第76回 特にPerfumeに関心がない人の『COSMIC EXPLORER』幕張ライヴ評
このブログでは以前、Perfumeに興味のない知人女性に無理矢理映画「WE ARE Perfume」を見せたエントリーを書きましたが、ご存じでしょうか。
今回はその第2弾として、ほとんどPerfumeに関心のない友人男性をライヴに無理矢理誘いました。
◇Let Me Introduce...
友人はこんな人です。
・アーティストマネージメント、レコード会社、プロモーターなどでキャリアを重ね、音楽業界を知り抜いている
・クラブDJとしても長年活躍しており、音楽知識も幅広く豊か
・超有名どころを含めて、数多のDJやミュージシャンとも親しい
・私とは10年前に仕事で知り合った。このブログの存在も知っている
・Perfumeは、CMタイアップなど〈メディアで流れる曲〉がなんとなくわかる程度
・ライヴに向けては、一切の予習をしていない
・山中湖のフェス「SWEET LOVE SHOWER」に山下達郎さん目当てで行ったとき、Perfumeも出演していたが、Perfumeの時間は場内アトラクションの気球に乗っていた
よりによって気球って……私がいなければ、彼とPerfumeのライヴは未来永劫、接するポイントはなかったでしょう。はたしてどうなるか!
◇幕張初日 MCダイジェスト
かしゆか「幕張はワンマンでは初めて。フェスでは出たことあるけど、ああいうときは大抵、最前列には〈次のアーティスト待ちでーす〉の人がいる(※いかにもつまらなさそうな再現芸あり)。もちろん好きなアーティストを最前で観たい気持ちはわかる! でも、今日は全員がPerfumeファンなんだよね!」(※私の友人を除いて)
あ~ちゃん「ゆかちゃんは、いてくれるだけでええんよ」
か「ありがてぇ~ポジションじゃ」
あ「ライヴはね、ホントは90分くらいがちょうどいいんよ! でもファン・サーヴィス(Fan service)の女たちだから、そこはもうがんばっちゃう」
あ「この写真、寮の食堂で撮った奴」
のっち「二重跳び1回だけできるよ!(再現すると、飛んだ後身体が深く沈み込む)」
あ「(P.T.Aのコーナーにて、カメラ収録が入っていない日だけできるという)ミッキーー! ミニーー!! しまった手足がこんがらがって間違……バズ・ライトイヤァーーーッ!!! 無限の彼方へ、さあ行くぞー! 飛んでるんじゃない、落ちてるだけだ!」
か「名言出た!」
の「ゆっくり間違えた」
あ「会長に夢を託されました、マディソン・スクエア・ガーデン2DAYS」
の「じゃあ3人でワンオク風のジャンプしよう! みんなも飛んでね!」
ワンオク風ジャンプとは pic.twitter.com/XYUNklgRvw
— matome (@eight88888) 2016年6月17日
◇P.T.Aのコーナー
今回、とある曲が「P.T.Aのコーナー」で使われていますよね。誰もが耳にしたことがありそうなあの曲で、ライヴではみんな楽しそうに踊っています。
実はこの日のライヴに来てもらった友人、まさに当時あの曲に関わったスタッフなんですね。それを昔から知っていたので、このツアーは彼に観てほしかったのです。
「P.T.Aのコーナー」であの曲のコール&レスポンスが始まると、彼が「まさかこの曲とは……」と呟いて、しめしめ、してやったり!と思ったのです。
終演後、どこであの曲だと気付いたか尋ねたら、
「(あ~ちゃんの)最初のステップの取り方でもう気付いていた」とのこと……えっその時点でわかるんだ!? さすがは元スタッフ。そしてあ~ちゃんの再現度がそれなりに高かったということですね。
◇キミは何を思うの
幕張メッセ初日のライヴが終わりました。この日のライヴ、大きな会場の一発目でありながら、ダンスのグルーヴ感も、音響も、会場の一体感も申し分なかったです。長いPerfumeの歴史でも、いまが心・技・体でもっとも充実している時期なんじゃないか?と感じる程の出来でした。徳島のミラクルはまぐれでもなんでもなかったのです。
そして彼に感想を訊くと、開口一番出てきたのはなんと……
「圧倒的な多幸感」でした。
これが凄く意外で、彼のキャリアからすれば、まずは楽曲のクオリティーや音響、演出や構成といったテクニカルな部分から言及されるものと思っていました(そもそも、彼は現行アイドル・ポップスにそこまでハマるようなタイプでもありません)。
そしてこの〈多幸感〉、宇多丸さんやピエール中野さんによるPerfumeライヴ評と、まったく同じポイントです。
↑『GAME』がオリコンチャート1位を獲得したことを知り、多幸感に包まれる宇多丸さん
それぞれ異なるルートやメソッドや信念をもって、人生における音楽の在り方を突き詰めて、それを生業にしている人たちが、揃いも揃って〈Perfumeライヴの多幸感〉を大きな魅力として挙げるところに、やっぱりそこが核心なのか、と思わざるを得ません。
↑広告写真ですら〈I♥Perfume〉Tシャツを着用するピエール中野さん
友人の人生において、仕事と関係なく、アイドルのライヴに行くことはほぼないでしょう。そして彼の、音楽への並ならぬ思い入れをよく知っている(つもりの)私にとって、その賛辞は驚きでもあり、やっぱPerfumeチームすげえなって感じでもありました。
彼のライヴ評は続きます。(※曲名は出していませんが、ネタバレギリギリな表記もありますので、ライヴ未見の方はご注意下さい)
・全体的に素晴らしい
・圧倒的な多幸感を少なくとも4回感じた
・1曲目の時点では、こういうクールな演出で最後まで見せ切るのかと思ったら全然違って、人間味に溢れていた。あれは好きになる人が多そう
・ライヴ中に楽しめる部分がたくさんあって、それぞれが魅力的。生身のパフォーマンスだけでなく、ディスプレイの映像がそれを補完して完成する曲もあって、最初それに気付かなくて悔しかった
・あのディスプレイに映る映像の綺麗さは普通じゃない。4Kで撮影しているのだろうか? 普通は映像の赤みや青みが強調されてしまうので、ライヴで流す用にあのクオリティーの映像を作れと言われたら、頭が痛い
・音響は、最初かなりキツかった。全体の音が潰れているうえに高音域が耳に痛い。これは困ったなと思ったが、最初のMC以降は一気に改善されて、PAの技術に驚いた
・360度からお客さんに見られるあのステージは、メンバーにとって気が抜けないもの。負担にもなるだろうし、本当はあまりやりたくないかもしれないが、ダンスを裏側から見られるような趣向はファンには嬉しいだろう
・ステージ上での打ち合わせも、舞台裏を見せているようでファンは喜びそう
・「(曲名、ネタバレ)」が特に良かった。〈まったく踊らない〉という振付でも、それ以外の要素でもって成立させているのが凄い
・曲がどれも凄く良くできている
・ダンスでいちばん難しいのは、(動きを)止める技術だと思っている。Perfumeはそこがずば抜けている
・ライヴの見せ方として、すごく挑戦しているのが良い
・途中でダレるかな、と事前に思っていたけど、見せ場をバランス良く配していてそれは杞憂だった
・私が全国各地のライヴを観に行ったり、どうかしているブログを書いていることにも合点が行った
友人は〈良いものは良い〉というフラットなスタンスなので(その分、いい加減なものには手厳しい)ある程度おもしろがってもらえるかな?とは予期していましたが、私とは違う(=私には見えていない)見方で、ここまで高評価のポイントが出てくるとは思っていませんでした。
◇Let's Groove
時系列が前後しますが、ライヴの翌日、友人からメールが来ました。
・メンバーみんなリズムの感じ方が後ろ目、重めだから(ダンスが)しなやかに見えるのかも。意図的にそう見せているのかはわからない
・もともと個々が持っているリズム感もありながら、ドラマーが敢えてコンマ数秒後ろのところを叩くことでグルーヴを重くする、的な
・なので僕の中ではPerfumeのダンスはジャズ寄りではなくロック
もしかすると楽器の演奏やDJを経験していない方にはあまりピンと来ない表現かもしれませんが、これがつまり〈グルーヴ〉の認識です。このブログでもときどき表記していましたが、そういえば説明などは一切していませんでした。
グルーヴは、日本語では〈ノリ〉なんて訳されますね。人間が楽器を(ソロでも合奏でも)演奏すると、たとえどんなに上手い人であっても、ほんのわずかにリズムのズレや、音量の変化が生じます。人間の耳は、その揺らぎを心地良く感じるのです。その揺らぎから生まれる、演奏のダイナミクスをグルーヴと呼びます。
グルーヴの基礎は、ドラムとベースです。友人のメールにあるように、ドラマーがジャストなタイミングよりほんの僅か遅れて(これを〈溜める、タメを利かせる〉とか言いますね)ビートを刻むことで、聴いている人には重たさや迫力、引っかかりを感じさせることができます。
↑せっかくですし、もう一度貼ってみました
一方で、カラオケボックスのバックトラックを考えてみて下さい。どの楽器(というかパーツ)も、リズムはきっちり正確で、音量もすべて一定をキープしているはずです。でもそのいかにも機械的な正確さって、音楽としては味気なくありませんか?
ヤスタカのトラック……つまりPerfumeの楽曲の場合も、それぞれの要素を完全にぴったり揃えるのではなく、ほんの少しリズムをずらしたり、音量のメリハリを与えている(はずです)。ここから生まれる躍動感こそが、グルーヴです。
↑グルーヴを感じるならこれ!という曲に悩みましたが、やっぱりこれでしょう!
グルーヴィーな音楽は聴く人を楽しませて、身体を動かしたり、踊りたくなります。演奏に、そして音楽に重要なのは正確さではなく、グルーヴです。ちなみに徳島でみんなで踊った阿波踊りの魅力も、グルーヴ感にあります。
ただし難しいのは、グルーヴの認識は誰でもできるとしても、それを生み出せるかはまったく別の問題です。演奏が物凄く上手なメンバーでバンドを組めばすぐに最高のグルーヴが出るかというと、まったくそんなことはありません。
グルーヴを生むために、当然技術は不可欠ですが、それ以上に演者たちのリズム感や呼吸、相性や好みといった曖昧な要素に大きく左右されます。そのうえで地道な練習やライヴを重ねる必要もあるでしょう。えてしてグルーヴは人と人の関係や、鍛錬の中でこそ生まれます。
察しの良い方なら、僕が何を言わんとしているかお判りでしょう。
このブログで、Perfume3人の〈関係性〉の話はほとんどしていませんが(それはどうしても空想・妄想の範疇を出ないため)、この〈演者たちのリズム感や呼吸、相性や好み〉のアンサンブルが抜群だからこそ、そしてそれを小学生の頃から3人+MIKIKO先生で追求し続けてきたからこそ、Perfumeのダンスには他のどのグループとも違うグルーヴ感があります。これは断言できます。
かつてMIKIKO先生はTV番組で、「Perfumeの振付で心掛けているのは〈形の美しさ〉と、〈その中でのグルーヴ感〉」と語っていましたが、まさにいまのPerfumeは心・技・体ともにそれを最高のレベルで実現できている、充実した時期だと思います。
〈Perfumeとグルーヴ〉の話はいつか必ず書きたかったので、友人ありがとう! しかし音楽ファンがグルーヴのマジックに魅せられてしまうと、友人や僕のように何千枚もCD(友人はレコードも)を買っても止まらず、理想のグルーヴを追求し続けてしまうので、くれぐれもご注意下さい……。
◇Fan service [Bitter]
さてグルーヴ話で脱線しましたが(でもいちばん書きたかった部分)、終演後に一通り賛辞を述べてくれた友人が「でもさ、良い意見ばかりを聞きたくて呼んだ訳じゃないでしょう」と一言。待ってました。
「全体的には素晴らしいが、あえて言うなら……」ということで、以下、友人が呈した苦言です。
・生のヴォーカルを被せている曲と、そうではない曲があったが、生歌を被せている曲は歌の音量のバランスが取れておらず、正直きつかった
・特に終盤がもったいなかった。最後から2曲目(曲名は「A」とします)でも生のヴォーカルを重ねていたけど、決して揃って上手というわけでもないので音程が不安定だし、先述したヴォーカルそれぞれの音量の問題もあった。ベースの軽さも気になったし、いかにもアイドル・ポップな曲調もちょっと……これはもちろん好き嫌いの話だけど
・最後の曲も歌い上げ系を持ってきていたが、「A」と同様に音程のズレと音量のアンバランスがあった。それでも、観客が全員で大合唱していれば感動したと思うが、別にそういう雰囲気でもなかった……
・個人的に、トラックとヴォーカルの全体的なバランスは、もっと歌を前に出してもいいように思った。逆に、生の歌を重ねる時はマイクの音量は下げてほしい
・楽曲の作りがまったく同じものがふたつあった。メロディーやアレンジは変えてみせているけど、構成は完全に同じ
・セットリストの構成も難しいと思った。どれも曲は凄く良いが、ダンス・ミュージックをそれなりに聴いている人でなければ、全部の曲が同じに聞こえてしまわないか?(※これは私の認識だと、すべてを〈テクノ〉か〈テクノ・ポップ〉で括っている人も少なくないと思います。しかしこの日、いわゆるテクノは1曲もありません)
以上、私が常々思っていることもあれば、思いもよらなかった指摘もあり、やっぱりプロの意見ですね。繰り返しますが、「ライヴ全体は素晴らしいが、あえて言うなら」という指摘ですよ!
また、苦言ではありませんが「メンバーが〈歌詞を書きたい!〉とか言い出したりしないのか? そういうときはどうするのか?」という質問をされたので「あ~ちゃんが一時期そう言っていたが、ヤスタカはまったく聞き入れなかった」と伝えました。
◇Point
とまあ幕張メッセ近くのお蕎麦屋さんで散々話し合ったのですが、友人の結論として、以下の内容が述べられました。
・今日のライヴでいちばん良かったのは、〈ネタバレなので控えます〉を使って3人がポーズを取るシーン
・何より3人が可愛い。それは顔やスタイルだけの話じゃなくて、所作や愛嬌も含めて。やっぱり愛嬌が何よりも大切だと思った
友人よ……いや、もはや同志!!
彼がふたたびPerfumeのライヴを観る機会があるかはわかりませんが、そのときはこの話の続きがあるかもしれませんね。
さあ、そして今日は幕張メッセ公演の2日目です! 楽しんでいきましょう!!