

「行政と仕事をしている業者は、信頼度が高いと思います。例えば、私たちは行政から資源ゴミの回収を請け負っています。何か不手際があると、その仕事ができなくなるんですよ。そう考えると、『一般廃棄物収集運搬許可』資格の有無は、業者選びをする上で判断材料のひとつになるかもしれません(高橋)」

「インターネットで検索上位の会社に遺品整理をお願いしたら追加料金を取られそうになった」と、途中から片付けトントンに再依頼がきたケースもあるそう。いずれも、業者に依頼する際は、相見積もりを取ることが大切です。

しかし、人生でかかわる機会の少ない遺品整理。プロに依頼した場合の価格相場が分かりません。一体いくらするものなのでしょうか。

「部屋の広さ=金額というわけではないのですが、部屋が広いとそれだけ物をためこんでいる可能性があるので、処分費用や作業費が高くなるケースが多いですね。平均値を答えるのが難しいですが、家族で住むマンション一戸であれば、30~40万円程度だと思います」(小田)

「仮に価格交渉をするとしたら、私たちの場合は引き出しの整理が終わっていたり、『1カ月後に片付いていればいいから、好きなタイミングで入って』と家の合鍵を渡していただいたりすると、お値引きさせていただくケースはあります。前者は作業費が減りますし、後者はほかの作業の間を縫って片付けを進められるので」(高橋)

なお、遠方から遺品整理を依頼する場合でも、基本的に立ち会いが必要なのだそう。出てきた品物が大事なものかどうか確認するためだとか。「結果的に、その方が互いの滞在時間を短縮できる」といいます。

本人とコミュニケーションがとれるうちに生前整理を

過去に片付けてきた現場の資料

過去に片付けてきた現場の資料(撮影/あべあさみ)

遺品整理は、若い人がいるならどんどん声をかけて、一緒に片付けてもらうのがポイントです。

「生前に大切にしていたモノを見ると、片付けが辛いと思います。コレクションなどたくさんのモノがある場合は、一番気に入っていた物だけを残すなど工夫しましょう」(高橋)

高橋さんは重ねて、「親が亡くなる前にコミュニケーションがとれる状態なら、話をしたほうが気持ちも前向きになれる」とアドバイスします。

「相手がいなくなると質問もできなくなりますから、『捨てていいのかな』と迷いが生まれます。コミュニケーションをとると、意外に話が弾むこともあるかもしれませんし、声をかけてみてほしい」(高橋)

「高齢者の方は、床がきれいに片付いていればつまずきにくくなってケガもしにくいでしょう。とはいえ、一度手に入れたものを捨てにくいという心理は理解できます。でも、仮に自宅が賃貸だったら、大量の物を置くために家賃を支払っているのと同義だと思うんです。やはり、整頓して限られた物の中で暮らすほうが暮らしやすいのではないでしょうか」(小田)

いつかやってくる実家じまい。突き詰めると、親子のコミュニケーションの大切さが出てくるんですね。とはいえ、なかなかそれが難しい方もいるでしょう。焦らずに、第三者であるプロの手を借りるのもいいかもしれません。

取材・編集:小沢あや(ピース株式会社)
原稿協力:結井ゆき江
撮影:あべあさみ

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