触覚のある義手の開発に成功!そのリアルさは心も動かす

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触覚のある義手の開発に成功!そのリアルさは心も動かす
義手「LUKE」を使って卵(左)、ぶどう(右)をつまんでみせる 被験者のKeven Walgamottさん Image: Science Robotics via Gizmodo US

冷たい小川に手を浸したり、大好きな人と手をつないだり。

あたり前に思われているけど、手をのばして身のまわりのものの触感を味わえるって、生きているうえでものすごく重要ですよね。

手や腕と同時に触覚も失ってしまった人々は、これまで義手をつけても触覚を取り戻せないままでした。それが、このたびアメリカのユタ大学が開発した新しい義手を使えば、切断手術を受けた人も触覚を感じられるようになるそうなんです。

その義手の名は「LUKE」。もちろん、父との激闘の末に右手を失ったルーク・スカイウォーカーにちなんでいます。

『LUKE』を開発したGreg Clarkさん(右)とJake Georgeさん(左) Image: Dan Hixson via University of Utah College of Engineering

心を動かす義手

義手を通じて触覚を取り戻そうとする試みはこれまでにもあったそうです。しかし、ごく限られた触覚を再現するにとどまり、時には間違えた触感を伝えてしまうこともあった、とLUKEの開発者のひとり、Greg Clarkさんは言います。

その点、LUKEが革新的なのは義手を通じて得た触覚が直接脳とつながること。卵のもろさ、ぶどうのつぶれやすさなどがLUKEを介して電気信号となって脳に伝わり、脳が力加減を直接コントロールできるそうです。

ユタ大学によれば、臨床実験に参加したKeven Walgamottさんは2017年に初めてLUKEを装着し、二度と戻らないと思っていた触覚を感じた時には涙がでるほど心を動かされたとか…。Kevenさんは17年前の事故で手と、部分的に腕も失いました。

Image: University of Utah

メカと神経線維が対話

LUKEはユタ大学をはじめ、セグウェイ開発者のディーン・カーメン氏率いるDEKA Research & Development社などが15年の歳月をかけて開発してきました。義手はDEKA社のもので、外部のバッテリーとパソコンにつないで起動します。

Image: George et al., Science Robotics via Gizmodo US

ユタ大学は義手とユーザーの神経回路をつなげるインターフェースを開発。「USEA(Utah Slanted Electrode Array)」と名づけられたこのインターフェースは、手術により何百という電極を神経線維ととなり合わせに埋め込むことで、義手と脳をダイレクトにつなぎます。USEAを通じて思ったとおりの動きを義手に伝達し、自分自身の意志で義手をコントロールできるわけです。

「例えて言うなら、電極を体の中に埋め込むのは数人の親しい友人たちと部屋の中にいて、それぞれと親密で独立した会話をしているようなもの。対して電極が体の外にある場合は、大きなスタジアムの外に立ちながら中にいる人たちに大声で怒鳴っているようなものです。スタジアムの中にいる人たちがそれに応えても、外にいる人にはただの群衆のざわめきとしか伝わりません」

Clarkさんはそう説明しています。

まるで自分の手のよう

Kevenさんが被験者としてリクルートされたのは2016年。手術でUSEAを体内に埋め込んで、その後14ヵ月間大学のラボに通い続けてLUKEの臨床実験に挑みました。

KevenさんがLUKEをつけた状態でUSEAを稼働させると、LUKEで触ったものの感触を感じられるだけでなく、それが硬いものなのか、やわらかいものなのかもわかるようになったそうです。この感度の高さのおかげで、ぶどうの実を一粒ずつつまんだり、こわれやすい箱を持ち上げたり、枕を枕カバーの中に納めるなど、難易度の高い動作もなんなくこなせるようになりました。

でも研究者たちが一番注目したのは、Kevenさんの感情的なリアクションでした。

あるセッションが終わりに近づいた頃、研究者たちがKevenさん他になにかしてみたいかと聞いたところ、ただシンプルに「両手を組んでみたい」と言ったそうです。そして、彼はそのとおり彼の手とLUKEを装着した手とを合わせました。両手をこすり合わせて自分の手と手の感触を味わっていたKevenさんは、もしかしたら事故で手を失って以来初めて完全なる自分を意識できていたのかもしれない、とClarkさんは米ギズに語っています。

Kevenさんの実験結果に基づき、ユタ大学の研究者たちは学術誌『Science Robotics』に論文を発表したばかりです。

新たなる希望

義手として優れていることは間違いありませんが、LUKEには限界もあります。人間の腕を動かしている神経線維はUSEAの電極の数と比べてケタ違いに多く、ひとつひとつを完璧に再現していくのは無理。

でも、おぼろげでも触覚が戻れば、患者にとってのメリットは多いとClarkさんは指摘しています。たとえば、Kevenさんも悩まされているという幻肢痛の頻度や症状を和らげることができるかもしれません。

次なるステップはデザインの改良。まずはじめにLUKEの携帯バージョンを作り、家庭用機器として開発していきたい考えだそうです。さらにはUSEAの電極をワイヤレス化し、ユーザーの安全性と使いやすさを向上したいそうです。

LUKEが商品化されるのは早くてもまだ数年かかりそうですが、こういうハイテクな義手が将来的に市販されると知っているだけでも、四肢欠損と向き合っている患者さんたちの救い足り得るでしょう。

あえてスター・ウォーズのテーマと結びつけるならば、LUKEが新たなる希望になる日もそう遠くはありません

Reference: The University of Utah