倫理観が欠如した医師を生まないためにはどうすればいいのか。ある女性医師の衝撃的なSNS投稿をキッカケに問題視されていますが、前回の記事では、現役医師である徳田安春先生が「マルチプルミニ面接を導入すべき」と解説しています。ですが徳田先生の元には、「偽の行動態度を前もって準備することができてしまう」という意見が届いたのだそうです。メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者でもあり現役医師でもある徳田先生はどのように回答するのでしょうか。
この記事の著者・徳田安春さんのメルマガ
医学部入試で倫理観の真価を問い、不道徳な受験生を見抜く面接
偽りの言動を見抜く
前回の記事では、「マルチプルミニ面接」(Multiple Mini Interview: MMI)の有効性について解説した。世界の医学部入試ではメジャーとなっている面接スタイルであり、日本国内の一部の医学部でもすでに導入が始まっている。倫理観の欠如した医学部受験生を見抜くことは可能であり、実施すべきなのだ。
しかし、前回の記事を発表したところ、ある読者から「不道徳な受験生が、偽の行動態度を前もって準備することができるのではないか」とのご質問を受けた。ありがたい質問である。そこで今回は、MMIを適切に実施することによって、不道徳な学生の偽の行動態度を識別できることを説明する。
MMIでは、人間同士の対話の中での倫理的ジレンマへの対応と判断、そしてその根拠を示す必要がある。それは、シナリオケースでも過去の経験でも同じだが、倫理的ジレンマのシナリオを用いる方が、面接者が評価しやすくなる。
倫理的ジレンマを超えて
倫理的ジレンマのケースを議論として提示する場合、複雑で、そもそも単純な答えがあり得ない倫理的ジレンマのケースを提示する。これにより、受験者は自分の思考プロセスを示すことを余儀なくされる。まず、面接者は受験者がどのような倫理原則を用いるべきかについて説明してもらう。
受験者は、倫理原則の詳細についての説明と、シナリオケースへ適用する根拠についての説明をする。倫理的ジレンマとは、複数の倫理原則による判断が一致しない状況を指す。患者や家族などの利害関係者への説明もやってもらう。
受験者は、面接者との対話を通して、複雑な倫理推論の整合性を説明せねばならない。この整合性を説明する過程で、倫理推論の矛盾や真の倫理的理解の欠如を明らかにすることができる。倫理の深い学習経験の無い受験者は回答できない対話なのだ。
倫理的ジレンマの深層を探る
面接者はさらにフォローアップ質問も行うことで、倫理推論の深さを質疑していく。対話を通して回答を深く掘り下げることで、受験者が倫理推論を適応させることができるかについて問うのだ。対話を深めることで、回答が暗記されているかをテストすることにもなる。
受験者の非言語的手がかりについても面接者は観察する。偽造された態度に基づくボディランゲージ、トーン、態度も分析対象となる。医療のプロフェッショナリズムに焦点を当てたケースシナリオのステーションを複数含めることで、評価の信頼性も高くなる。
ケースの深掘りの対話の中で、受験者の倫理判断が医療プロフェッショナルでの標準的基準と一環して真の一致をみるかを、面接者は常に確認していく。これを偽装することは困難なのだ。「医学部に入学するためには理科系科目のみ勉強すればよい」という時代はもう終わっている。近い将来、倫理原則に基づく倫理推論ができる学生を取ることが当たり前になるだろう。
この記事の著者・徳田安春さんのメルマガ
image by:Shutterstock.com