鉄道会社が挑戦するマーケティング変革、また9割のLP離脱ユーザーをCVにつなげるには

コロナの影響から回復傾向にある今、さまざまな企業で新しいマーケティングのチャレンジが加速している。2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」大阪講演から、南海電気鉄道の中尾敏康氏、Algoage(以下、アルゴエイジ)の成田穂高氏のセッションを紹介。リアルがビジネスのベースとなる鉄道会社によるデータ活用の効果や、離脱ユーザーを効果的にCVにつなげる手法について紹介する。

リアル中心のサービスを、デジタル・データ利活用で変革させる

南海電気鉄道のDX推進本部長兼IT推進部長・中尾氏は、新中期経営計画「共創140計画」に盛り込まれたDX戦略について紹介した。同社は2025年で 創業140周年を迎える、純民間資本による日本最古の鉄道会社。大阪・難波を拠点に、南大阪・和歌山を中心として駅数105、路線全長169.1kmを含め、「運輸」「不動産」「流通」「レジャー・サービス」といった多数の事業を展開している。

DX戦略においては、デジタル顧客接点の構築と、それを基軸にしたマーケティング戦略の策定、新価値創造をめざしている。事業とブランドを両輪として機能させるための体制を築き、リアル中心のサービスをデジタル化し、そのデータの利活用によりビジネスを変革するとともに、それまでリアルが中心だったブランディング・広告宣伝のデジタル化を推進することをミッションとしていると中尾氏は話す。

写真 リージョナルサミット2024冬(大阪会場)

DX推進本部に紐づく体制は、デジタル顧客接点、ポイントサービスであるminapita、データ利活用を担う「データマーケティング推進部」、IT基盤、ITガバナンス、情報セキュリティを担う「IT推進部」、ブランディング、広告宣伝を担う「ブランド統括部」の3部となっている。

データ活用を4つのフェーズに分け、自社の状態や課題を把握

マーケティングへのデータ利活用が本格的に始まったのは2021年。分析に関心がなく未活用だった当時をフェーズ1として、部分着手のフェーズ2、活用促進のフェーズ3、高度化・全社活用のフェーズ4という段階を設定している。

各フェーズの概略を説明すると、フェーズ2は、分析したいという気持ちはあるものの、リテラシー不足、人材不足により、部分的なデータ整備や部分的に簡易分析などができている程度の状態を指す。フェーズ3は、分析はおこなえているが意思決定には活かしきれていない状態で、データ活用目的の不明瞭さ、目的の浸透不足を課題としている。分析レベルとしては全社プラットフォームやデータ連携の自動化などができている状態だと設定している。そして高度化・全社活用ができているフェーズ4は、さまざまな分析を実施し、意思決定にデータが使えている状態を指す。この段階になれば、あらゆるデータが統合され、全社員が活用可能な環境になっていると考えている。

どのようなデータを収集すべきかの検証に最も時間をかけた

現在、フェーズ2から3へと進んでいる南海電気鉄道のDX化は、DX推進本部が流通や鉄道営業など、事業部門とデータ利活用プロジェクトを立ち上げて推進するスタイルをとっている。

写真 リージョナルサミット2024冬(大阪会場)

その一つは、ショッピングセンターを運営している「流通部門」。ショッピングセンターは、小売業ではなく、店舗に場所を貸すリーシング事業であるため、直接の販売データを持っているわけではない。現状は、店舗支援・販売促進をするためのKPI確認に4つのシステムが必要であり、データ抽出に時間がかかり、分析の時間を十分に確保できていないという問題があった。ミーティングが必要な場面に際し、担当者が個別に収集して分析するような状態だったのだ。そこで、まず店舗支援をするためにどのようなデータがあったら良いかを検討。実は、この検討に最も時間をかけたという。建物への来場数、レジの稼働数、単価といったデータはもちろんのことだが、それよりも解像度の高い、フロア別の来場者、リピート率といった施設から店舗にアドバイスができる数値をも把握できる仕組みづくりを推進した。

データを把握できるから、顧客に対してより良いサービスが提供できる

また、「鉄道営業部門」では、例えば『高野山・世界遺産デジタルきっぷ』のようなお得な企画切符の販売促進において、過去の実施内容を踏襲し、売上のみで効果検証をしてきた。それを、乗降データ分析による「現状把握」、アンケート調査やアクセス解析による「詳細分析・施策検討」、紹介ページへの導線強化やGoogleリスティング広告を活用した「施策実施」「効果検証」によって、チケット総数は昨対比約30%増、デジタル切符の割合は前月比約15%増という結果を出した。

加えて、お客さまを中心に据え、「移動」も一つのサービスであるという顧客起点モデルへの変革を推進するために、事業全体でのマーケティングに取り組み始めている。これまで鉄道は100年にわたり、「移動」を中心に、「住む」「働く」「学ぶ」「訪れる」ことを整備してきた。しかし近年、生活様式は一変しており、それに対応した事業モデルの実現を目指すものである。

写真 リージョナルサミット2024冬(大阪会場)

すでに効果は表れ始めており、南海電気鉄道が提供するポイント「minapita」において、アプリの利用状況やminapitaの会員売上を統合させ、それに鉄道乗降データ調査や沿線ショッピングセンターの売上調査を組み合わせることで、一人ひとりの利用客の行動が見えるようになった。次は、これをいかに活用し、顧客が満足できるサービスへとつなげていくか。フェーズ4へ差しかかろうとしている。

デジタル広告で無駄となっている9割こそ「宝の山」

DMMグループの子会社であるアルゴエイジの執行役員・成田穂高氏は、デジタル広告における9割の離脱ユーザーを効果的にCVにつなげる手法について紹介した。アルゴエイジでは成果報酬型のチャットボット「DMMチャットブーストCV」を運営している。LP離脱時にポップアップを表示してユーザーをLINEに誘導し、LINE上でコミュニケーションをとりながらインサイトなどを探り、ウェブページへ再誘導するというものだ。グーグルの調べ(2024年)によると、現在、デジタル広告の9割が無駄になっているという結果が出ており、そのうち動画広告が25.5%、ディスプレイ広告が28.7%、検索連動型広告が39.9%、成果報酬型広告が2.7%、その他3.2%。CVに至るのは、リスティングでは30人に1人、ディスプレイでは100人に1人という割合だそうだ。

写真 リージョナルサミット2024冬(大阪会場)

ちなみに、リスティングでの成功率はEC2.81%、教育3.39%、金融保険5.10%、不動産2.47%、ディスプレイではEC0.59%、教育0.50%、金融保険1.19%、不動産0.80%と、なんとも低い割合だ。また、ファーストビューの離脱率は70%以上ともいわれている。そのような状況下では 、CVしていないクリックを不必要だとするか宝の山とみ るかで、その後の成果が大きく変わることとなる。「良いマーケターほど、CVしていないクリックを宝の山だと理解し、CVしていないクリックから示唆を抽出して、マーケティングのPDCAを回すビジネスに生かしている」と成田氏は語る。つまり、それまで不必要だとゴミ箱に行っていたものが、日々の活動に光を照らしてくれる存在になりうるのだ。

LINEを活用したゼロパーティデータが有効

アルゴエイジのDMMチャットブーストCVは、2つの目的を掲げている。1つは、離脱している9割のユーザーをCVにつなげること。2つめは、CVしていないユーザーを深く理解することで、新たな示唆につなげることだ。1つめの離脱している9割のユーザーに対しては、DMMチャットブーストCVの導入により5~10%程度のCV数増が見込まれ るという。また2つめのユーザー理解については、「N=1理解がすべて」だと成田氏は考えるが、それには通常、1対1の対話でインタビューする「デプスインタビュー」や、アクセス解析ツールなどを使った「ログ分析」が必要となる。ただし、デプスインタビュー、ログ分析はそれぞれ、長所もあるが短所もあり、その差が極端なことが懸念される。具体的には、デプスインタビューはユーザーのインサイトを深く探ることができるが、数を集めるのが難しかったり時間がかかったりする。ログ分析は、数を集めるのに強いため 回帰分析などがしやすく、重要アクションを把握することができる一方で、深いインサイトは掴みづらい。これらに対し 、LINEを活用したゼロパーティデータであれば、量も質も担保できるうえ、LINEに対しての回答なのでインサイトが掴みやすく、「デプスインタビューとログ分析のいいとこどりができる」と成田氏は提言する。

写真 リージョナルサミット2024冬(大阪会場)

インサイトをもとに効果的なシナリオを作成

たとえば、オンラインピル処方サービスにおいて、ピルの服用に関するインサイトを探るとする。LP離脱ユーザーをLINEに誘導し、LINEでコミュニケーションをとるなかで、ピルの服用未経験者に対しては、服用の目的を「避妊」「生理トラブル改善」の2軸にわけてニーズを探り、さらにはコミュニケーションのなかで「ピルが自分の体に合っているか不安」「安心できるサービスで安く処方してほしい」などの気持ちが浮かび上がってきた。また、服用経験者に対しては、重視する軸を「効率面」「金銭面」にわけてコミュニケーションをとる中で、効率重視派においては「手軽にピルを続けたい」という要望から、「今後もピルは継続的に飲んでいきたいが、病院に行くことがとにかく面倒。オンラインサービスなら毎月の待ち時間や予約も不要だから、手軽に続けていけそう」という-インサイトを、価格重視派においては「より安い価格で処方してほしい」という要望の奥に、「ピル切れのため、即日処方希望。隙間時間に受信でき、最短翌日発送のオンライン診療なら自分にピッタリ」というインサイトをくみ取っていくことができた。導入した当初は、服用未経験者より服用経験者のほうが多いと想定し、服用経験者に向けたシナリオを作成する予定だったそうだが、インサイトを導き出したところ、服用未経験が6割、服用継続中が2割、過去に服用経験ありが2割という結果となり、服用未経験者が意外と多いことが判明した。このことから、服用経験者と未経験者の両者を考慮したシナリオを、それぞれのニーズをもとに作成するという。

離脱ユーザーにさらに踏み込んだ施策を

今後について「離脱ユーザーにもう少し踏み込みたい」と話す成田氏。

写真 リージョナルサミット2024冬(大阪会場)

現在はインサイトの掛け算でクライアントへのデータ提供を行っているが、WHO(ターゲット)とWHAT(何が必要か)をより詳細に掛け合わせた形でデータ提供ができるようにしようとしている。WHO(ターゲット)については、年齢や居住地、いつの回答結果か、流入経路などで、WHAT(何が必要か)となるのが顕在的なニーズと潜在的なインサイトだ。今後はそれぞれの掛け合わせで可視化されていく離脱ユーザーのデータを、より解像度高くクライアントに還元していくことで、DMMチャットブーストCVが日々のマーケティング活動に光を照らす存在になれればと抱負について語り、登壇を締めくくった。

お問い合わせ

株式会社Algoage

Webサイト:https://chatboost.dmm.com/cv/

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