編集委員(前中日新聞教育支援事務局長) 東條仁史(とうじょう・さとし)
1991(平成3)年、中日新聞社入社。20代は四日市、豊田支局で事件・事故や市役所を担当。その後は名古屋、東京の経済部、政治部で自動車産業、金融、財政、自民党、首相官邸担当などを歴任。ニューヨーク特派員時代は、トランプ政権の誕生を経験した。経済担当の論説委員として社説も執筆。2022年から2024年8月まで「文章の書き方」講座などを担当した。
ビジネスでレポート(報告書)を提出する機会は多いですよね。研修の成果、商談や出張先でのやりとり、トラブルが発生した際の対応など、社内外の関係者と情報を共有して効率的な業務遂行に役立てるには、書き方のコツがあります。
このコラムでは、新聞記者の文章術を活用した報告書の書き方を、例文つきで提案します。コンパクトな文章で読者に訴えかける記者のテクニックを体得すれば、上司の目に留まり、評価される報告書を作成できるようになります。是非、参考にしてください。
研修を受けた後の報告書を例にとります。
冒頭のタイトルは必須項目ですよね。研修の名称、日時、開催場所、講師名、出席者などの概要を記載し、続いて具体的にどのようなプログラムで何を学んだか、詳細を説明します。ここまでは客観的な事実に基づいて書きます。最後は主観を入れ、感想、研修で得た知識・知見をどう仕事で生かすか、などを所感(所見)としてまとめます。
会社によってスタイルはさまざまだと思いますが、このような構成が一般的です。
例文を作成してみました。
【タイトル】
管理職を対象にした人材育成セミナーへの参加報告書
【概要】
・研修名 「部下をどう育て、やる気を引き出すか」
・日時 2024年●月●日
・開催場所 名古屋市中区●●●
・参加者 営業第2課長 中日太郎
・講師 株式会社●●社の●●●氏
・目的 幹部社員の指導力強化につなげること
【詳細(具体的に学んだこと)】
まず、社員を「人財」と捉える考え方について学びました。次に、部下の得意な分野を知ることに努め、あら探しをせず上手に叱ることで、若手社員のやる気を引き出すことの重要性も知りました。最後に、定期的に個別面談をして勤務してみたい部署や将来の希望をしっかりと聞いた上で、公平・公正に人事評価をする仕組みについても説明がありました。
【所感(所見)】
働き方が見直される中、管理職の接し方・指導方法次第で、社の未来を担う若手・中堅社員の成長スピードも変わるのだと、責任の重さを痛感しました。個別面談を想定したワークは実践的で大変、参考になりました。今後は部下とのコミュニケーションをこれまで以上に大切にして、チーム力の強化に努めていきたいと考えております。
「新聞記者ならこう書く」という視点を入れ、項目ごとに例文の修正例を示していきます。
タイトルと概要は、報告書の入り口です。例文のタイトル、概要を読めば「いつ、どこで、どのような目的で行われた研修に、誰が出席したのか」という基本要素は分かります。その意味では及第点です。ただ、多くの出席者が似たような書き方をするので、埋没してしまうでしょう。忙しい上司に冒頭で印象づけるため、タイトルを新聞の「見出し」のイメージで書くことをお薦めします。
見出しは、単なるタイトルではなく「究極の記事の要約版」です。書き手が何を伝えようとしているのか、核心にひと言で迫るキーワードといえます。
以下のような感じになります。
いかがでしょうか?
働き方改革が進み、多くの管理職の方々が部下との接し方に悩む中で「自分流の指導・育成法をセミナーで身につけた」というメッセージ性をにじませた形です。当初、タイトルにあった文言はサブタイトルの位置づけにしました。二段構えにすることで、視覚的にも読み手を引きつける効果を期待できます。字数や体裁に厳格なルールがあれば別ですが、提出者の裁量に任されている場合、このようなアピール法にトライしてみてください。
詳細は、新聞でいえば見出しに続く「記事本文」に相当します。例文は、セミナーで取り上げられたテーマを順番に説明する形になっています。
このように、時系列に淡々と書き連ねるとメリハリがなく、読み手の記憶に全く残らない、という事態に陥りがちです。説明調が続くと、そもそも読みにくい、というデメリットもあります。多数の要素で構成される記事を書く場合、記者は「ポイント」「要旨」を表でつけ、以下のように文章と連動させて分かりやすくまとめます。
例文の修正点を解説します。
上段の「ポイント」欄に学んだテーマを箇条書きでまとめ、学習した具体的な要素をコンパクトに書き添える構成としました。新聞が読者目線で意識する「見やすさ、読みやすさ」を参考にしてください。
新聞には、記者の主観を入れた「解説」がニュースとセットで掲載されることがあります。このニュースにはどのような意味があるのか、記者の分析力が発揮される記事です。報告書の中では「所感」も似たような位置づけで、評価者(上司)が最も重視するところではないでしょうか。
単なる感想文で終わらせては、物足りないと思われてしまいますね。
例文は、セミナーを受けて業務にどう役立てるのか、という肝心のところで具体性に欠ける上、全体として総花的な書き方になっています。
下記のように修正してみました。
新聞は「最も重要なこと、伝えたいこと」から書き始めます。
この報告書の所感の場合は「セミナーで何を学び、今後の業務にどう活用するか」ですね。
2つの文で、端的に書きました。それを受けて、具体的にどのような面談にするか、という点を詳細に記載します。
ここで、冒頭のタイトルとも連動性を持つ形になります。
短い報告書では、あれもこれもと複数の要素にふれるより、重点ポイントを絞った方が説得力、信頼性が増します。
これで、項目ごとの修正は完了しました。
では、当初の例文と比べるとどのように変化したのか。修正した例文の全体を示します。
【タイトル】
【概要】
・研修名 「部下をどう育て、やる気を引き出すか」
・日時 2024年●月●日
・開催場所 名古屋市中区●●●
・参加者 営業第2課長 中日太郎
・講師 株式会社●●社の●●●氏
・目的 幹部社員の指導力強化につなげること
【詳細】
学んだことのポイント
・「人財」育成の視点を生かす
・部下の得意分野を探す
・三つ叱って五つ褒め
・個別面談で使える傾聴のスキル
・公平公正に評価する
上記のテーマに沿い、講義では具体的に
①部下のあら探しはせず、長所を伸ばすことに主眼を置く
②面談で成果に対する本人の自己評価、異動希望などを把握して適正な人事評価につなげる
ということを学んだ。
【所感(所見)】
社員を「財産」と考える意識改革の重要性について、深く学べました。セミナーでの実践ワークを活用し、部員との個人面談の運営・内容を大幅に見直します。これまで不定期でしたが、本年度から半年ごとに全部員と面談します。業務の達成度を数値化して共有し、勤務したい部署を第三希望まで聞きます。若手自ら、キャリアプランを描きやすくなるような仕組みにします。
新聞記事は、取材に基づき記者が読者に届ける「報告書」といえます。ですので、ビジネスシーンで皆さんが書かれる報告書と自ずと共通点があるのですね。
このコラムで解説してきたことをまとめると、以下の3つになります。
① 最も伝えたいこと、重要なことを最初に
② 表も使ってコンパクトに分かりやすく
③ 具体的に書いてこその説得力
しかし、いざ書くとなると「どうしたらいいのか」「文章は苦手」という方もいらっしゃると思います。
中日新聞社では、そんな方々のために、記者の文章術を活用した講座を用意しています。記者が執筆する際に活用する技術を学べるワークも充実しており、楽しみながら文章の書き方を学べます。
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