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もしもの時に役立つ防災コラム

企業や個人ができる防災とは?【対談・前編】

今回は、国際災害レスキューナースの辻直美さんと味の素冷凍食品労働組合のメンバーが災害支援や防災活動について対談を行いました。辻さんから実際に被災地の支援を行っている労働組合にアドバイスをいただき、防災の新しい形が見えてきました。

参加メンバー:

辻:阪神淡路大震災での経験を踏まえ、災害看護の道を歩み、多くの被災者を支援。

平岡:味の素冷凍食品労働組合中央執行委員長で、災害支援にも積極的に取り組んでいる。

萩原:味の素冷凍食品労働組合で書記長を担当し、避難グッズの準備などもしていて、防災に関する知識を深めたいと考えている。

味の素冷凍食品の労働組合の活動内容

平岡:味の素冷凍食品労働組合では、社会貢献活動を行っており、その一つとして2019年と2021年に発生した豪雨で被害を受けた佐賀県武雄市の復興支援の協力を行っていました。

具体的な活動としては、武雄市の支援団体が主催する活動に参加しました。2021年のクリスマス会では、九州工場にて生産している商品を食べてもらいながら、地域の中のコミュニティ作りに協力させていただきました。2024年の防災イベントでは、災害が起きた時の弊社「ギョーザ」の活用法を地域住民の方に紹介しました。また、ライフラインが完全に復旧していないご家庭や、被災した自宅を片付けることが大変で料理をする気になれない方たちに簡単に調理ができる商品をお送りするなど、定期的な支援を行いました。

また、味の素グループ労働組合でも、2024年は能登半島の災害支援として、5月に約1ヶ月間、支援団体に加わって、個人宅の片付けのお手伝いや、小学校の避難ベースに届いた物資や支援品を整理するといった活動を行いました。そこでは、仮設住宅に住んでいる方とコーヒーを飲みながら、一緒にお話をする機会もありました。その他にも児童養護施設の子ども達を笑顔にする活動など、様々な取り組みを実施しています。

被災地の現状と、求められている支援とは

司会:企業がこのような災害支援活動を行う上で、実際の現場で役に立つことや、気を付けたほうがよいことはありますか?

辻:基本的に被災者は、自分たちのことを忘れずに、自分たちのために支援に来てくれた、会いに来てくれた、ということがすごく嬉しいと思っているんですよ。それが発災から3ヶ月ぐらいは盛り上がりますが、その後は頻度が下がってニュースにも取り上げられなくなると、大抵の企業さんも3ヶ月おきとか、1年おきに支援のスパンが減りがちです。そんな中で、毎月定期的に届くとか、活動されているのはすごいことだなと思っています。

最近は災害が発生すると、すぐに支援が始まり、色々な物が届くのですが、個人的には設定がしょぼすぎると思っています。個人の方から、ご自身がいらない古着や賞味期限が切れそうな食品が送られてくる例もたくさんあります。「快適で豊かな避難生活」という設定に変えていかないと、支援する形もしょぼいままになる気がするんですね。

例えばイタリアの支援は、災害が起きるとまず真っ白いテントが設営され、キレイなダンボールベッドや雰囲気のよいランプがつくなど、まるで「グランピング」のような設備や雰囲気なのです。食事もその日から、アクアパッツァやパスタなどの温かい料理が支給され、発災から1週間後には、ケータリングがやってきて、ビュッフェ形式の食事が提供されます。スパやマッサージなどが受けられる場合もありますし、日常生活と変わらないことを支援として、企業も国も考えているんですね。

日本の場合は、まだ我慢が強いられるし、被災者が豊かなことすると叩かれるというイメージがあるじゃないですか。「やっとお風呂に入れた」というようなことが美談にされがちですが、普通にその日からお風呂に入っていいと思います。それは個人レベルではなく、企業レベルでも、見ている景色を上げていかないと、実現しないんじゃないかなと感じています。

司会:支援の継続と快適に過ごすための支援が大切ということですね。

平岡:東日本大震災や能登半島地震が起きたことで、少しずつ人々の防災意識は高まっていると思いますが、実際に食材や防災グッズをストックするなど防災レベルは上がっているように感じますか?

辻:あまり上がってないです。ただ、防災オタクと言われる人は増えたと思います。先日、メディアの方と話していて、その方は災害用トイレをたくさん買っていたんです。でも一回も開けたことがなくて、ダンボールを開けてもらったら全部ゼリー状になっていました。つまり、押し入れの水分を吸って使えない状態でした。また、使い方もわからないからやってみようとすると「うまくできませんでした」と。

「これが災害現場だったらどうするのってことですよ」と指摘すると「ああ、これがグッズに走るってことですね」と気がついてくれました。

平岡:確かにそうですね。

被災地で必要とされる企業の支援とは

萩原:我々労働組合でもこれまで様々な支援は行ってきましたが、被災地で必要とされる企業の支援の仕方として、他にどのような方法があるかを教えてください。

辻:組合の活動として伺った、「コーヒーを飲みながら話を聞く」とかすっごいありがたいと思います。被災しているとコーヒーを飲んだり、リラックスしてはいけないと思ってるんです。だからコーヒーを持ってきてくださると、飲むことができるし一緒にお菓子もあれば会話も弾みます。

司会:企業が色々するというよりも、お話する場の提供ですね。

辻:はい。例えばよく病気自慢する人いませんか?被災者の方も、災害の体験をしゃべりたい人も多いのですよ。誰かに話を聞いてもらい、リアクションしてほしいのです。

平岡:確かに以前、能登や武雄へお伺いした時も、どんどん人が集まり、みんな外でずっと話をしていました。

辻:そうなんです。なんとなく避難所では、アハハって声出して笑って喋っちゃいけない空気感があったりします。だから何かイベントをしてくださると、笑ったり楽しむことが許される雰囲気になるのです。そういう時に感情を出して、悲しかったら泣いてもらって。泣くことは昇華することにも繋がります。感情を出してストレス解消してもらうという支援もあると思います。

平岡:我々は食品メーカーなので、食と一緒に人が集うコミュニティみたいな場を定期的に提供する活動は、現地の方にも喜んでもらえそうですね。

辻:そのような場を待っている人は多いと思います。現地にいけるメンバーや日程は限られていると思いますし、プロジェクターを繋いで、オンラインでも全然ありだと思いますよ。被災者の方々は、自分たちのことを気にかけてもらえているということがすごく嬉しいです。だから一年に一回でもいいから、忘れないで会ってくださればそれだけで十分だと思います。

現地に行ける場合は行くのがもちろん良いのですけど、お手紙でもメールでも、避難所に対して寄せ書きとか、言葉にして「忘れていないよ、応援しているよ」ということが伝われば良いです。ビデオレターとかもいいですね。応援してますよ!とかコーヒーおいしいですか?ギョーザおいしいですか?とか、一人一言ずつのビデオレターを避難所に送るなど、会ったこともない誰かが応援してくれていることが形になって届くとめちゃくちゃ嬉しいんです。千羽鶴は意外と重くて場所を取るので、あまり喜ばれないかもしれませんが(笑)。

平岡:5月に能登へお伺いした時に、まだまだ倒壊した家屋があるだけでなく、水道も復旧していないエリアがあるという状況を目の当たりにしました。そこで震災から時間が経っても、能登半島地震やそこで頑張っている人たちのことを忘れずに覚えていてもらえると嬉しいと現地の方からお聞きしました。まさにそのような取り組みができれば、そういった方々に寄り添える活動になりますね。

辻:遠いところの人や東京の味の素冷凍食品の人たちが自分たちのことを応援してくれているということは、めちゃくちゃ嬉しいと思いますよ。例えばお菓子をいくつか袋詰めにして、表に一言メッセージを書くとかでもいいと思う。寒いけど体に気をつけて!応援してます!とか、手書きの文字は人を感じられるのでそういうのでもいいかな。

私は仕事で、今、東京と大阪を行ったり来たりしていて、東京によく行く町中華があるのですが、1ヶ月半ぶりに行った時、そこのお母さんが「久しぶり」って抱きしめてくれたのですよ。1ヶ月半ぶりなのに、私のこと忘れてないんだと思って、めちゃくちゃ嬉しかった。私にはそういう人がいるというだけで、とても温かい気持ちになりました。被災者の方たちもそんな感じではないかな。

司会:物資提供だけでなく、相手を気遣う心や温かなコミュニケーションも支援に繋がるということですね。

平日の日中災害が起きたら

司会:次に企業の災害対策として、平日の日中に災害が起きた場合を想定して、企業が取るべき対策や対応を教えてください。

辻:会社にいる時に大きな災害が発生した場合、自宅に帰れなくなることも想定してください。東京の場合、72時間はむやみに移動せず、安全な場所に留まることを呼びかけています。ということは、会社で3日間過ごせるだけの準備がありますか?ということです。
※東京都帰宅困難者対策ハンドブックより

平岡:出社している社員全員分の3日間分の準備が必要となると、果たして足りるのか・・・。

萩原:特に衛生用品は足りないと思います。

辻:水などはもしかしたら3日分の準備があるかもしれないし、災害用の自動販売機などもあるかもしれませんが、電気がストップした時の暑さ寒さ対策、衛生ものは多分少ないと思うので、ストックしておいたほうがいいですね。その後、避難所にという段取りができて、初めて避難所に行けます。

萩原:会社にいる時間は、家にいる時間と同じぐらい長いですよね。会社にいる時に災害が起きるパターンも想定しておかないといけないですね。

辻:そして通勤途中、帰宅途中に災害が起きた場合、どうするかも考えておきましょう。

司会:弊社では、平日の日中地震が来たことを想定して、本社の避難訓練を行っていますが、他に有効な訓練や対策はありますか?

辻:そうですね。半日、持っているペットボトルの水だけで過ごしてみるとかはどうでしょう。データイムで8時間として1Lぐらいを用意して、コーヒーもお茶も買わない。粉末を溶かして飲んでみるとか。茶葉で入れてみるとか、そのような体験をしてみる。あとは災害トイレを使ってみるとか。
体験はなかなか家ではやらないので、避難訓練のタイミングで「今日は一個ずつやってみよう」とか、「使ってみてどうだった?」って話をしてみるとか。体験の共有をすることはリアリティがあると思います。

また、明日10時にやりますよと事前に伝えおくのは、全然避難訓練じゃないので、いきなり避難訓練!とすべきです。私が勤めていた病院はそちらに変えました。患者さんにも具体的な時間は伝えず、今日やるということだけ伝えて、どこがオペレーションできるかということを考えます。

司会:病院でもそのような対策されているのですね。

辻:千差万別ですけれども、やっている病院は相当力入れてやってます。最低限の医療の電源は落とさないけれども、患者さんにも「照明は今日使えないので、ランタンだけで過ごしてください。」と説明してイベントとしてやる感じです。

萩原:私、熊本地震の時、ちょうど入院していたのですが、病室で停電になりました。すごく揺れたわけではないのですが、点滴をしていて、結構焦りました。なのでそのような訓練はいいなと思います。

辻:病院のチームのスタッフには、「今日、第三土曜日は防災の日だから、お家帰って防災のことを考えてください」と伝えていました。「夜ご飯は冷蔵庫にある冷凍食品だけで作って、その写真撮って明日発表ね」とレシピの共有を行い、実際にみんなで作って食べてみるなどの訓練も行っていました。

司会:企業内での対策として、会社に食品等を備蓄するだけでなく、よりリアルな訓練を行うことで、いざという時でも社員が焦らず行動できることに繋がりますね。



辻さんと座談会メンバーの防災対談、後編に続きます。後編では、個人の防災や防災TIPSをお届けします。

※コラムの内容は、参加者の経験に基づく見解です。
2025/1/23掲載