2023年にNASDAQへ上場してから、約1年で上場廃止となったピクシーダストテクノロジーズ(以下・ピクシーダスト)。落合陽一氏がCEOを務める企業として注目を集めていたが、あまりにも悪すぎる業績で、そもそも「なぜ上場したのか?」とSNSで大きな波紋を呼んだ。
そんなピクシーダストについて、「個別株を買うなら中島聡のポートフォリオを真似すればいい」「投資家なら中島聡のメルマガは読むべき」といわれる中島聡氏がメルマガで見解を示している。
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起業家、ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)、MBA(ワシントン大学)。 NTT通信研究所、マイクロソフト日本法人、マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発に携わっている。
ピクシーダストは、とにかく上場が早すぎた?
筑波大学の准教授であり、メディアアーティストでもある落合陽一氏がCEOを勤めるピクシーダストが、NASDAQに上場しておきながら、1年と少しで上場廃止を決めた件が、激しく批判を浴びています。
参考:落合陽一氏のピクシーダスト、1年で上場廃止になった真相。「ナスダック上場ブーム」特集(2024/12/27)
ピクシーダストに関しては、このメルマガでは、2024年8月に以下のような形で、一度だけ取り上げたことがあります。
【質問】現代の魔法使いこと、落合陽一さんの会社の株が大変なことになっております。天才と言われてる落合陽一さんですが、NASDAQに上場後、株価が大暴落してます。中島さんの見解をお聞かせください。
【回答】ピクシーダストテクノロジーズ(PXDT)のことですね。そもそも、NASDAQに上場できてしまったこと自体が不思議ですが、小さなベンチャーがあまりにも早く上場すると、アナリストにも注目されず、誰も株を買わなくなって株価が下落する、という典型的なパターンに陥っているように見えます。
あまりにも株価が安いため(株価総額$20million)、株の発行による資金調達ができず、5月に商工組合中央金庫から10億円の借金をしたようですが(銀行借入の実施について)、直近12ヶ月の売り上げが85万ドル、赤字は230万ドルの会社なので、キャッシュフローから借金を返せるわけではなく、ここから1〜2年が正念場になると思います。
やっていることは悪くない会社だと思いますが、とにかく上場が早すぎました。この手の新規事業は、VCから資金調達をして、十分に育ててから上場すべきです。
落合氏のことは良く知りませんが、落合氏自身が「上場ゴール」で突っ走ったとは考えにくく、投資家やコンサルタントから勧められて「早すぎる上場」のリスクを知らずに上場してしまい、資金不足から窮地に追い込まれて上場廃止を決断した、と私は見ています。
日本市場よりも米国市場の方が上場しやすいことを利用して、日本の小さな企業を米国で上場させて多額の手数料を稼ぐ、悪質な「上場コンサル」と、株を手早く売り抜けたい投資家の思惑が一致した結果の上場だったのでしょう(実際、既存の大株主の一部は上場中に売り抜けたそうです)。
上場が廃止されたとしても、所有していたピクシーダストの株が紙屑になってしまうわけではありませんが、株式市場で売買が出来なくなってしまったので、実質、現金化が出来ない「塩漬け株」の状態になります。
2024年の4月に公開された財務諸表によると、その時点で現金を20億円ほど持っていましたが、1年間の赤字がちょうど20億円なので、そのままのペースだと2025年の4月には現金が底をつく計算になります。
その問題を凌ぐために2024年5月に商工組合中央金庫から10億円の借金をしましたが、その返済期限は2025年9月30日であり、いずれにせよ大幅なコストカットや増資をしない限りは、2025年中に現金が底をついて倒産します。こんな状況の会社に投資してくれる投資家もいないでしょうから、とても厳しい状況です。
倒産となれば、残った財産を債権者と株主で分けることになりますが、売却できるような資産を持っている会社ではないし、残った現金に関しては、債権者の方が優先順位が高いので、株主には一銭も返ってこないと思った方が良いでしょう。
ちなみに、必要以上に叩く人がいる理由の一つが、落合氏の「分かりにくさ」にあったと思います。彼の話し方はとても分かりにくいのですが、多くのファンからは(その話し方も含めて)尊敬もされているため、その分かりくさを批判せずに、皆で分かったようなフリをする「裸の王様」の状態にあったとも言えます。
上場廃止により落合氏の評判が落ち、NewsPicksが「王様は裸だ!」という意味の報道をした途端に、多くの人が批判する側に回ってしまったのです。
CEO(最高経営責任者)という肩書きを背負って会社を上場させ、数多くの株主(落合氏のファン)に損失を負わせたのですから、ある程度の批判は仕方がないとは思いますが、必要以上の批判が集中するのを見るのは、あまり気分の良いものではありません。
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『 週刊 Life is beautiful 週刊 Life is beautiful 』(2025年1月7日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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