中国のITと言えば「PCやスマートフォンなどのハードウェア製造」を思い浮かべる方も多いと思うが、最近では市場の成熟を反映したのか国内向けにソフトウェアやサービスを提供する事業者が増えつつあり、こうして誕生したスタートアップの中には最初から世界展開を視野に入れたものも登場している。
Microsoftが中国の北京に拠点を置く研究所「Microsoft Research Asia(MSRA)」は、そんな中国のIT最前線で活躍している起業家らを支援し、ときには自らが人材輩出を行う形で拡大を続けている。今回はこのMSRAの活動に触れつつ、今後数年内にもWindowsの世界へとやってきそうな最新技術を紹介する。
MSRAが設置されたのは1998年のこと。「Microsoft Research(MSR)」の名を冠する同社の研究所としては、2005年にインドのバンガロールに設置された「Microsoft Research India」と並んでアジアの2大拠点の1つとなる。
北京という中国の政治で中心に位置することからも、設置理由の1つは中国市場への早期のコミットが考えられるが、一方で地元の優秀な学生を呼び込んで産学協同プロジェクトを推進する側面が大きいと言える。
世界に拠点が複数あるMSRだが、それぞれ異なるテーマを持つ。例えば北京のMSRAが掲げるのは、「ナチュラル・ユーザー・インタフェース(NUI)」「次世代マルチメディア」「データ集中型コンピューティング(Data Intensive Computing)」「検索とオンライン広告」「コンピュータサイエンス基礎研究」の5つのテーマだ。
ここでの研究成果は中国国内だけでなく、世界市場向けの製品に反映することも想定している。今回紹介する研究成果の一部は、近い将来にも読者の方々が手にするWindowsや関連製品の中で見かけることになるかもしれない。
このMSRAを設立以来率いているのは同マネージングディレクターのHsiao-Wuen Hon氏だ。同氏は米Microsoftのサティア・ナデラCEOが同職就任時に従業員に向けて発信したメッセージ「Our industry does not respect tradition - it only respects innovation.(われわれの業界は伝統ではなく、イノベーションを尊ぶ)」を引用しつつ、オープンな環境で内外のさまざまな研究者が参画することで、明日の技術革新を推進していけるというMSRAの基本スタンスを強調している。
Hon氏はMSRAでの研究成果をいくつか挙げているが、その重要なものの1つは「Skype Translator」だろう。音声とテキストチャットともに、異なる言語を相手が分かる形でリアルタイムに翻訳するシステムは、何十年も前からSF映画などで描かれ続けてきた「未来図」そのものだ。
同製品はまだプレビュー版の段階だが、そう遠くない未来にも、ごく当たり前のサービスとして、Windowsやスマートフォンに実装されているかもしれない。
身近なテーマとしては「自然言語解析」と、膨大なデータベースを組み合わせた「人工知能(AI)」も面白い。「単語」ではなく「質問文」を入力して最適解が導き出せる「Bing Search」の仕組みは、この2つの技術を組み合わせたものだ。
同じくBingをベースに音声認識と音声アシスタントの機能を実装した「Cortana」も、このMSRAの研究の一部が利用されている。残念ながら日本国内での提供は当面見送りとなるCortanaだが、中国では「小娜(XiaoNa、シャオナ)」の名称でWindows Phone 8.1(ならびにWindows 10)におけるサービスが提供されている。
この技術をSina Weiboなど中国国内の人気SNSに展開したのが「小氷(XiaoIce、シャオイス)」だが、これは一時期流行った自動応答プログラム「人工無能」のような体裁となっている。人間が小氷に話しかければ、その文章を理解して小氷が最適な返事を返すというもので、実際に記者が小氷へのロングインタビューを行って会話が成立しているという事例を報告している。
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