キヤノン御手洗氏、ナノインプリント装置はEUVより「1桁」安い
古川有希、望月崇-
業績への影響は未知数も、大手顧客が導入なら株価上昇との見方も
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88歳の御手洗氏は今年の総会で賛成率急落、「世代交代常に考える」
キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)は10月に発売したナノインプリント技術を搭載した半導体露光装置の製品価格について、極端紫外線(EUV)露光装置と比較してかなり低額に抑えられるとの見方を示した。
御手洗氏は都内の本社での先月のインタビューでナノインプリント装置の特長について、「EUVに比べて全然安い。1桁違う」と述べ、「存在価値が非常にある」とした。具体的な社名の言及はしなかったが、半導体メーカーでは「期待してくれているところがたくさんある」とも述べた。
半導体の微細化に欠かせないEUV装置の供給は、現時点ではオランダのASMLホールディングが独占。ただ同装置は1台200億円程度と高額で、導入企業は限られている。ブルームバーグのデータによると、同社の顧客には台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子などが含まれる。
一方、ナノインプリント装置はウエハー上のレジストに回路パターンを刻み込んだ型をハンコのように押し付けて回路を形成する方式を採用。1回で回路が形成できるため、製造コストや消費電力の削減にもつながるという。
キヤノンは2025年に売上高4兆5000億円以上、営業利益率12%以上を目指している。そのためには稼ぎ頭のプリンター・事務機や祖業のカメラだけに頼らない事業ポートフォリオの構築が急務となっており、ナノインプリント装置を含むインダストリアル事業では2025年まで年平均成長率(CAGR)10%以上を目指す。
ジェフリーズ証券の中名生正弘アナリストは10月18日付のリポートで、現時点ではナノインプリント装置の業績寄与やASMLやニコンへの影響といった点を検討するには時期尚早だが、半導体メーカーの選択肢の一つに今後入ってくると思われると指摘。大和証券の木野内栄治テーマリサーチ担当も19日付リポートで、同装置の導入について「TSMCが検討」などと報じられれば相場になるとの見方を示した。
御手洗氏はキヤノンのナノインプリント装置で、今まで高額なEUV装置を買えなかったメーカーから新たな需要があるのではないかと想定する一方で、「ASMLをひっくり返そうなんて大きなことは考えていない」と述べた。
実力主義
今年3月の定時株主総会では、御手洗氏の賛成率が50.59%と前年の75.28%から急落した。取締役選任案で5人全員を男性としたことが影響したとみられ、同社は9月、経営体制の一層の強化を図るとして元消費者庁長官の伊藤明子氏を取締役候補にすると発表した。
御手洗氏は女性登用の動きについて、「国家としてやるという理由は分かる。女性の登用は私も賛成」と述べた。一方、御手洗氏が重視しているのは実力主義で、性別や国籍、学歴などは「関係ない」とも述べた。
9月に88歳を迎えた御手洗氏は、一時的に退いていた時期を除き累計で18年近く社長を務めている。自身の進退については「世代の交代は社長の責任だから常に考えている。ちゃんとした後継者が出てくればもちろん世代交代はしたいし、しないといけない」と述べた。時期や後継者に求める資質についてはコメントを控えた。
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