「初音ミク」や「がくっぽいど」など、キャラクター付きで売り出され、ヒットしてきたVOCALOIDソフトに、異色のラインアップが加わる。キャラクターなしのVOCALOIDソフト「VY1」だ。
開発したのはVOCALOIDエンジンを作ったヤマハ。同社はこれまで、サードパーティにVOCALOIDのエンジン部分を提供してきたが、今回初めて、音声データベースまで自ら手掛けた。
「(シーケンサーの)QY10のように、楽器として、キャラクター無しで訴求しようと考えた」――同社研究開発センター ネットビジネスグループ主任の木村義一さんは、その意図を説明する。
8月13日、「VOCALOID STORE」で予約受け付けがスタートし、9月1日に発売。価格は、ソフトのみの「標準パッケージ」が1万1800円、VY1を使った楽曲を収録したアルバムや特製Tシャツ、タオルなどを同梱した化粧箱入り「DXパッケージ」が1万4800円だ。
VOCALOIDソフトは、歌声を合成する音声合成エンジンと音声データベースの組み合わせでできている。合成エンジンはヤマハが開発し、ライセンス先の企業が音声データベースを作っていた。
例えば「初音ミク」なら、ヤマハ製のエンジン「VOCALOID2」と、クリプトン・フューチャー・メディアが制作した、声優・藤田咲さんの音声データベースを組み合わせている。
VY1は、ヤマハが初めて、音声データベースも制作。VOCALOIDと相性の良い声質の声優を選び、クリアでクセのない、使いやすい女声VOCALOIDソフトに仕上げたという。推奨音域はF2〜E4、推奨テンポは60〜175BPM。使いやすさや質には「自信がある」と、同社研究開発センター主任の入山達也さんは胸を張る。
パッケージに描かれるのは、VY1とVOCALOID、開発コード「MIZKI」のロゴとハナミズキのかんざしだ。DXパッケージの化粧箱には、ハナミズキのせんすのイラストを付けた。せんすやかんざしといった和風アイテムには、ヤマハオリジナルVOCALOIDの生粋、純潔といったイメージを反映。海外展開も意識しているという。
初音ミクのようなキャラクターは付けていない。キャラクターを付けず、声を提供した人物も明かさずに出すVOCALOIDソフトは初だ。キャラクターや声の主のイメージに限定されることなく曲のイメージをふくらませてもらえるほか、プロミュージシャンの仮歌作り、学校や企業のPR音源作りなど、“色の付いていない”声が欲しい場面で使いやすいのではとみている。
とはいえ、VOCALOIDのファンの“絵師”などがキャラクターを付けてくれることも期待している。「VOCALOIDはキャラがあって成長してきた。VY1のキャラクターも、絵師の方々に描いていただければ」(同社研究開発センター音声グループマネージャーの剣持秀紀さん)。
販売元は、「クラウド型VST」でヤマハと組んだビープラッツ。販売もビープラッツが7月にオープンしたVOCALOID関連製品販売サイト「VOCALOID STORE」のみだ。
ビープラッツは企業向けのSaaS提供で実績を持つ企業。クラウド型VSTをきっかけに、「音楽制作の現場のユーザーと接点を築いていきたい」と考え、VOCALOID関連製品のECに踏み切ったという。
初音ミクのヒットから3年。「鏡音リン・レン」「巡音ルカ」「がくっぽいど」「Megpoid」「氷山キヨテル」「歌愛ユキ」と、さまざまなキャラクターのVOCALOIDソフトが、日本のサードパーティから発売されてきた。
だが「キャラが付いていない方がいいという人も、一定程度いる」ことも事実。「3年経ってもまだ出ていないので、ヤマハでやろうと考えた」(入山さん)。「ヤマハは他社がやらないところをあえてやってみたい」(木村さん)
VOCALOIDソフトが増えすぎでは――一部にそんな声もあるが、「VOCALOIDは楽器。ギターなどと比べれば、まだまだ少ない。ソフトが増えることで表現力が広がる」と、研究開発センターの音声グループ技師補の小山雅寛さんは話す。
VYシリーズとして、キャラクターなしのソフトを今後も開発していく計画で、年内にもう1本発売する予定だ。声のバリエーションを増やし、「老若男女そろえたい」(木村さん)としている。
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