阪神・淡路大震災で家を失い、多くの人が避難した神戸市立神楽小学校の体育館=1995年1月22日、同市長田区神楽町1
阪神・淡路大震災で家を失い、多くの人が避難した神戸市立神楽小学校の体育館=1995年1月22日、同市長田区神楽町1

 過酷な避難生活などによって命を落とす「災害関連死」が、阪神・淡路大震災(1995年)で初めて認められて以降、認定者はこの30年間で5300人以上に上ったことが、神戸新聞社の調べで分かった。南海トラフ巨大地震では7万人を超えるとの推計もある。被災後の厳しい生活環境をどう改善し、死のリスクを軽減していくか。国をあげての対策が急がれる。

 阪神・淡路では、避難所で体調を崩して亡くなる人が相次いだ。そのため、震災との因果関係が認められたケースに災害弔慰金を支給する仕組みができ、「関連死」の概念が生まれた。

 被害の大きい「特定非常災害」に指定された阪神・淡路など8災害を調べたところ、関連死と認定された人は計5392人。8災害以外にも認定はあり、実際はさらに多くなる。

 最多は東日本大震災。原発事故で避難が長期化した人が多い福島県だけで2343人いた。阪神・淡路はインフルエンザや肺炎が目立ち、新潟県中越地震では車中避難者らが長時間体を動かさないことで血栓ができる「エコノミークラス症候群」の問題がクローズアップされた。中越地震や熊本地震、今も認定が続く能登半島地震などでは、住宅倒壊や火災などで亡くなる「直接死」より多かった。

 関連死は避難生活での疲労やストレスが引き金となりやすく、高齢者や持病のある人ほど危険は高まる。内閣府が2023年にまとめた事例分析(127人)によると、70歳以上が82%。災害発生の3カ月以内に死亡したケースは60%を占め、被災直後の劣悪な環境の影響がうかがえる。

 兵庫県災害医療センターの救急部副部長、甲斐聡一朗さん(42)は、能登半島地震の発生9日後に現地の避難所に入った。前日に1人が亡くなっていた。当時は発熱患者らへの対応に追われ、避難所の環境改善は後手に回っていたという。甲斐さんは「その死を防ぐ方法はなかったか。一つ一つの経緯を調べることが、関連死を減らすアプローチになる」と話す。

 同時に、関連死は避難所だけでなく、自宅や車中、高齢者施設でも確認されているため、さまざまな事例を分析する必要がある。

 ただ、阪神・淡路後も長らく明確でなかった関連死の定義を国がようやく定めたのは19年。対策の手引きとして広く事例を分析し、公表を始めたのも21年。石破茂首相は昨秋、「関連死ゼロ」を目指すと表明したが、取り組みは緒についたばかりだ。

 懸念されるのは、発生確率が高まる南海トラフ巨大地震だ。関西大社会安全学部の奥村与志弘教授(44)は、過去のデータなどから関連死者数が7万人を超えると推計した。

 奥村教授は、高齢化の進行で関連死のリスクは以前よりむしろ高まっているとし、ライフラインの確保や食の支援など官民あげての取り組みが必要だと強調。「関連死は、津波の次に対策を講じるべき問題だ」と警鐘を鳴らす。(中島摩子、高田康夫)