サラリーマン卒業生を応援するウェブメディア「Leaving Work Behind」の創設者Tom Ewer氏は、職種・業界問わず、受託業務の値付けに悩むビギナーから、従来の料金体系を見直したいベテランまで、フリーランスの人々から「いったい、いくら請求すべきなのか?」という相談をよく持ちかけられるそうです。たしかにフリーランサーにとって、価格の設定や交渉は、最も複雑でつい怖じ気づいてしまうものかもしれませんね。
そこで、Ewer氏は、フリーランスの方に向けて、価格の設定やクライアントとの交渉におけるコツを以下のように詳しく紹介しています。あらゆるサービス業界にも応用できるので、参考にしてみてください。
前編ではレートの設定を始めとした「シゴトの値段」にまつわるテーマについてをお届けしました。この記事では「クライアントとの交渉」についてを取り上げていきます。前編に関する話も出てきますので、まだ読んでいない方は、ぜひ目を通してみてください。
交渉をしよう
僕は、前職で不動産管理・開発の仕事をしていたので、交渉の初心者ではなく、極めて自然にやってきました。フリーランスのクライアントと細かな取引で交渉するのも苦ではありません。
「交渉は必ずしもイヤな展開になるとは限らない」と自分は思っています。一般的には「クライアントは安い取引を望むものだ」と捉えられているようですが、自分はあまりそうは思いません。もちろん、先進的な考え方を持つ「ブログ文化」特有の副作用なのかもしれませんが、企業クライアントがいかに気前よく払う心づもりがあるか、私の友人Ruth ZiveさんがCEOを務める「MARKETINGWISE」を見てもわかります。
では、フリーランサーのため、交渉の世界を詳しく掘り下げてみていきましょう。
仕事の範囲を明確に
自分が価格設定しようとする業務の範囲を、必ず明確にしましょう。フリーランサーにとって最悪のケースは、クライアントとの間で、受委託業務の範囲にズレがある場合です。関係もギクシャクしますし、見積り外の追加時間を業務に当てざるを得ません。業務の性質と範囲について、明確に合意しましょう。業務遂行の過程で追加業務が発生した場合は、将来の日付で長期間にわたる正式契約を締結することを基本に、クライアントと一時的な合意をすること。
また、業務内容が何であれ、業務の性質に関して、明確な長期契約を締結しましょう。メールベースでやりとりしてもいいし、正式契約にしてもいいです。ポイントは「自分が提供するモノ・サービスは、クライアントからの依頼と一致している」ことを明白に主張できるようにしておくことです。
価格設定をする際のチェックポイント
価格設定では、業務を構成要素別に分解していくことがポイントです。業務を分解したら、それぞれの要素について、偶発事項への備えも含め、保守的な視点で時間を割り当てましょう。すべての要素の時間を足し合わせ、加えて重要な偶発事項の追加の要否を検討します。もちろん、クライアントは交渉したがるでしょうし、提示価格が実際の価値を示しているどうかにかかわらず、少しでも買い叩けないと「キビシイなー」と感じるかもしれません。
前述のすべての要素が価格設定に考慮されていることが望ましいです。以下の質問について、考えましょう。
- 自分が提供しているサービスの価値は何か?
- 競合はいくら課金しているか?
- 自分の市場はどれくらい競争が激しいか?
- このタイプの仕事において、需要と供給のバランスはどうなっているか?
- このクライアントと仕事をすることに関して、間接的な利点はあるか?
このような事態が発生したら、自分が「合理的だ」と判断している価格の分析について、もう一度、振り返る必要があるでしょう。むしろ、クライアントは保守的なスタンスで見積もった価格について、値下げの交渉をしようとする可能性が高いです。
MARを超える価格の交渉にどこまで力を入れるかは、他の仕事の入り具合や、ごり押しする余裕はあるか、MAR以上の価格でお金を稼ぐ必要があるかなど、「その仕事でどれだけ稼ぎたいか」によります。状況を考慮して、交渉に当たりましょう。1時間あたりの価格レートがMARを超えるなら、超過分は自分の「稼ぐ力」を表すものであり、自分の生命にかかわるものではありません。仕事する必要が本当にあるなら、抜け目のなさすぎる交渉は避けたほうが無難です。
ボトムラインはどこか?
クライアントがMAR未満まで値下げしようとしてきたら、3つの選択肢があります。
時間ベースでの価格レートとMARとの差分よりも、その業務に付随する間接的な利益が大きいと判断できる場合、「選択肢1」を選べます。僕もこの種のクライアントを抱えています。実際の対価は自分のMARを下回っていますが、ブログへのフリーリンクがもらえるので、埋め合わせはできています。結局、金銭的な対価もなく、このブログの宣伝に多くのエネルギーを費やしているので、悪い話ではないのです。
最悪、その仕事が取れなくても問題ないなら「選択肢2」を選択できます。間接的な利益がない場合の単純明快な判断です。
「選択肢3」は、納品されるモノ・サービスについての妥協の産物。個人的には好きな選択肢ではありません。ときに、クライアントの不満やイライラした関係を引き起こしがちだからです。
一般的に言えば、僕は「選択肢1」を選びます。なぜ、自分は生活を維持する程度の金額も払ってくれないクライアントと仕事をしたいと思うのでしょう? もし、クライアントが強気に出てきて「ちょっと少ないけど、仕事を受けようかな」と感じたら、そもそもMARを見直す時期なのかもしれません。
前払金は求めないのがベター
個人的な見解としては、特に大規模な業務や、膨大な初期投資が必要でない限り、前払金を求めるべきではありません。「私はあなたを信用していません」と言うようなものだからです。長期にわたる有益な関係のスタートとして、妙案とはいえません。
その代わり、クライアントを適切に審査すること。提案された支払条件に納得いかないなら、長期契約を締結する前に試用期間を設け、当該期間は支払期間を短く設定しようと逆提案するのも一法です。また、「未払いのクライアントは事業コストである」と認識するようにしましょう。
料金は永久ではない
フリーランス初心者は、一旦、価格が設定されると、そのままにしがちです。しかし、それぞれのクライアントは、「クライアントのひとつ」にすぎませんし、価格は未来永劫に拘束するものではありません。もちろん、最悪の場合は価格交渉によってクライアントを失うこともありえますが、すべてを失うわけではありません。
僕は、新規クライアントに対しては、「まずはこの価格ではじめましょう。いくつかの記事のあと、期待値と実際の成果がどの程度合っているか、改めて評価しませんか」と言うようにしています。
僕のこの提案に対してネガティブな反応をしたクライアントはいません。常に、両者にとってフェアなラインで落ち着きます。自分の信頼を示して、クライアントと向き合えば、「ぼったくってやろう」という気持ちよりも、「一緒にいい仕事をしよう」と思ってくれるはずです。そして、公明正大な仕事をやっていれば、長期にわたる仕事のパートナーとして認めてくれるでしょう。
Ewer氏のこれらのアドバイスによると、フリーランスの価格設定や交渉に、複雑な計算式やトリッキーな交渉術は必要ありません。むしろ、シンプルかつ明瞭に、自身の金銭的/非金銭的利益を評価・判断し、クライアントと誠実に向き合うことこそが大切。長期的な信頼関係が構築でき、ひいては安定的な収益基盤の構築につながるようですね。
Freelancing: a Complete Guide to Setting and Negotiating Rates⎪Leaving Work Behind
Tom Ewer(原文/訳: 松岡由希子)
Top image remixed from Kzenon (Shutterstock).