自民党の杉田水脈(みお)衆院議員(比例中国)が、交流サイト(SNS)で差別的な言動を繰り返している。たがが外れ、開き直った態度に思える。

 きっかけは、杉田氏が2016年に自身のブログなどでアイヌ民族などを侮辱した投稿を、札幌法務局が人権侵犯と認定したことだろう。アイヌ文化を学び、発言に注意するよう「啓発」もした。

 その後の発言をたどれば、杉田氏の主義主張がより明確に伝わってこよう。「私は差別をしていない」と過去の発言を正当化し、人権侵犯の認定制度すら批判した。

 法務局の判断は妥当だ。落選中の投稿では、スイスであった国連女性差別撤廃委員会の会合の参加者を「アイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」「同じ空気を吸っているだけでも気分が悪くなる」と書き込んだ。

 民族の尊厳を否定しただけではない。差別を助長し、再生産する行為だ。現に投稿が国会で問題視されると、インターネット上で便乗した差別や誹謗(ひぼう)中傷の投稿が飛び交った。権利保護を訴える少数者に深刻な恐怖を与え、声を上げづらくさせた罪は重い。

 19年に施行のアイヌ施策推進法は、アイヌ民族の誇りが尊重される社会を目指し、差別や権利の侵害を禁じた。杉田氏は責務を全うするどころか理念を踏みにじる。

 このブログ投稿が原因で、22年12月に総務政務官を更迭された。杉田氏は謝罪、撤回したものの、記者団に「真意がなかなか理解されないことがあった。差別をしているわけではない」と述べた。

 典型的なレイシズム(人種差別主義)の主張も見える。先ごろ、アイヌ文化振興事業に公金不正流用の疑惑があるとした上で、関係者を「公金チューチュー」とやゆした。この事業では10年に不適切な執行が一部あったが、その後は適正という。差別がないのに不当な要求で利権を得たという事実誤認の主張が土台にあり、差別をあおる。

 アイヌ民族が苦難を受けた歴史を学び直すべきだろう。もともと北海道を中心に、狩猟やサケ漁で暮らしていた固有の民族である。明治政府が一方的に日本人への同化政策を進め、土地の権利をはく奪した。開拓を目的に日本本島から移住者が急増し、アイヌの人々への差別が強まる。

 戦後の日本政府は少数民族の存在を公に認めず、国内外の批判を受けた1991年になって、ようやく国連人権規約に基づく少数民族だと認めた。経済や教育格差が解消されなかったのも当然ではないか。施策推進法はアイヌ文化の振興を進める一方で、アイヌの人々が求める先住権の規定はない。歴史認識に踏み込み、権利保護の議論を深める段階にある。それこそ国会議員がすべき仕事である。

 自民党は野党議員だった杉田氏を2017年、21年の衆院選で、比例中国の単独候補にして当選させた。一連の差別的な言動は議員辞職に値し、少なくとも今後の党公認はあり得まい。党総裁である岸田文雄首相は、不問にしてはならない。