Fさんは、子育て世帯に人気の流山市で、駅から徒歩10分以内という好立地の住宅街にお住まいを建てました。間取りは4LDK、建物面積118m2というお家で、現在、夫妻とお子さん1人、猫ちゃんと暮らしていらっしゃいます。
建物は断熱等級6にあたるUA値0.46W/m2・K(※1)、C値0.15cm2/m2(※2)、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)では★5つに該当します。これはHEAT20のG2(※3)、断熱等級6にあたり、次世代のスタンダードというべき住まいです。
夫妻の家づくりのきっかけは、2020年のコロナ禍でした。
「2019年に婚約して、2020年5月に挙式予定だったのですが、コロナ禍で延期することになりました。まるまる時間が空いてしまったので、先に家を建てようという話になったんです。はじめはどこから手をつけるか、想像もつかなかったのですが、家づくりの勉強会で講師から『家は性能。高気密・高断熱が大事』『省エネ等級』といった話を聞きました。そこで、『家に性能があるんだ!?』と目からウロコが落ちたというか。興味が湧いて突き詰めたくなったんです」とFさんは話します。
そこからFさんは家づくりにのめり込んでいったそう。もともと、大学院でウレタンフォームの強度を調べる研究をしていたこともあり、断熱の大切さについてはすんなりと腹落ちしたとのこと。ただ、高気密・高断熱の家を建てようと方針を決めたものの、なかなかよい工務店・ビルダーと出合うことができず、苦戦したといいます。
「はじめに参加した家づくり勉強会でも、高気密・高断熱の家を希望するのであれば、依頼先が重要だよといわれていました。だから土地よりもまず会社を探したのですが、4社~5社あたっても、理想とする会社と出合うことはできず。高気密・高断熱であればなんでもいいわけではなく、デザインや間取りのうえでも、妥協したくなかったので」とFさん。
また、同時進行で、土地もリサーチ。子育て世帯に人気の流山~吉川は、そもそも土地での分譲が少なく競争が激しいもの。中古住宅や競売、行政による保留地販売などにも広げて、情報を収集していました。
「ちょうど行政の区画整理事業による土地分譲を目にしたので、よさそうだよねということで応募しました。希望者多数だったので抽選になり、福引きみたいな大きなガラガラを回したら、『1番』で『当たりました』と(笑)。多分、一生分の運を使い切りました」と笑いながら話します。
ほぼ同時期、近所で完成見学会に足を運んだところ、高気密・高断熱に注力していて、設計の自由度、デザイン、予算感も「すべてがちょうどよい工務店」と出合いました。土地分譲のスケジュールの都合上、プランニングにかけられる時間は1カ月程度と、かなりのタイトスケジュールとなりましたが、無事、契約の運びとなりました。
Fさんが依頼した工務店では、基本仕様として断熱パネル(屋根・壁・床ともに硬質ウレタンフォーム、100mm)、窓(樹脂またはハイブリッド)、玄関(寒冷地仕様)、換気は全熱交換器(※4)が決められていました。ただし、間取りや設備については自由度が高く、設備については大手メーカーのショールームも参考にと出向き、最終的に決断したといいます。
※4:給排気の熱交換器によって、室内の排気する空気の「熱」を活かしたり、吸気する外気温を調整しながら空気の入れ替えをしたりする機械
「最も考えたのは窓ですね。YouTubeで専門家が発信している動画を見て勉強しました。およその間取りがでてきたところで、建物の表面積と窓の面積が算出できるので、自分で熱貫流率をいろいろと試算しました。サッシはハイブリッドにするか、樹脂とするか、ガラスは複層、さらにガス入りのトリプルにするか、リビングのメインのもっとも大きな窓だけ樹脂にするとか、パターンをいくつか設定して。で、すべての窓を樹脂サッシにしてトリプルガラスにするという試算もしたんです。当然、樹脂サッシ、トリプルガラスにした方が性能は良くなりますが、コストに対して思ったよりも性能の向上が見込めず、メリットを感じにくいな、と。結局、標準となっているハイブリッド窓でいくことにしました」とその理由を明かします。
自作で計算式を作り、熱貫流率を算出することについてはむずかしいことではないとFさんはいいますが、窓にこだわる理由をこう話します。
「窓は熱橋(※5)になってしまいますし、非常に重要な場所だな、と。それに開発職なので、計算とかは苦ではないんです。強度の試算、実験のために部材をいくつ用意するとか、数字を裏付けるためにどれだけ実験すればいいか、統計的にどうするといいとか。結果的にかなり早い段階で標準設定されている窓や玄関、断熱材が信用できるなと思いましたし、窓、玄関ドア、断熱材、空調換気のセットが、よくできているなと関心しました」とFさん。
※5:建物のなかで熱が伝わりやすい、逃げやすい場所のこと。ヒートブリッジともいう
また、建物の気密(C値)についても、工務店を探す際に実測値がどれくらいかをくまなく調べていました。徹底した研究肌というのか、自分でリサーチ、試算してみて、工務店の担当者と相談し決定するというのは、まるで開発のプロセスのよう。F邸では、C値を実際に測定し、0.15という脅威の数字(通常、1.0以下で高気密といわれます)を叩き出していますが、もちろん、Fさんもこの実測に立ち会ったそう。
ちなみに、工務店の担当者に聞くと、「以前は立ち会いたいと言われることはなかったですが、現在、気密測定をすると、3棟に1棟くらいは施主が立ち会います」とのこと。世間的に断熱や気密への関心が高まっていることがうかがえます。
建物の引き渡しは2022年12月。住まいは第一種空調換気が採用されているため、常に強制換気されていて、窓を開けることがなくとも快適だそう。暮らしてからほぼ1年半が経過しましたが、冬は寒い、夏は暑い・蒸し蒸しするといったことはなし。そういえば、リビングの一角に猫ちゃんのケージとトイレがありますが、しっかりと換気されて空気が入れ替わっているため、匂いはまったくしません。
「1階ほぼワンルームとして使っていて、扉は1枚しかありませんが、常時開放しています。エアコンは各部屋に1台ずつ設置していますが、基本的には夏は2階のウォークインクローゼットのエアコンを、冬は1階のエアコン、どちらか1台をつけっぱなしにしています。いわゆる『F式エアコン全館冷房』(※6)です。普通のエアコンを使った全館空調で空気が自然に循環するため、部屋のどこかが暑い、寒いということはなく、どこも一定の温度と湿度が保たれています。お風呂から上がったとき、一瞬、湿度が上がるくらいですかね」と言います。
※6:高気密・高断熱な家の性質を利用して、少ない電気代で家じゅう丸ごと除湿するという方法
こうしてエアコン1台で容易に温度と湿度管理ができるのは、高断熱・高気密住宅だからこそ。隙間の多い低気密な住まいや、断熱設計がされていない低断熱な住まいであれば、熱が逃げてしまう・反対に入ってきてしまうことがあり、とうていエアコン1台で除湿や冷暖房はできません。
現在、どの部屋にもスイッチボットの温度湿度計を置き、温度と湿度を管理していますが、どの部屋もおよそ湿度60%以下、温度も差がプラス・マイナス1℃程度だといいます。反対に困ったのは、外出先の湿度について過敏になったこと。
「一年目の冬は少し乾燥するかな?というのはありましたが、本当に快適です。家のなかが快適過ぎて、外出先で少しでも湿度が高いと、『あ、蒸し蒸しする…!多分湿度75%くらいだな』とか、わかるようになったことでしょうか」と笑います。普段、暮らしていると意識しない温度や湿度ですが、可視化されたり、体感していると、「心地よさ」がわかるようになるのかもしれません。
第一種空調換気の機械が天井にあるため1階のリビングダイニングの天井高は2m50cm、近年の天井高からするとやや低めではありますが、カーテンを埋め込み式にしたり、下がり天井や間接照明を上手に採用することで、数字以上の高さや広がりを感じる設計です。
「カーテンの天井付け、机や棚などは、こちらからリクエストを出し、施工してもらいましたし、和室の天井やロールスクリーンなどを提案いただくなど、けっこう『なんとかして~』という無茶振りにも応えてもらいました」(夫)
また、照明の電源とスイッチボットを組み合わせて、すべての電源は音声で操作可能。特別高い機器を使わず、普通のダウンライトやシーリングライトを音声で操作可能、低コストで思い描いたスマートホームにもなっています。住まいを建てた夫妻は現在30代で、子育て真っ最中ですが、将来のことを考えて食事からお風呂、トイレ、寝室まで揃っていて、1階で生活が簡潔できる間取りもお気に入りです。
「入居して1年半経過しましたが、ああすればよかったね、ということは今のところひとつもありません。納得できたというか、やりきった感はありますね」(Fさん)
最後に、これからの住まいについてこう話してくれました。
「これから家を買う人、建てる人は、断熱や気密について勉強したほうがいいと思います。そもそも家は高価なものですが、性能を考えて高気密・高断熱にすると若干、価格は高くなると思うんです。でも、光熱費や自分たちの健康を守るものだと思えば、かける価値は絶対あると思います」
必要な断熱・気密にはお金をかけつつ、オーバースペックにならないように、コストは微調整する。また、勉強すればするほど、納得した家づくりができる。研究肌のFさんらしい話には、説得力があるなと痛感しました。