労働政策研究報告書 No.137
高齢者の就業実態に関する研究
概要
研究の目的と方法
高齢者の就業と就労意識・生活の実態を把握するため高齢者の個人調査を実施し、その実態を明らかにした上で、同調査を用いて主として二つの点から分析を行った。まず、公的年金と雇用との接続に係る課題を明らかにする観点から、在職老齢年金制度の改正で高齢者の就業にはどういう影響の変化があったのか、また今後の年金支給開始年齢のさらなる引上げの生計への影響を見極める観点から、高齢者の家計はどのような実態にあるのかを分析した。第二に、高齢者個人の意識・就業行動を企業の雇用管理の側面から見るため、高齢者の仕事満足度は60歳以降の継続雇用にどう影響しているか、また高齢期の教育訓練は高齢者の労働供給や勤労所得にどう影響するか、などについて分析した。
主な事実発見
- 在職老齢年金制度による就業抑制効果は、制度改正以前には必ず見られたが、現在は一部の年齢を除き見られなくなっている。
- 現在、何らかの原因で就労していない高齢者は、そうでない者と比べて、基礎年金の繰上げ受給をしている者の割合が高いが、そうした者の家計の状況を見ると収入が少なく、生計は厳しい実態にある(図表)。また現在、厚生年金を受給している者の家計を見ると、約15%の者は、勤労収入が少ないために厚生年金がなければ収入が生計費を下回り、かつ、純貯蓄を取り崩しても生計費をまかなえない実態にある。勤労収入が少ない原因は、不就業であるか、就業していてもパート・アルバイトなどの低収入の仕事をしていることによる。
- 高齢者の仕事満足度が離職意向に与える影響に係る計量分析によれば、仕事満足度が低くなると離職意向が高くなることが明確に確認できた。また、賃金があまり低いと離職意向が高くなることが見て取れた。
- 高齢者の教育訓練に与える要因等を計量分析したところ、学歴が高い人ほど55歳以降に教育訓練を受ける可能性は高いこと、また55歳以降に教育訓練を受けた場合、他の条件が一定であれば、賃金は高くなる可能性があることがわかった。
注:低所得基準は等価所得(2009年7月)が月額10.8万円未満である。
政策的含意
- 公的年金に関するいくつかの分析結果は、公的年金の報酬比例部分に係る支給開始年齢の引上げが2013年以降始まることに対して、基礎年金繰上げ制度は所得の埋め合わせ手段としては十分ではないこと、したがってやはり就労の場を確保し、一定の勤労収入を確保していくことが重要であること、を示唆している。
- 仕事満足度に係る分析結果は、企業における高齢者の継続雇用に関する取組みがうまくいくかどうかは、勤務先の企業における賃金など労働条件や人事労務管理のあり方について、高齢者自身が満足しているかどうかも、一つの要因として影響していることを示唆する結果となった。一方、高齢者の教育訓練への影響に関する分析結果は、高齢期においても教育訓練は重要であることを改めて示すとともに、若年期からの計画的な教育訓練が重要であることを示唆している。
政策への貢献
政府が今後、企業に対して高齢者の継続雇用等の指導・情報提供を進めていくに当たって、上記の高齢者の仕事満足度の影響に係る分析結果などを中心に参考にされることが期待される。
本文
- 労働政策研究報告書 No.137 サマリー (PDF:494KB)
- 労働政策研究報告書 No.137 本文 (PDF:3.4MB)
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- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次
序章 調査研究の概要と本研究の含意(PDF:1.2MB) - 第1章 雇用と年金の接続−就業抑制と繰上げ受給に関する分析−
第2章 年金支給開始年齢引上げの下での生計と高年齢者雇用確保措置の機能(PDF:802KB) - 第3章 高齢者の仕事満足度の決定要因およびその離職意向に与える影響
第4章 教育訓練が高齢者の給与所得および労働供給に与える影響(PDF:1.0MB) - 第5章 「高年齢者の雇用・就業の実態に関する調査」から見た公的年金制度(PDF:1.0MB)
- 補論 日本の高齢者雇用就業政策の課題 − 70 歳程度までを視野に入れた高齢者の質の高く、かつ多様な雇用・就業環境の実現 −(PDF:1.7MB)
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次
研究期間
平成22年度
執筆担当者
- 大塚崇史
- 前・労働政策研究・研修機構副統括研究員
- 山田篤裕
- 慶應義塾大学経済学部准教授
- 浜田浩児
- 労働政策研究・研修機構労働政策研究所副所長
- 馬欣欣
- 労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー
- 山本克也
- 国立社会保障・人口問題研究所/社会保障基礎理論研究部第四室長
- 岩田克彦
- 職業能力開発総合大学校専門基礎学科教授