「仮説検定(1):お前はもう死んでいる」「サバイバル分析:坊やだからさ」──6月中旬発売の書籍「実証分析入門」(日本評論社)の目次には、アニメの名せりふを思わせるタイトルが各章に並んでいる。データを用いて仮説を検証する社会科学の手法「実証分析」を学生向けに解説するれっきとした専門書だが──。
同書は、法学の専門誌に掲載していた連載をまとめたもの。各章のタイトルは連載時と同じものを書籍に引き継いだが、「専門書とは思えない」と新刊の告知がネットで話題になっている。
「データや数式にアレルギーのある文系の学生にも興味を持ってもらえれば」――著者で東北大学大学院法学研究科准教授の森田果(もりた・はつる)さんは、ネタ満載の章タイトルの意図をこう説明。ネットで話題になることは想定しておらず、とても驚いたという。
実証分析には数学的な考え方が必要で、文系の学生にはとっつきにくい。同書はできるだけ数式を用いずに解説しつつ、アニメなど大学生に身近なネタを絡めることで、数学が苦手な学生にも興味を持ってもらおうとした。目次は以下の通り。
章 | タイトル |
---|---|
第1章 | 実証分析における心構え: これからの「実証」の話をしよう |
第2章 | 実証分析の落とし穴: こんなの絶対おかしいよ |
第3章 | 確率統計の基礎: 高校時代に逢った、ような…… |
第4章 | OLS: わたしの、最高の友達 |
第5章 | 重回帰分析: 魔女の作り方 |
第6章 | 決定係数R2: ☆もりはつ☆の59%は勢いで出来ています |
第7章 | 仮説検定(1): お前はもう死んでいる |
第8章 | 仮説検定(2): 私が死んでも代わりはいるもの |
第9章 | さまざまなモデル: ダミーも、交差も、あるんだよ |
第10章 | バイアス: いや、そのつくりはおかしい |
第11章 | 不均一分散への対処: こんなこともあろうかと |
第12章 | 目的変数が質的変数の場合: 飛ばねぇ豚はただの豚だ |
第13章 | 最尤法(MLE): OLSとは違うのだよ、OLSとは! |
第14章 | 目的変数が三択以上の場合: B’zよりPerfume |
第15章 | サバイバル分析: 坊やだからさ |
第16章 | 因果効果の推定: あんなのただの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ。 |
第17章 | マッチング: 人類補完計画 |
第18章 | DD: 劇的(?)ビフォーアフター |
第19章 | 固定効果法(FE): あなたとは違うんです |
第20章 | 操作変数法(IV): 俺を踏み台にした!? |
第21章 | LATEと構造推定: なんでもは知らないわよ、知ってることだけ |
第22章 | 不連続回帰(RD): 3分間待ってやる |
第23章 | はじめての構造推定: 見えるぞ、私にも構造が見える |
第24章 | イベントスタディ: 昨日の僕は今日の僕ではない |
第25章 | 量的テキスト分析: 読まずに死ねるか |
第26章 | ベイズ統計: ベイジアンは滅びぬ、何度でもよみがえるさ! |
第27章 | その他の分析手法: もう何も怖くない |
章タイトルには、「こんなの絶対おかしいよ」(魔法少女まどか☆マギカ)、「お前はもう死んでいる」(北斗の拳)、「坊やだからさ」(機動戦士ガンダム)、「私が死んでも代わりはいるもの」(新世紀エヴァンゲリオン)などアニメネタを中心に、「劇的(?)ビフォーアフター」などテレビネタ、「あなたとは違うんです」など時事ネタまで織り交ぜている。
タイトルは「必死に考えて作った」が、うまく考えついたものと、そうでないものがあるという。気に入っているタイトルの1つは「ベイズ統計:ベイジアンは滅びぬ、何度でもよみがえるさ!」(元ネタは「天空の城ラピュタ」)だ。ベイズ統計は、批判にあって沈み、その後再発見され、また埋もれ、再評価され――と毀誉褒貶が繰り返されてきたという。まさに「何度でもよみがえった」のだ。
「LATEと構造推定:なんでもは知らないわよ、知ってることだけ」(元ネタは「化物語」)も、うまく付けられたタイトルだ。構造推定とは、世の中を説明するモデルを作り、そのモデル通りに世界が動いていると考える、いわば「世の中すべてを知っている」前提の手法、一方「LATE」は、世の中のすべては分からないという前提で、ごく一部を切り取り、その部分だけをデータで語る、「なんでもは知らないわよ、知ってることだけ」のモデルだ。
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