名車として数多くのサイクリストから愛されてきたフォーカスのIZALCO MAX。2024年モデルで第4世代へと進化を遂げたエアロオールラウンダーをインプレッションする。テスターを務めるのは小畑郁と高木三千成だ。



フォーカス IZALCO MAX

ドイツのフォーカスが誇るフラッグシップロード、IZALCO MAX(イザルコ・マックス)。その系譜は長く、際立った性能でいつの時代も注目の的だった。第1世代は2010年代半ばにAG2Rラモンディアルを支え、ロメン・バルデによるツール・ド・フランスのステージ優勝を達成。さらにフレーム重量750gという軽量性でヒルクライマーから愛されてきた。

2018年に登場した第3世代は、現在の主流であるセミエアロなオールラウンドディスクロードの草分けとして名高く、あらゆる方向で現代ロードの指標となってきた。

そんなIZALCO MAXが5年の時を経て、待望のフルモデルチェンジを果たした。開発目標は「史上最速のロードバイクを造ること」。様々な要素のブラッシュアップに加え、走行性能の根幹たるジオメトリーにも手を加え、レーサーが求める性能を実現するレーシングバイクとして正統進化を遂げている。

シートステーはシンプルにすることで剛性を確保している
フロントセクションはカムテールのチューブが採用されている
マッシブなフォークによって剛性を強化した



新型IZALCO MAXは、よりエアロで、高剛性で、軽量で、優れたハンドリングを持った一台として生み出された。特に現代のロードレーサーに求められるエアロダイナミクスについて、フォーカスはチューブ形状を最適化することで応えている。セミエアロフォルムに変化はないものの、翼断面形状の後端部を切り落としたNACA形状を新たに採用。さらにヘッドチューブはより滑らかに、ダウンチューブはボトル装着時のロスを最小限に抑えるデザインとした。

チューブ形状の洗練によって、新型IZALCO MAXは時速45kmでの走行シミュレーションにおいて前作に対し6.6Wの低減に成功。45kmの距離を同じ出力で走った場合、1分47秒のタイム差を生み出すという。

名車が揃うIZALCO MAXシリーズの最新作だ
専用開発のC.I.S. ACEステムでケーブルを内装する


オーソドックスな形状がクセのない走りを生み出す
カムテール形状のヘッド周りを採用し、剛性とエアロの両立を実現している



空力性能だけでなく剛性や快適性とのバランスも重要視されている。NACAカムテール形状のチューブは剛性向上にも貢献しており、BB周りは+15%、ヘッドチューブは+8%、重量剛性比では14.8%向上を実現。それでいながらフレーム重量はMサイズで865gと56gもダイエットした。

フォークの横剛性は先代比+16%、ブレーキ剛性は+26%向上し、コーナリングや制動時の安定性が増している。カムテール形状とボリュームアップにより重量は14g増の398gとなるが、フレームと合算すると42gの軽量化を果たした。

横剛性を高めたボトムブラケット周り
臼式のシートポストを採用し、カバーで覆う設計だ



ジオメトリーにも大きく手が加えられており、BBドロップを78mmから72mmへ減少。ヘッドアングルを立て、ホイールベースを短くすることで、俊敏なハンドリングと優れた加速性能を実現。エアロなチュービングとフレーム剛性の向上、ジオメトリーの刷新により、新型IZALCO MAXのレース性能は一つ上のステージへと上がった。

新型はリアのブレーキローター径が140mmに対応し、先代の160mmオンリーから改善されたことも大きな特徴。タイヤクリアランスは最大30mmを想定して設計されているため、現在のレーシングスペックタイヤの装着が可能だ。

国内モデルは、日本の専門工房での組み立てによるジャパンアッセンブリーで展開。本国ラインアップにはないパーツ構成で、シマノDURA-ACE DI2、ULTEGRA DI2、105 DI2の3種類のコンポーネントを搭載した3グレードを用意。上位2グレードはホイールの選択も可能だ。

各チューブをエアロにすることで、空気抵抗低減を狙っている
エアロ形状のシートポストを採用している
前方がくびれた形状のヘッドチューブ



なお、2024年の11月より選択可能なホイールのラインアップに変更が加えられており、マヴィック COSMIC S 42Dとフルクラム R400の2種から選べるようになっている。価格も改訂されているため、記事下部の一覧をチェックしてもらいたい。

モデルチェンジから約半年が経過した今、IZALCO MAXの実力を再び確認する。テスターを務めるのはなるしまフレンドのメカニックとして、そしてベルマーレレーシングチームの選手として知られる小畑郁と、シクロワイアード編集部の高木三千成だ。



ーインプレッション

「レーシング志向と手の届く価格帯を両立させた一台」小畑郁(なるしまフレンド)

「全体的に高い剛性で、ハイエンドモデルらしいレーシングバイク」小畑郁(なるしまフレンド)

ハイエンドモデルらしいフレームの反応性と剛性感が一踏み目から伝わってきました。フレーム全体の印象として、レーシングという特性が強く出ていて、たわみの少ない硬さを感じます。この新型IAZLCO MAXがピュアレーシングマシンとして設計されているのは明らかです。

全体的な剛性バランスは、オールラウンドな特性を持たせようとした意図を感じられます。前側、特にフォーク周りの剛性と後ろ側のバランスを取るために、全体的な剛性を高める方向で調整している。どういうことかと言えば、例えばリアステーを快適性のために柔らかくしてしまうと、そこだけが失調してしまってもたつきのあるフレームになってしまう。それを避けるために、全体的な剛性のバランスを取っているわけです。

パーツ構成も剛性に影響が出ているような印象もありました。専用ステムの剛性が高いからか、ハンドルから伝わる突き上げ感はレーシングバイクだなと思わせます。COSMIC S 42Dのホイールも巡航速度までスピードをあげると気持ちよく走れるのですが、登りだと存在感が伝わってきました。

「ハンドリングも非常にニュートラルな性能を備えている」小畑郁(なるしまフレンド)

レースで選手が乗っても不満の出ない剛性を持ちながら、必ずしも上級者だけのものではありません。現代のディスクブレーキ搭載車はワイドタイヤを装着できるようになっていますし、タイヤの空気圧調整で乗り味をかなり変えられるので、快適性はタイヤに任せられます。

ジオメトリーの特徴として、ヘッドアングルを極端に立てすぎない設計を採用しています。これにより、ハンドリングは非常にニュートラルな特性を持っています。軽快な動きを示すものの、決して行き過ぎることはなく、かといってもっさりした印象もありません。高速巡航時の挙動も非常に落ち着いていますし、ダンシングで登るようなシーンでもハンドリングは安定しています。特にギアを掛けて回すようなペダリングだと、非常に気持ちよく走れますね。

価格もこのバイクを語る上では外せない要素でしょう。昨今の相場感からすると、ハイエンドフレームが57万円というのは非常に魅力的です。完成車でもDURA-ACE DI2仕様が118万。この価格帯なら、完成車での購入にも大きな価値があります。

このバイクは明確なレーシング志向と手の届く価格帯を両立させた、非常に魅力的な選択肢と言えます。特に、しっかりとした剛性感のあるフレームを求めているライダーには、強くお勧めできる一台です。

「圧倒的な剛性感。パワーを余すことなくスピードに変えるマシン」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「圧倒的な剛性感。パワーを余すことなくスピードに変えるマシン」高木三千成(シクロワイアード編集部)

IZALCO MAXは剛性が高く、撓むことないフレームの存在感が印象的でした。カーボンの厚みを感じられるほどのどっしりとした「箱」に取り付けられたクランクを踏むような感覚があり、ペダリングに対してチューブがしなることが一切ない圧倒的な剛性感を味わえます。

ペダリングに対してフレームの反応は非常に素直で、ギアを軽く回すスタイルでも、重いギアで踏み込むスタイルでも、どちらでもフレームは受け入れてくれます。ライダーの期待通りの反応を返してくれる印象です。フレームがしなる前作と比べると今作では全体的に剛性が高められていて、よりレーサー好みのバイクになっていると思います。

現在のフラッグシップ級レーサーはあえてフレームがしなるように作っていて、そのしなりを活かした瞬発的な加速感を味わえるようになっているものが多いです。それらと比べるとIZALCO MAXの剛性感は掛けたパワーをそのまま推進力へと変換するような感覚があります。かなり高いパワーを掛けた時はわずかながらしなりを感じられたので、その反応を得たいのであれば、それなりの脚力が求められます。

高いフレーム剛性ゆえ、ライダーへのフィードバックもスパルタンです。長距離ライドで最後まで足を残したい場合は、ホイールやタイヤ、コックピット周りをしなやかなものに変更するなど、セッティングの工夫が必要かもしれません。

「性能が全体的に優れているので、どのような使い方もできる」高木三千成(シクロワイアード編集部)

加えて特徴的なのは、ホイールベースがやや長めで直進安定性が高いことです。ハンドリングはクイックというよりは、ややマイルドな特性を持っています。手放し走行でも安定感があり、自然に車体が前に進んでいく感覚があります。そのためサイクリングロードや巡航スピードの速いサーキットエンデュランスなどでも安定感を持って走れそうです。

圧倒的な剛性感を誇るバイクですが、試乗車にはチューブレスタイヤが装備されていたこともあり、不快な突き上げ感はなく、路面から弾かれるようなシーンもありませんでした。リアも砂利が浮いているような舗装でもしっかりとトラクションがかかってくれて、どのような場面でも安定して走れるような印象は受けました。走行性能の面ではどの点を考えても文句のつけどころはありませんね。

価格もDURA-ACE完成車で120万円を切るため、相当コストパフォーマンスは高いです。10年前の感覚でカタログを見ても納得できると思います。ホイールをハイエンドなレースモデルに変えてあげれば、より反応が良くなったり、乗り心地が良くなったりとさらなる性能の向上が期待できるでしょう。タイヤサイズも34cまで対応可能で、使い方の幅は広そうです。

性能のバランスが取れたバイクなので、レースにも対応できますし、サイクリングやロングライドを楽しむ人にもお勧めできます。

フォーカス IZALCO MAX

フォーカス IZALCO MAX
DUEA-ACE DI2+マヴィック COSMIC S 42D完成車:1,188,000円(税込)
DUEA-ACE DI2+フルクラム R400完成車:1,045,000円(税込)
ULTEGRA DI2+マヴィック COSMIC S 42D完成車:979,000円(税込)
ULTEGRA DI2+フルクラム R400完成車:836,000円(税込)
105 DI2+フルクラム R400完成車:759,000円(税込)
フレームセット:572,000円(税込)



インプレッションライダープロフィール

小畑郁(なるしまフレンド)
小畑郁(おばたかおる)
圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高い、なるしまフレンドの技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。2020年以来、ベルマーレレーシングチームの一員として国内レースを走る。

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なるしまフレンド HP


高木三千成(シクロワイアード編集部)
高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。



text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO、Naoki Yasuoka
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