世界経済に「暗雲」 世銀、今年の経済見通しで警告

アンドリュー・ウォーカー、BBCワールドサービス経済担当編集委員

Dark clouds over US Capitol

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世界銀行は8日に発表した世界経済見通しで、世界経済には「暗雲が立ち込めている」と説明し、拡大するリスクを警告した。

今年の世界の経済成長率は2.9%と、昨年6月時点の3%から0.1ポイント下方修正。来年は2.8%になるとみており、成長がやや鈍化するとの予測を示した。

しかし、おおむね好調の見通しを懸念が上回っている状況で、下方修正した成長率にも達しない可能性がある。

報告書には良いニュースもあった。世銀のエコノミストは、経済成長は鈍化するものの、その落ち込みは「軟着陸」になるとみている。減速は昨年半ばから始まっているが、今のところ「秩序のとれた」減速を維持しているという。

今後さらに減速が続くと予想されるのは主に富裕国、特にアメリカだが、ユーロ圏や日本に比べれば、アメリカは今後も速い成長を続けると世銀はみている。

アメリカの成長鈍化はドナルド・トランプ大統領による減税政策の効果が薄れてきたことが原因で、同国の成長は昨年の2.9%から、2021年までには約半分の1.6%まで落ち込む見通しだ。

ギアチェンジ

中国では2010年ごろに始まった経済成長の減速が続いているが、新興市場や発展途上国での成長はペースを上げると予想される。

中国は1980~2010年にかけて10%の経済成長を維持していたが、2021年までに6%となる見込みで、これは中国経済にとって大幅なギアチェンジを意味する。

今回の経済見通しの主著者、フランジスカ・オーネゾルゲ氏はBBCの取材に対し、「中国では、これまでより長期的に安定した成長を目指し、政策主導で非常に慎重に、意図的に成長減速が行われている」と説明した。

世銀は向こう数年間、世界経済全体でもこうした緩やかな減速がみられると予測している。しかし、複数のリスクのため、予測した通りにはならないかもしれない。

その懸念が、今回の経済見通しの「Darkening Skies(暗雲立ち込める空)」というタイトルに反映されている。

いくつかの暗雲は、おなじみのものだ。

国際的な商取引はすでに弱体化しているし、米中貿易摩擦を筆頭に様々な貿易紛争も大きなリスクのひとつだ。

アメリカと中国は世界の2大経済国だ。世銀は、両国が昨年新たに導入した関税によって、世界貿易の2.5%が影響を受けたとの試算を発表した。さらに、提案された追加関税が実施されれば、影響を受ける割合は倍になるとみている。

US and China export containers

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報告書は、米中が経済保護策を強化する危険性はなお高く、それが世界の2大国の経済活動を低迷させると懸念を示す。

特に中国の成長鈍化は、工業製品やエネルギー、金属などを大量消費する中国に輸出している途上国にとって問題になる。

オーネゾルゲ氏は、米中は世界貿易の2割、世界全体の域内総生産(GDP)の4割を占めていると指摘する。もし両国の経済が打撃を受ければ、「世界中でその影響が出る」という。

世銀は両国の景気が後退するとは予測していないが、アメリカが来年にもその方向へ向かう可能性があるとする声もある。ただしそれは、世界的な不況のリスクが急激に高まった場合だ。

報告書によると、世界不況発生の年間リスクはこれまで7%だったものの、アメリカ経済が下降すれば、その可能性は50%まで上がるという。

ブレグジットのリスク

金融市場も世界経済にとってのリスク要因だ。市場混乱の可能性は高まっている。アメリカでさらに政策金利が上がったり、米ドルが急上昇したりすれば、新興国や発展途上国に影響が出るだろう。

世銀の予測では、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)は特に、欧州への輸出に依存する国にとってリスクになる可能性がある。イギリスが欧州連合(EU)との合意なく離脱した場合、英・EU双方が大きな経済的打撃を受ける可能性があり、その余波は東欧や北アフリカにも及ぶという。

世銀の比較的前向きとも言える見通しの中でも、一部の発展途上国に対する評価は悲観的なものだった。世銀は正に、こうした国を助けるために存在している。

こうした国々の約3分の1が、先進国の生活水準に「追いつく」ために必要な国民1人当たりGDP成長率を確保できていないという。

さらに、サハラ以南アフリカの国民1人当たり成長率は1%未満で、貧困撲滅で大きく前進するには不十分だと世銀は指摘している。