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【石川】同人誌の星 愛され復活ッ 被災「スズトウシャドウ印刷」

2024年11月7日 05時05分 (11月7日 11時47分更新)

会社の被災状況や復興への思いを語る平野真由美さん=石川県珠洲市上戸町北方のスズトウシャドウ印刷で

 同人誌印刷で業界などで名の知れた石川県珠洲市上戸町北方の印刷会社「スズトウシャドウ印刷」は、元日の能登半島地震により、存続の危機に陥った。日本が誇るポップカルチャーの一端を担ってきた同社が、全国からの支援を受けて再起へ向けて奮闘している。(高橋信)
 戦後間もない時期に創業した印刷会社。「オタク」文化の興隆を見越し、1980年代から同人誌印刷に力を入れてきた。複数色を重ねて印刷する「多色刷り」を安価で手がけることができたことから、業界で知られるようになり、近年は注文の8割が同人誌だという。国内最大級の同人誌即売会にブースや広告を出していて、一風変わった社名も、サブカルチャーに造詣の深い人たちはなじみが深い。
 同地震では印刷機などの機材が壊れた。1月7日に大阪市であった漫画などの即売会に向けて同3日が仕事始めの予定だったが、会社周辺は停電と断水に見舞われた。仮に印刷できたとしても発送手段もない。入稿済みの顧客への対応に頭を悩ませ、状況を交流サイト(SNS)で発信したところ、全国の印刷業者が仕事を代わりに請け負うと名乗り出てくれた。

熟練職人残る 白紙のテスト製本 完売

 幸い、従業員はほぼ全員が残ってくれた。何物にも代え難い熟練の職人たちに役員の平野真由美さん(48)は「職人さんが珠洲を離れるなら、会社はやめるしかないと思っていた」。長期休業は離職の可能性が高まる。経営状態が元に戻る見通しは立たないが、4月に操業を再開した。
 営業再開を前に、印刷や製本のテストとして白紙の本を作り、SNSで報告したところ「売ってくれないか」との申し出が多数あった。販売用に白紙の本と同様の「能登半島地震復興応援ノート」を作ったところ数百冊が1日で完売。「予想もしていなかった」と目を丸くする。
 地震以降、「支援したい」と全国から新規の注文が入っている。平野さんは「皆さんに応援いただいているので、新しい縁も大事にしながら、復興することを信じてできることをやっていきたい」と語った。

ポストカードにデザインを提供した中野武生子さん(左)ら=石川県珠洲市上戸町北方のスズトウシャドウ印刷で

若いころお世話になった会社の方に
県ゆかりの漫画家ら 12人がポストカード

 スズトウシャドウ印刷の復興を応援するポストカードが登場した。石川県ゆかりの12人のアーティストが、能登半島地震で傷ついた同社をもり立てようと、作品を無償で提供した。企画したのはイラストレーターの中野武生子(たいこ)さん(47)。従業員と知り合ったことをきっかけに、漫画家を目指していた中高生のころに憧れた同社の力になりたいと知人のアーティストに声をかけた。
 漫画家や彫刻作家、加賀友禅作家らさまざまな分野の12人。同社の売りだった「多色刷り」なども駆使し、各作家の作品を印刷した12枚のポストカードセット(税込み2千円)を作った。利益は同社の復旧費用や被災地支援に使うという。
 中野さんは「参加した仲間には、スズトウシャドウ印刷で同人誌を作った人もいて、中高生のころにお世話になった会社の力になれる日が来るんだと不思議な気持ちでいる」と話した。
 同人誌即売会などで販売したほか、同社のオンラインストアでも購入できる。

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