ノコギリエイは日本国内で絶滅していた──琉球大学などの研究チームは6月24日、そんな発表をした。海産魚類として、日本で「国内絶滅」(国内で50年以上の確認例がない場合、環境省レッドリストの判定基準で国内絶滅に該当する)が証明された実例は、今回が初めてという。
ノコギリエイ科は、エイ類で最も大型であり、最大全長は7mに及ぶ。ノコギリエイ科の生物は、沿岸環境の悪化や乱獲で個体数が減少しており、絶滅の危機にあった。
今回研究チームは、東京大学総合研究博物館動物部門が収蔵する魚類標本の整理・調査を実施。その際、1928年3月5日に東京市場で水揚げされた、サカタザメ目ノコギリエイ科に属する「Anoxypristis cuspidata」(アノキシプリスティス カスピダータ)の標本を見つけた。そこからさらに、国内に残っていたノコギリエイ科の標本や、16世紀から現在まで日本と東アジア域から報告があったノコギリエイ科魚類の文献資料を整理した。
結果、これまで日本にはノコギリエイ科のエイは1種だけが分布するといわれていたが、実は2種いたことが判明。少なくとも、アノキシプリスティス カスピダータについては該当の海域上では絶滅していたと分かった。ノコギリエイ科の和名や種の認識に混乱があり、50年以上もの間、正確な記録がなかったという。
研究チームは、アノキシプリスティス カスピダータには標準和名として、ノコギリエイを適用し、もう一種に当たる「Pristis pristis」(プリスティス プリスティス)には新標準和名「オオノコギリエイ」を新たに提唱している。
研究代表者である琉球大学理学部の小枝圭太助教(海洋自然科学科生物系)は「標本の個体の水揚げ場所が東京市場であったこと」「標本のノコギリエイが、自身が認識していたノコギリエイとは大きく異なっていたこと」の2点に驚いたと指摘。「ノコギリエイ」という魚の認識が1990年代後半を境に、全く別の種に置き換わっていたことが分かったという。
「種が地域において絶滅してしまっていたという事実は、生物学者として極めて残念ではあるが、このような事実が気付かないうちに進行してしまっていることを理解するための重要な事例となれたのではないかと感じている」(小枝助教)
この研究成果は、科学雑誌「魚類学雑誌」にて6月20日付で掲載された。
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