『独身OLのすべて』作者・まずりんさんインタビュー「逃げるってそんなに悪いことじゃない」

mazurin

今回「りっすん」に登場いただくのは、マンガ家のまずりんさん。モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト「モアイ」で隔週連載中の『独身OLのすべて』では、一度見たら忘れられない個性的なキャラクターとともに、アラサー女性の本音をコミカルに描き人気を集めています。Twitterがきっかけで話題になったこともあり、見たことがある人も多いのではないでしょうか。

もともとは会社員として働きながらマンガを描いていたまずりんさん。マンガがヒットしたきっかけや、日々のネタ集めの工夫、会社を辞めて気付いたことなどを語っていただきました。

Webマンガ発のヒット作『独身OLのすべて』

まずりんさんの『独身OLのすべて』はTwitterで拡散されたマンガの先駆け的存在なのではないかと思うのですが、最初の作品を描かれたのはいつごろになりますでしょうか?

まずりん 2012年ですね。当時はデザイン会社でデザイナーとして働く普通の会社員でした。あるとき、『オモコロ』の初代編集長のシモダテツヤさんに、記事の感想か何かをリプライしたことがあって。それがきっかけで、「『オモコロ』でマンガを描かないか」とお声掛けいただいたのが始まりです。

突然白羽の矢が……!

まずりん あのころ、自分のブログやTwitterに落書きのようなイラストを載せていたんです。そのイラストがシモダさんのツボに入ったみたいで。

「オモコロ」ではどのような作品を発表されていたのでしょうか?

まずりん 何作か単発のマンガを描いていて、その中の一つに『独身OLのすべて』の読み切りもありました。これがTwitterでたくさんリツイートされて、「モアイ」でWeb連載することになりました。

omocoro.jp

『独身OLのすべて』の一巻にも掲載されていますよね。私も当時Twitterでリツイートされたのを拝見していました。

まずりん でも、オモコロに掲載されるまではマンガなんて描いたこともなかったので、当時は下書きをするという概念すらなく、直接ボールペンで描いていたんですよ。だから、修正がすごく大変でした。その後、さすがに下書きはするようになったものの、二巻まではボールペンで描き、三巻でようやくペンタブレットを導入しました。

試行錯誤しながら、マンガを描かれているんですね。

まずりん そうですね。あと、担当編集の方から「みんなに配慮し過ぎるとマンガとして面白くなくなる」と言われていて。「みんな違ってみんないい」という内容だと、道徳の本のようになってしまうので、ネタ出しの時点では好き放題に考えて、そこから担当編集さんと相談して少しずつ調整していき、炎上にならないギリギリのラインを見極めるようにしています。

作品を描くペースはどのくらいなのでしょうか。

まずりん マンガは隔週更新なので、1週間でマンガの作業をすべて終わらせて、残りの1週間で他の仕事をする……という感じですね。女性誌などでイラストを描いたり、キャラクターデザインをしたり。キャラクターを描くのは楽しいので、キャラデザの仕事は無限にやりたいなって思うくらい好きです。

日々飲み歩いてネタ集め

『独身OLのすべて』は、独身女性3名を中心に職場での人間関係や女同士のマウンティングなどに対する毒がコミカルに描かれています。当時の就業経験からネタ作りをされているのでしょうか?

まずりん そういう部分もあるのですが、連載から半年ほどでフリーランスになっているので、今は周りのリアルなOLの話を聞けなくなってしまったんですよね。会社にいると、いやが応でも若い世代と関わることになるので、「この子たち何を考えているのか分からない!」という経験が刺激になっていたのですが。

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(C)まずりん/講談社
『独身OLのすべて』に登場するメインキャラクター。
※画像は「モアイ」のスクリーンショット

独身OLのすべて/まずりん - モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト モアイ

では、今は日々どのようにして連載を続けるためのネタ集めをしているのでしょうか?

まずりん 一人で飲みに行って、自分の周りにいないタイプの人たちの会話を盗み聞きするのが一番いいですね。友人と飲みに行くと、どうしても自分と思考が似たり寄ったりになってしまうので。最近だと、セレブなママ友の集まりが一番面白かったですね。酔いが回ってくるにつれて、ママ友たちがお互いにマウンティングを始めたんです。「うちの旦那は年収がすごくて」とか、「うちの子どものお稽古がこんなに素晴らしくて」とか、「旦那が今ハワイに出張してて」とか。

年収を自慢する話って本当にあるんですね。

まずりん あるんですよ。個人経営のレストランのようなところで、ママ友たちが昼間からお酒を飲みながら中央のテーブルで話していました。で、こんなマウンティング合戦の中、一人が「うちの旦那と子どもで私の母乳の取り合いをしている」と言い出して。地獄のようなマウンティングでしたね……。いかに自分が夫と子どもに愛されているかをアピールするために、母乳を基準にするんだ! と衝撃を受けました。

……でも、自分がこれだけ盗み聞きしているんだから、自分が誰かと話しているときも聞かれてTwitterに書かれているかもしれないですよね。そう考えると何も喋れなくなっちゃいますね。

意外と選択肢はたくさんある、と会社を辞めて初めて知った

『独身OLのすべて』を描き始めたころは会社員だったんですよね。どのようにして両立していたのでしょうか?

まずりん 両立、というほど両立もできていなくて、会社の仕事がすごく忙しい時期には、明け方に2~3時間ぐらい寝て出勤して、昼休みに会社の近くのファミレスでネームを描く、というギリギリの生活を送っていました。

それは大変ですね……。

まずりん でも、これを2ヶ月ぐらい続けていたら仕事中に倒れてしまったんです。そもそもがデザイナー業も楽な仕事ではないので、もう無理だからどちらか一つに絞ろう、と。結局、マンガ連載を始めてから半年ほどで、長年勤めた会社を退職し、フリーランスになりました。

でも、半年ということは、割と早い段階で会社を辞めてもマンガで食べていける状態になっていたのでしょうか。

まずりん いえ、全然なっていませんでした。

えっ!

まずりん それよりもまず、とにかく会社を辞めたくて。両立が体力的に無理で、どちらか一つを選ばなければいけないなら、マンガの方を選ぼうと思いました。それにちょうど、自分が50歳や60歳になってもデザイナーの仕事を続けているのだろうか、と悩んでいた時期でもあったんです。20代の頃は、「とりあえず一人前にならなきゃ」と日々がんばっていたんですけど、30歳になったとき「これからどうしよう」と思うようになり……。このまま今と同じ環境で働くのか、新しいことに挑戦していくのか、とずっと考えていました。

そうだったんですね。

まずりん でも、会社を辞めたばかりのころは一応兼業するつもりで、定時で帰れるようなデザイナー職を探してはいたんですよね。まあ、そんな都合のいいデザイン会社なんて存在してないんじゃないかってぐらい、その時は見つかりませんでしたけど(笑)。そうこうしているうちに、マンガ以外にもイラストの仕事や、キャラクターデザインの仕事が入るようになったので、当時は基本断らず引き受けていました。それで、そのまま今に至るまでフリーで続けています。

とはいえ、30歳で長く勤めた会社を辞めるのって、結構勇気がいることだと思います。ご自身の経験から何か言えることはありますでしょうか?

まずりん 今思えばかなり視野が狭くなっていて、会社を辞めて初めて知ったようなこともたくさんありました。私は朝から晩まで会社にいたので、会社以外の人間関係がほぼなかったんです。「オモコロ」つながりで他の会社の方々と接点ができたとき、何に一番驚いたかって、平日に飲みの予定を入れられる会社があるということ。前の会社の先輩方には本当にお世話になったので、すごく感謝はしていますし、多忙な合間を縫って行く会社の飲み会も好きだったんですけどね。でも、会社勤めをしているときは、どうしても今の会社の中のことだけが常識だと思ってしまいがちなところはありましたね。

視野が狭くなっているせいで、例えば会社を辞めたくても辞められず苦しんでしまうこともありますよね。

まずりん ダメだと思ったらすぐに辞めてしまっていいと思うんですよ。辞めることについても、つらい状況から「逃げてしまった」と思わずに、違う環境を「選んだ」と捉えてほしいな、と。

特に、責任感が強い方って、逃げることをせずに一人で抱え込みがちな気がします。でも、「逃げる」ってそんなに悪いことじゃないと私は思います。だから今、迷っていて会社を辞められない人でも、ちょっと外に目を向けるだけでいろいろな可能性があるんじゃないかな、と言いたいです。

取材・文/朝井麻由美

お話を伺った方:まずりん さん

まずりん

デザイナー、マンガ家、イラストレーター。代表作『独身OLのすべて』は、モーニング・アフタヌーン・イブニング合同Webコミックサイト「モアイ」(講談社)で連載中。2月23日に最新刊『独身OLのすべて⑦』が発売
Twitter:@muzzlin

次回の更新は、2018年3月7日(水)の予定です。

編集/はてな編集部