Presented by ルミネ
サステナブルバトン5

ロス食材からペット用おやつを考案。山本麻実さんと愛犬の穏やかな暮らし

ペット関連のサステナブルなライフスタイルブランド「mellowbear」を立ち上げた山本麻実さん。フードロスになる食材を活用したペット用おやつなどが口コミで広がり、取り扱い店舗やコラボ商品なども増えています。自然豊かな瀬戸内海で犬と一緒に育った経験が起業の原点と言います。会社員をしながら起業した経緯や、ブランドに込めた思いについて伺いました。
いのちをいただく食の大切さを感じて。環境活動家・深本南さんが注目するジビエ 日本古来の山野草から、里山の可能性を広げたい。日本草木研究所の古谷知華さん

●サステナブルバトン5‐10

郷里・瀬戸内海の豊かな自然が原点

――2022年に立ち上げたペット関連ブランド「mellowbear」は、どのようなコンセプトなのですか?

山本麻実さん(以下、山本): フードロスの食材を活用したペットのおやつをはじめ、愛犬とのサステナブルで穏やかな日常を提案するライフスタイルブランドです。「フードロス削減」、「無添加」、「ヒューマングレード」の3つの柱を大事にしています。ありがたいことに少しずつ口コミで広がり、今日お邪魔したこちらのカフェ「アリサンパーク」さんほか、お取扱いいただく店舗も京都や広島、沖縄まで少しずつ全国に広がってきました。

オンラインで販売もしており、今回この連載のバトンを繋いでくださった深本南さんがファウンダーである「ELEMINIST」のECサイトでも扱っていただいています。南さんのことはずっと環境活動家として憧れていて、mellowbearの活動を通じてお会いすることができ、イベント出店に誘っていただいたり、森に入り鹿の生態系について一緒に勉強させていただいたりしています。 そういったありがたいご縁のおかげでいまのmellowbearがあります。

――ブランド名にもある“mellow”には、どんな思いを込めたのですか?

山本: mellowbearとは、今日一緒に取材を受けさせていただいている私の愛犬mellow(以下、メロ)が小さい頃からのニックネームです。英語の”mellow”という言葉には、ゆったりと穏やかな、落ち着いていて、柔らかい夕陽のようななど、様々な意味合いが込められています。私は愛媛県今治市出身で、まさにゆったりと穏やかな瀬戸内海のそばで小さい頃から愛犬と一緒に育ちました。上京して初めて気づいたのですが、離れてみて瀬戸内海からたくさんインスピレーションをもらっていたんです。さまざまなことが起こる毎日の中で、愛犬におやつをあげる時間って本当に尊い時間で、愛犬の嬉しそうな表情がすごく可愛くて癒やされるんです。愛犬と過ごす特別な時間が、みなさんにとってもゆったりと穏やかなものであればいいなあと思い、mellowbearという愛犬の名前をブランド名にしました。

瀬戸内海で愛犬とピクニック=2023年5月、愛媛県今治市(本人提供)

――なぜ、ペットに特化したブランドにしようと?

山本: はじめからペットに絞っていたわけではなく、いつかソーシャルビジネスで起業したいという気持ちはあったのですが、自分は何ができるかなと、ずっと模索していました。

幼いころから自分でクッキーを作るのが大好きで、学生時代は毎日のように作ってはクラスメートや部活の仲間におすそ分けしていました。もちろん無添加。その延長線上で、メロにも無添加のおやつを作ってあげていたんです。というのも犬用のおやつは雑貨扱いのため添加物などの規制がゆるく、より安心できるおやつをあげたいと思って。自分が愛犬に作っているおやつを、フードロスの食材を活用して無添加で作ったら、もしかしたらみんなが喜んでくれるのではないかと思ったんです。

フードロスの食材、入手に困難も

――起業して軌道にのるまでにはご苦労もありましたか?

山本: 起業セミナーなどに参加したこともなく、全て手探りで始めたのでたくさん失敗もしました。そんな私が一歩踏み出せたのは、「こういうことを始めようと思っている」と話すと、周囲のみんなが後押ししてくれたからです。たとえば犬友達の俳優さんは、ブランドが始まる前から雑誌での対談企画などを組んでくれました。「mellowbear」をはじめてしばらくは、会社員とのWワークでしたので時間も限られ、商品企画や製造、発送、ポップアップの準備なども最初は慣れないことばかりでした。

特にフードロスの食材を入手することには苦戦しました。自分としてはいいアイデアだと自信を持って、自作のチラシを片手に近所の商店街のお店に「フードロスの食材があったら購入させて欲しい」とお願いして回りましたが、ほとんどから断られました。心が折れそうになっていた時に、ある八百屋さんが「使っていいよ」と破棄するお野菜を譲ってくれはじめました。そのお野菜とマグロを使って作った「お魚のせんべい」をイベントに出品したら、わんちゃんたちの反応もすごく良くて、とっても嬉しかったです。

また、かつての同僚がやはり飲食関連で起業し「タラの皮が余っているんだけど、使えるかな?」と連絡をくれたことも。それが定番商品の「スケトウダラのネジネジトリーツ」につながりました。 商品を開発するたびに試食係長として品定めをしてくれるメロと、不器用な私にいつも手を差し伸べてくれるみなさんに感謝の気持ちでいっぱいです。

――やりがいを感じるのはどんなときですか。

山本: イベントへ出店するたび、自分が手がけたものを喜んでくださる方がいるということがとても嬉しく、やりがいがあります。お客さんがわんちゃんにおやつをあげると、わんちゃんだけではなく飼い主さんの笑顔も見られて幸せな気持ちになりますし、さまざまなフィードバックもいただけて楽しいです。

SNSでもたくさんの方々の愛犬との日常の一コマが垣間見られ、そんなふうに日々の生活にmellowbearが寄り添えていると思うと嬉しい気持ちでいっぱいです。始めてからもちろん大変なことはたくさんあったのですが、この2年半を振り返ってみると、大変だったことは何故か思い出せなくて、楽しかったこと、嬉しかったことばかりが印象に残っています。

また、無添加、ヒューマングレードというコンセプトに共感してくださり、京都で120年以上続く無添加おだし「うね乃」さんとは、だしがらを活用したペット用「お魚のふりかけ」を共同開発させていただきました。 釆野夫妻も愛犬家で、今では家族のような付き合いをさせていただいております。愛犬がつなげてくれるご縁って本当に不思議です。

POPUPを始めた当初の様子=2022年6月、東京・代々木上原(本人提供)

――小さいころから社会課題に関心があったのですか?

山本: 小さい頃から自然の中にプラスチックがあることに違和感を感じていました。学校帰りにごみをポイ捨てする友人に注意したり(笑)。父は家の中の家具を手作りしていたり、母も洋服をたくさん作ってくれたりしていたので、今思えば、いろいろなものを自分の手で作るというルーツがある家庭で育ったように思います。母が高校生のときに父に編んであげたセーターはいまだに現役で、それを私たち子どもが受け継ぐなど、物を長く大事に使うことが当たり前だったんです。

また、母が食事に気を使ってくれたことは、いま思うと本当にありがたかったです。家で育てたとれたての野菜を使った無添加で愛情たっぷりなご飯が私のルーツになっています。大学に進学してからは帰省するたびに瀬戸内海のゴミ拾いをしていたんですが、拾っても拾っても減らないゴミを見て、これは別のアクションをしないといけないなと思ったことが、mellowbearの構想のきっかけにもなっています。

小さな一歩を無理なく続けて

――起業に興味を持つ人は少なくないと思いますが、実現するにはどうすればいいと思われますか?

山本: あまり悩まず、まず小さいことでも始めてみることで自信になったりするのではないかと思います。仮に小さな失敗をしたとしても、自分以外は誰も気にしないと思うんですよ。私自身、「mellowbear」を始めてからはあまり悩まないように意識しています。悩みって、だいたいは自分の経験値の範囲内で心配したりする不安から来ていると思うので、悩んでも結局はやってみないとわからないと、思ったからです。悩む代わりに「じゃあ、どうすればいいんだろう」とか「何をすればハッピーを感じていただけるだろうか」と、一つひとつ具体策を出して進めていくようにしています。

起業に限らず、続けるって大事ですよね。たとえば、犬の排泄物も田舎だったら自宅の庭や田んぼに埋められるけど、都会のマンション暮らしだとペットシートを使ったりしてゴミとして処理するしかありません。「これはダメ。あれもダメ」とがちがちに考えを固め過ぎず、「いまの自分の環境でできる最大限のこと」を意識して日々改善していけたらいいかなと考えています。

――今後注力したり、チャレンジしてみたいことは?

山本: もっとフードロスの食材を活用したおやつを増やしていきたいですし、無添加にもこだわり続けたいです。人は自分で食べものを選べますが、ペットは飼い主が与えたものしか食べられません。人よりも身体が小さな犬は、食事が身体に与える影響は大きいです。安心して与えられるおやつを作り続けるために、生産者さんに直接会いに行き、食品製造会社にも働きかけていきたいです。

とはいえ、廃棄される食材の切れ端をいただきたくても、企業側の保管や輸送の手間など、 ハードルはたくさんあります。課題を一つひとつ紐解きながら、「mellowbear」としてフードロスを減らしていければと思っています。駆除され廃棄される鹿肉を活かしたおやつに加え、今後は猪肉なども活用してみたいです。 タラやカツオだけでなく、名前も知らない普通なら廃棄されてしまうような魚も積極的に活用したいですね。せっかくいただいた命をつなげていくことができると嬉しいなと思います。販売だけでなく五感で感じられるような体験の提供もいつかチャレンジしたい……など、やりたいことは尽きません。

――最後に、山本さんにとってサステナブルとはなんでしょう?

山本: サステナブルは、持続させる、長続きさせるという意味の単語ですから、小さいことでも環境にとって「これは正しい」「これが役に立つ」と自分が思うことを無理なく続けていくのがいいと思います。

京都の「うね乃」さんを訪問したとき、完全無添加のだしを初めて食べた人の多くは、一般的なだしより薄味に感じるのだと聞きました。それは、刺激の強い添加物に味覚が慣れているためであり、無添加の食事をしばらく続けると自然と味覚が整い、本来のおだしの味で十分に満足できるように戻るんです。だしの豊かな風味を楽しめるようになれば、自ずと醤油などの調味料を追加するといった足し算は少なくなり、環境にも自分の身体にも、お財布にも優しくなります。手間と時間をかけながら、完全無添加を貫く老舗の姿勢に感銘を受けましたし、そうした丁寧なものづくりに学び、自分なりに実践することがサステナブルな未来へとつながっていくのかなと思っています。

「mellowbear」を始めたときは、一気にいろんなことがガラッと変わる、変えていける!と意気込んでいたんです。でも、実際には一歩ずつしか進めないんだなって。ですから、私と同じようなジャンルで起業をする人が増えたとしても、競合他社というよりは同士という捉え方なんです。1が10、さらに100となれば、いつか100×100=1億にもなりますよね。そんなふうに仲間が増えれば、サステナブルで心豊かな未来が叶うんじゃないかと期待しています。

●山本麻実(やまもと・あさみ)さんのプロフィール

1991年、愛媛県今治市生まれ。無添加の素材にこだわった料理上手な母に倣い、3歳からクッキーを作り始める。高校の時の、オーストラリアへの留学をきっかけに、地球温暖化対策や多様性の重要性について考えるように。大学進学に合わせて上京。 都内のIT企業等で営業職を経験しながら、2022年、「mellowbear」を起業し、24年6月に独立。都内のマルシェなどで定期的にポップアップを展開するほか、公式サイト等でオンライン販売を行っている。

いのちをいただく食の大切さを感じて。環境活動家・深本南さんが注目するジビエ 日本古来の山野草から、里山の可能性を広げたい。日本草木研究所の古谷知華さん
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
わたしと未来のつなぎ方