99U:詩人、作家、アーティスト...自身いわく「ベン図のような職業」であるオースティン・クレオン氏。「写真と文章とウェブ。これまでのプロジェクトは、基本的にこの3つをうまく融合させる方法を模索する試みでした」と彼は言います。

5歳のとき、クレオン氏は祖母のキッチンの床の上で、マンガ『ガーフィールド』を真似しながらマンガ制作を開始。14歳のとき、オハイオ州の田舎町でインターネットを発見。すぐに、ウェブサイトこそ、自分らしい表現のできるツールであると感じます。

20代前半で、Chris Ware、 John Porcellino、Art Spiegelmanといった新旧のすばらしいマンガ作家を開拓します。26歳で、初の詩集『Newspaper Blackout』を出版。新聞記事を油性ペンで黒く塗りつぶして、詩をつくりあげます。そして、28歳のとき、ニューヨークタイムズ誌のベストセラー『Steal Like an Artist: 10 Things Nobody Told You About Being Creative』を出版します。

こうした活動を通じて、クレオン氏(現在30歳)は、インターネットの時代に自分のクリエイティヴな作品を輝かせる方法をいくつか学びました。そうして得た気付きを元に、最近『Show Your Work!』を発表。自信をもって、自分の作品のプロモーションをする方法などを伝授します。

Photo byAustin Kleon via Flickr

セルフプロモーションは「フィードバックから学びを得るきっかけ」

── 新しい著書『Show Your Work!』では、多くのクリエイティヴな人々が敬遠しがちな話題、セルフプロモーションの考え方について触れていますね。そもそもなぜ、この話題は重くなりがちなのでしょう? クリエイティヴな人々がマーケティングを嫌がる理由はどこにあるのでしょうか?

クレオン:なにかを制作するというのは、大きなエネルギーと時間、集中力を必要とします。なので、クリエイティヴな人々の多くは、セルフプロモーションやマーケティングをやると、制作時間が少なくなってしまうと考えます。自分のブランドづくりに時間をかけていたら、作品づくりに取り組む時間がなくなってしまう。こう考えるのです。

ですが、クリエイティヴなプロセスに関して、違う考え方もできると思います。実際の作業を、共有可能な細かいプロセスに分けていくのです。毎日、作業のプロセスを公開したら、それだけでも持続的な作品のプロモーション方法になります。アーティスト自身のプロモーションではなく、作品のプロモーションです。

Christopher Hitchensという作家について、すばらしい話があります。彼は、1冊の本を書くという作業は、生涯にわたって無料の教育を受けるようなものだと言いました。彼は、自分の書いた本を読んだ読者から、継続的にEメールや手紙を受け取ったり、いろいろな物をもらったり、また彼らとイベントで会うという経験をしました。彼は、本の執筆からだけではなく、本に対する人々の反応からもまた、多くの学びを得たのです。

それはまさに、セルフプロモーションの考え方に通じるものだと思います。学びの場への扉を開ける行為であると考えればいいのです。クリエイティヴなプロセスを共有する、自分のつくったもの、アイデアを共有するといった、ほんの些細な行動がきっかけで、作品に対する他者からのフィードバックを得ることができるのです。

すると次に、自分自身を傷つけることなく、フィードバックを受け入れる方法を見つけなければなりません。それは、アーティストとして生きる上で重要な部分ですよね。自分に役立つものと、自分に害となるものを区別する方法を理解しておくという。

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▲オースティン・クレオン氏の著作『クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために』 Photo byAustin Kleon via Flickr

情熱を持ち続けること、柔軟に対応すること

── あなたの作品は、アートと文章を非常にユニークな方法で結びつけています。こうした仕事をしながら、どのように稼げるようになったのでしょうか?

クレオン:私の職業は、あたかもベン図で表現できるようなものです。写真と文章とウェブ。これまでのプロジェクトは、基本的にこの3つをうまく融合させる方法を模索する試みでした。

もっとも重要となるのは、これは自著の『クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST』でも書いたことですが、遊びに対する情熱を常に持ち続けるべきだということです。自分が大好きなことを放棄することはできません。常にそれを大事にしておけば、それらすべてを融合させる方法を最終的に見出すことができるはずです。

本質的には、祖母のキッチンで『ガーフィールド』を真似たマンガを書くという行動が進化して、幼稚園でつくるようなイラスト入りの本を大人向けにつくるようになったようなものです。

子どもの頃はみな、こうした情熱をもっています。ですが、情熱は削がれていきます。なぜなら、教育を受ける機関では、生徒がつくりたいと願うようなものを実現するための仕組みが整っていないからです。

なので、アーティストまたはクリエイティヴな人間として成功できるか否かの大部分は、自分の情熱を受け止めて、周囲の人脈を見回して、いかに周囲の世界とつながる方法を見出せるかにかかっているのです。

アートに対して燃えるような情熱をもち、19世紀のアーティストに憧れをもちつづけているようなアーティストも数多く存在します。ですが、過去は過去で、今はそうした世界は存在していないのです。既に死んだアーティストを真似てもうまくいきません。今置かれている世界を理解し、即興で、柔軟に対応することが求められるのです。

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Photo byAustin Kleon via Flickr

「毎日続けること」のパワー

── その時に合わせた柔軟な対応が求められるというのは、間違いないですね。ですが、壮大なビジョンや、基本計画を立てることはどうなのでしょう? そうしたものは、これまで持っていませんでしたか? もしあったとしたら、今の仕事にどのような影響があるのでしょう?

クレオン:多くの人は、1日15分の作業を10年間続けることの影響力を、1日10時間の作業を1年続けることの影響力に比べて、過小評価し過ぎていると思います。ほんの少しの作業でも毎日取り組めば、いつか大きな仕事となります。

たとえば、映画プロデューサーになる夢があるとしましょう。ポール・トーマス・アンダーソンのような存在になることなど考えず、まずは30秒のYouTubeクリップをつくってみましょう。可能な限りすてきな30秒のYouTubeクリップができたら、今度はそれを100本つくりましょう。まずはつくってみて、編集し、つくりながら学び、作品を発表していけばいいのです。そして、それに対してどのように人が反応するのかを学びましょう。

── 執筆とアート作品の制作作業は、毎日のスケジュールにどのように組み込まれていますか?

クレオン:最初に出版した本『Newspaper Blackout』は、職場までの行き帰りのバスの中での30分と、1時間のランチ休憩の時間をつかって、つくりました。かつては、職場までの通勤時間中に詩を1つ書いて、ランチ休憩中にまた詩を1つか2つ書き、さらに職場から家に戻るバスの中でもう一作書いていました。帰宅後、夜にさらに数作の詩をつくることもありました。

最初の本を仕上げるのに、25週あると分かっていたので、毎週10の詩をつくれば、最終的に250個つくれると計算しました。つくった詩の4割は駄作で、それ以外は出版用に使えるだろうと予測しました。最後は結局、つくった詩の半分は使いませんでした。とにかく、こうして制作を進めていったのです。

つまり、ここで言いたいのは、1週間に10個の詩をつくる、というのは絶対にできるはずということです。これは、あるプロジェクトに取り組むときに毎回考えることです。「このプロジェクトを、どのように毎日の作業に分けよう?」と自分に問うのです。

── 制作のための時間を毎日つくることさえ難しい場合、どうすればいいのでしょうか?

クレオン:私たちは、みな平等に24時間が与えられています。仕事や子ども、家族がいるかもしれません。私が最初の本を執筆していたとき、私はそれらすべてを抱えていました。ですが、本当にやりたいことに本気なのなら、スキマ時間というのは多く存在します。1日の中で、短い隙間時間というのはたくさんあるはずです。仕事をしながらも時間を捻出して本を書いている作家を数多く知っています。結局、優先順位の問題なのです。ドラマを5回分連続で観るか、それとも小説を書くかという選択の問題です。

── 毎日少しずつ作業を進めることは、勢いをつけるという点でも役に立つ方法だと思いますか?

あるプロジェクトが完成したあと、次に何をやるべきかが分からなくなってしまうという現象は、多くのクリエイティヴな人々が経験します。だからこそ、何に取り組んでいるにせよ、毎日やることを決めておくことが重要だと思うのです。

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Photo byAustin Kleon via Flickr

私にとっては、この黒で塗りつぶす詩を1日1作つくることです。何があろうと、毎日やります。そうすることで、波に乗れ、他の作業にも取り組めるようになるのです。

変化の中に身を置くことです。怠慢はクリエイティヴの対極に位置しているのです

Austin Kleon: Inertia Is the Antithesis of Creativity|99U

Jocelyn K. Glei(訳:佐藤ゆき)