乳腺外科医に再び無罪判決 手術後のわいせつ 差し戻し審で東京高裁
手術後に女性患者の胸をなめたとして、準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の関根進被告(49)の差し戻し審で、東京高裁(斉藤啓昭裁判長)は12日、無罪とした一審・東京地裁判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。
関根医師は一審の無罪の後、高裁で逆転有罪とされたが、22年に最高裁が有罪判決を破棄し、審理を高裁に差し戻していた。
関根医師は2016年5月、東京都内の病院で胸の腫瘍(しゅよう)の摘出手術をした後、ベッドに寝ていた女性の胸をなめたなどとして起訴された。一貫して無罪を主張した。
弁護側は、麻酔からの覚醒などに伴って起きる意識障害「せん妄」の影響で女性が幻覚を見た、と主張。女性の胸から医師と同じDNAが検出されたが、検査手法などに「信頼性がない」と反論した。
一審・東京地裁はせん妄の可能性を認め、DNAは手術前の打ち合わせなどで医師の唾液(だえき)の飛沫(ひまつ)がついた可能性があるとして、無罪を言い渡した。その後、東京高裁がせん妄を否定して懲役2年の逆転有罪としたが、最高裁は22年、この判断が不合理だとして有罪判決を破棄し、高裁に審理を差し戻した。
差し戻し後の審理ではDNAに関する検査の信頼性が争点になった。
一審の無罪に「誤りない」
事件では、鉛筆で書かれた検査の資料が消しゴムで修正された跡があり、弁護側は「検査者として不誠実」だと批判していた。
この日の判決は「検査手法に問題はなく、科学的証拠として認められる」と指摘。だが、検査結果については、地裁と同様に「唾液の飛沫などが付いた可能性がある」と判断した。検察側は、検出されたDNAの量の多さから「飛沫ではなく、なめた際に付着した」と主張したが、判決は「検査結果には誤差がある」などとして退けた。
そのうえで「女性は幻覚を体験していた可能性が否定できない」とした一審の無罪判決に誤りはない、と結論づけた。
判決後に会見した医師は「判決は当然で何の疑いもない。医療の不確実性を前提に、医療者側も患者側も守られる仕組み作りが必要だ」と語った。弁護団は「遅すぎる無罪判決だ。通常の診療行為が2年の実刑を宣告された衝撃はいまも癒えない。1日も早く、医師を刑事手続きから解放すべきだ」とするコメントを発表した。
東京高検の伊藤栄二次席検事は「判決内容を十分に精査し、適切に対処したい」とのコメントを出した。
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- 【視点】
当時、全国の多くの医療者が冤罪だと声をあげていた事件です。世の中には信じられないようなわいせつ行為をはたらく人間もいます。ですが、私も外科病棟や術後の麻酔回復をさせるリカバリー室での勤務経験がある看護師の視点からコメントをさせていただくと、
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