「こんな動画を選ぶなんて」――ユーザーから募集したユニークな動画作品に賞を授与する「第1回 国際ニコニコ映画祭」の大賞受賞作が、「面白くない上に暴力的」などとユーザーから批判が殺到。審査員の1人のブログに対して批判コメントが相次ぎ、ブログで謝罪に追い込まれる事態に発展した。
ニコニコ動画は、多数の一般ユーザーが盛り上げて急成長したサービス。人気動画は再生回数の多さで分かり、いわばユーザー全員が“審査”に参加しているとも言える点も人気を集めた理由だ。
これに対して映画祭は、専門家など少数の審査員が優秀作を選ぶ形。一般ユーザーの声は反映されておらず、このギャップが受賞作に対する批判コメントの殺到で浮き彫りになった形だ。ユーザーによる活発な投稿がコンテンツの多彩を生じ、そこに魅力を感じてユーザーがさらに集まる──という好循環で規模が膨れあがったニコニコ動画。成長を担ってきたユーザーのプライドも高く、運営側にも慎重かつ微妙な舵取りが求められているようだ。
ニコニコ映画祭は、ユーザーからオリジナルの動画作品を募集し、ユニークな作品に賞を授与する企画。第1回は11月上旬に作品を募集し、204作品が応募。1次審査で28作品が選ばれ、タレントの松嶋初音さんや、ビジュアリストの手塚眞さん、ニワンゴ取締役で2ちゃんねる管理人の西村博之さんなど7人が最終審査に参加した。
大賞に選んだのは、繁華街でサンタクロースを追いかけてつかまえ、馬乗りになって殴る――という内容の「サンタ狩り」。だが、この作品が受賞作として公表されると、ユーザーからは「暴力的」「いじめだ」「悲しい気分になった」「何が面白いか分からない」といったコメントが殺到した。
審査の様子をまとめた動画にも批判コメントが殺到。「サンタ狩り」を審査しているシーンでは「これを選ぶなんて信じられない」といったコメントとともに、松嶋さんなど審査員への中傷が多数書き込まれた。
中傷は松嶋さんのブログにも飛び火し、松嶋さんは「今回はわたしの発言で気分を害するようなことになってしまい、本当に申し訳ありませんでした」などとブログで謝罪し、サンタ狩りを推した理由などを丁寧に説明した。
ユーザーからは、賞を逃したノミネート作品や、1次審査で落ちた作品に対して「大賞の作品よりもこっちの方がいい。これを『ユーザー大賞』にしよう」などと推薦するコメントが多く付いた。受賞作よりも再生・コメント回数が多い作品もある。
ニコニコ動画の開発者ブログは29日付けで、批判は「映画祭への期待が予想以上に大きかったためだと前向きに受け止めている」とした上で、大賞作品については「審査方法も結果も間違っていたとは考えていない」とした。
ただ、「よりユーザーが楽しめるような映画祭になるよう、選考過程や基準についてもっと明確にするなど、運営方法を改善していきたい」と、反省点をふまえて映画祭の運営も見直す方針を明らかにした。
審査の模様の動画は編集の手が加わっており、これを見たユーザーから結果的に松嶋さんに非難が集中したことについては「大変申し訳なく思っている」と謝罪。松嶋さんには次回以降も審査委員を続けてもらえるようお願いしているという。
映画祭と同時期に始まった「公式動画」配信にも課題が見えてきている。
11月から吉本興業とエイベックス・エンタテインメントが、お笑いライブ映像やミュージックビデオの配信を開始。動画・音楽をユーザーに使ってもらい、新しい作品を生み出す企画「JAM Project公式リミックス祭 in ニコニコ動画」「エクスクロス祭」も始まったが、一般の人気動画ほどには再生・コメント数が伸びていないのが現状だ。
ニコニコ動画では、ユーザー投稿による人気動画は1日で万単位の回数で再生される。一方、11月12日にスタートした「avex公式」で、29日午後5時までの累計再生数で1万回を超えたのは30件中2件だけ。最も多い動画でも約1万5000回にとどまっている。
26日にスタートした吉本興業の「よしよし動画」は、29日午後5時まで全22件投稿され、うち15件は1000再生未満。最多再生は約7500回だ。「エクスクロス祭」は、開始から29日午後5時まで約1週間に投稿された動画は16。再生数は最多でも1000に満たない。
その中で、アニメソンググループ・JAM Projectのイベントの盛り上がりが目を引く。12日の開始から146件の動画が投稿されており、一番人気の作品は2万3000回以上再生された。作者はニコニコ動画「演奏してみた」で人気のピアノ演奏者だ。JAM Projectが影山ヒロノブさんら著名なアニメソングアーティストが参加している人気グループということもあり、ニコニコユーザーとの相性がいいようだ。
よしよし動画で最多アクセスを集めているのは、新機能「ニコスクリプト」を活用したもの。芸人のネタに笑ったユーザーが「まけた」と入力すると、その総数を集計する――という仕組みのユーザー参加型だ。エイベックス作品でアクセスを伸ばしているのは、声優・桃井はるこさんのプロモーション動画。ユーザー参加を促す仕組みや、ユーザー層にマッチした動画が人気を集め始めている。
ユーザーが盛り上げてきたニコニコ動画のエネルギーをどういかしていくか。企業や本職のプロをも巻き込み始めたニコニコ動画の課題になりそうだ。
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