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富士通「無理ゲー化するコンタクトセンター運営」を一新、カギはAIエージェント

» 2025年02月04日 08時00分 公開
[織茂洋介ITmedia]

 これまで、AIの進化には2つの大きな波があった。第1の波が、データを分析し予測を行う予測型AI、第2の波が、ChatGPTに代表される大規模言語モデル(LLM)を使用した生成AI。そしてこれから期待される第3の波が、複雑なタスクを人間の介在なしで自律的に処理できる自律型AI、すなわちAIエージェントだ。

 Salesforceは2024年9月の年次イベント「Dreamforce 2024」で企業向けAIエージェント「Agentforce」を発表し、2024年10月30日から日本国内でも提供開始した。同年12月には最新バージョン「Agentforce 2.0」を発表している。

 本稿では、このAgentforce 2.0に関する記者向けの説明会で紹介された、富士通のコンタクトセンター業務の改善に関わるAIエージェント導入事例を紹介する。

年々ハードルの上がる問い合わせ対応、サービスレベル維持のための選択は……

 富士通はSalesforceのコンサルティングパートナーであり、テクノロジーサプライヤーでもある。そして、SalesforceのCRM(顧客関係管理)関連製品を大規模に導入するユーザー企業でもある。自社のコンタクトセンターにおいては「Salesforce Service Cloud」を導入している。2023年8月にこのService Cloudに生成AI機能である「Einstein for Service」が実装されると、その3か月後の11月には、国内ローンチに先駆けて自社のコンタクトセンターで効果検証を実施した。

 AIへの取り組みは富士通の再優先事項の一つであり、当然AIエージェントへの動きも機敏だ。Agentforceについても、Dreamforceでの発表2カ月後の2024年10月には、個人・法人の総合問い合わせ窓口である「富士通お客様総合センター」において日本国内初のパイロットテストを実施した。

 パイロットテストの目的は、Agentforceに問い合わせ内容の切り分けを任せ、適切な窓口へ案内して顧客体験の向上を図ることにあった。テストの結果、単純なチャットbotと比較して誤回答が大幅に減り、平均応答時間を71.5%削減できた。有人応対との比較においても、より少ない手順で正確な回答を得られることが確認され、平均応答時間を67.0%削減した。2025年1月からはこの知見を生かして「富士通Salesforceサポートデスク」においてAgentforce for Serviceの本格運用を開始している。

 富士通Salesforceサポートデスクは富士通経由でSalesforceライセンスを購入した企業向けの一次サポート窓口だ。年間問い合わせ件数は約1700件、KPIとする一次解決率92.5%と、国内ではトップクラスのサポート実績を誇る。しかし、課題もあった。富士通の山崎(崎はたつさき)洋輔氏(グローバルビジネスアプリケーション事業本部Salesforce事業部シニアディレクター)は以下のように語った。

 「Salesforceを導入するお客さまの数が増えれば増えるほど、サポートデスクに対する問い合わせの件数も比例して年々増えています。一方で、どんどん新しい製品がリリースされてくるので、オペレーターもサービス品質を維持、さらには向上させていくところで工数が増加していました」

富士通の山崎洋輔氏

 この課題を解決する鍵として期待されたのが、AIエージェントだ。

 サポートデスクに寄せられる問い合わせは多岐にわたる。その中でもナレッジレスで回答できる定常的な問い合わせについては、Agentforceを活用することで約15%削減可能になると富士通は見ている。

 有人応対の品質向上にもAgentforceが貢献すると考えられる。膨大なナレッジから必要な情報を自然言語で簡単に探すことができるようになるからだ。ナレッジはFAQの形でService Cloud用に準備されたものだけでなく、PDFファイルとしてにデータベース(ここではデータ基盤として使われている「Salesforce Data Cloud」に格納されたリソースノートなどの非構造化データも活用できる。

 また、オペレーターの問い合わせ応対の履歴をAgentforceが要約してくれるため、コンタクトセンターを監督するスーパーバイザーやマネジャーは、全体の状況把握にまつわる工数を削減できる。

富士通SalesforceサポートデスクにおけるAgentforce活用イメージ(画像は富士通の説明資料より)

人を減らすことが狙いではない

 富士通がAIの導入によって目指すのは、オペレーターを減らすことではない。「仕様の確認などナレッジレスで回答できる部分は基本的にエージェントに任せ、24時間365日いつでも問い合わせを受け付ける。その分オペレーターの役割は、より緊急度の高い高度な応対にシフトさせるのが真の狙いだ。もちろん、そこでもAgentforceの力を借りることを想定している。

 「AIと人が共存して、よりお客さまの満足度を向上させていくアプローチを考えています」と山崎氏は語る。

 今回、Agentforce実装に当たり、業務選定と実装、改善のそれぞれのフェーズで気付きを得たという。当然のことながら、全ての業務がAIに置き換わるわけではない。実際にAIを適用できる業務をしっかりと選定して、ROI(投資対効果)を把握する必要がある。AIを実装する観点では、新しいテクノロジーに対する知見と業務の知見の両方が必要だ。AIを磨くということでは、データ品質の問題も無視できない。単にAIを使うだけでなく、既存データの見直しやデータソースの拡充など、新鮮で質の高いデータを安定的に供給するための努力も怠ってはいけない。

 先述したように、富士通にはSalesforce導入パートナーとしての顔もある。自社での実践で得たナレッジを生かして、業務アセスメントからAgentforceの実装、データチューニング、運用後の伴走まで、ワンストップでサポートする体制は既に整っている。今後も自社のユースケースを洗練させつつ、Agentforceを使ってユーザー企業の顧客体験向上と業務効率化に貢献していきたい考えだ。

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