トランプ政権「ディール主義」の過酷な現実
Foresight World Watcher's 5 Tips

ドナルド・トランプ米大統領がウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領と激しい口論を繰り広げた2月28日の会談の詳細は、たとえばNHKのこの記事で確認できます。
ウクライナ支援への忌避感が広がる米国内に向けた演出の意図もありえますが、その上でも合理的な説明が難しいのは、トランプ氏がなぜここまでロシアに寄り添う姿勢をとるのかです。第1次トランプ政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたハーバート・マクマスター氏は、Xへの投稿でウラジーミル・プーチン露大統領を「甘やかしている(coddling)」と述べています。
2016年大統領選にロシアが介入した疑惑のみならず、トランプ氏のロシアとの関係はソ連時代にまで遡れるとの指摘もあります。あるいは、最近よく語られるノーベル平和賞狙いという要素もあるのかもしれません。ただ、トランプ政権の取引主義的な性格は、ディールの成立そのものが目的化する危険を本来的にはらむことが無視できないように思います。
“侵略をしたのはロシアであり、戦っているのは我々だ”と正当性に基づく判断を求めるゼレンスキー氏に対して“あなた方はカードを持たない立場だ”と反駁するトランプ氏の論理は、端的に言ってウクライナの当事者性を無視しています。
米国メディアの面前で米国外交を批判したゼレンスキー氏の失策も確かにあると言えるものの、それでは舞台裏でどのようにアメリカを説得できたのか。「安倍晋三首相はトランプ氏とゴルフをやって心を掴んだ」というようなことがしばしば強調されてきましたが、問題は本質的に、交渉術のレベルで解決できるものではなさそうです。異例の展開を見せた米ウクライナ首脳会談が、アメリカのすべての同盟国に重い課題を残しました。
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Trump and Zelensky's Stunning Fight【Suzan B. Glasser/New Yorker/2月28日付】
「今日、テレビカメラの前で行われたホワイトハウスでのトランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の常軌を逸した会談により、ここ数週間の間に展開されてきたことが明瞭に見てとれるようになった。アメリカ合衆国は、ロシアとウクライナの間の戦争において、立場を切り換えた。この国はもはやウクライナの側に立っていない」
「これはトランプによる重大な方針転換であり、ウクライナの存続だけでなく、欧州の同盟国とのアメリカのパートナーシップの存続にも影響を及ぼす。先週、トランプによるアメリカのプーチン化と私が呼んでいる現象についてコラムを書いた。この現象は、外交政策の観点――つまり、実際にロシアに軸足を移しているという意味において――と、自国でプーチンのような戦術を展開しているという内政の観点の両方にわたるものだ。今週、その方針転換がさらに明確になった」
このように書くのは米「ニューヨーカー」誌で中央政界の定点観測コラム「トランプのワシントンからの手紙」を連載(週1回)する同誌スタッフライター、スーザン・B・グラッサー。連載とは別に「トランプとゼレンスキーによる驚くべき喧嘩」(2月28日付)を同誌サイトに緊急寄稿したのだ。

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