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【弁護士執筆】2025年1月1日施行 厚生年金保険法施行規則改正のポイントと対応策

公開日2025/01/21 更新日2025/01/20 ブックマーク数
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2025年1月1日施行 厚生年金保険法施行規則改正のポイントと対応策

この記事の筆者

牛島総合法律事務所
弁護士
猿倉 健司

牛島総合法律事務所パートナー弁護士。CSR推進協会環境部所属。 環境・エネルギー・製造・不動産分野では、国内外の行政・自治体対応、不祥事・危機管理対応、企業間紛争、新規ビジネスの立上げ、M&A、IPO上場支援等を中心に扱う。 「不動産取引・M&Aをめぐる環境汚染・廃棄物リスクと法務」「ケーススタディで学ぶ環境規制と法的リスクへの対応」のほか、数多くの著書・執筆、講演・ 研修講師を行う。


牛島総合法律事務所
弁護士
服部 梓

牛島総合法律事務所アソシエイト弁護士。2022年弁護士登録。
労働関係の案件や、各種訴訟案件を中心に扱う。その他、企業法務一般を取り扱う。



1. 厚生年金保険法施行規則改正の背景と重要性

(1)令和7(2025)年1月1日施行 厚生年金保険法改正内容の概要

(1)3歳未満の子を養育する被保険者への特例*1
令和7(2025)年1月1日に施行される厚生年金保険法改正の主な内容は、3歳未満の子を養育する被保険者への特例(以下、「養育特例」といいます。)の取扱いです。

養育特例とは、育児期間中に被保険者の収入が低下した場合であっても、将来受け取ることのできる年金額が減少しないようにするための制度です。将来受け取ることのできる老齢厚生年金の額は、報酬額(標準報酬月額)に応じて定まりますので、仮に養育特例が存在しないとすると、子を養育している期間に残業を控えるなどして報酬が低下した場合は、標準報酬月額が低下することになり、最終的に受け取ることができる老齢厚生年金の額も減少してしまいます。

そこで、養育特例は、3歳未満の子を養育する期間中の各月の標準報酬月額が子の養育を始めた前月と比べて低下した期間については、将来受け取ることとなる年金額を計算する際に、子の養育を始めた前月の標準報酬月額をその期間の標準報酬月額とみなすこととするものです。

*1 厚生労働省「3歳未満の子を養育する期間についての年金額計算の特例(厚生年金保険)」

(2)令和7年施行改正法の概要
従来、養育特例の申請をする際には、添付書類として、戸籍謄(抄)本又は戸籍事項証明書(以下、あわせて「戸籍謄本等」といいます。)を日本年金機構事務センターまたは管轄の年金事務所に提出する必要があるのが原則であり、申請を行う従業員や企業の労務担当者にとって負担となっていました。

令和7(2025)年1月1日に施行された厚生年金法施行規則第10条の2の2第7号の改正により、養育特例の申請をする際に、戸籍謄本等の添付を省略することが認められる場面が拡大され、申出の際の負担が軽減されます。

(2)改正前後の手続きの違い

(1)改正前の手続き
養育特例の適用を受けるためには、被保険者(従業員等)は、事業主(所属企業)を通じて「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出する必要があります(なお、育児のために既に退職しているような場合には、被保険者であった本人が直接年金事務所に申し出をしなければなりません)。

改正前は、一部例外はあったものの、「厚生年金保険養育機関標準報酬月額特例申出書」に加え、以下の書類を添付書類として提出する必要がありました。

1. 戸籍謄本等(申出者(従業員等)と子の身分関係を証明できるもの)
2. 住民票の写し(養育する子の生年月日および養育特例の要件に該当した日に申出者と子が同居していることを確認できるもの)

(2)改正後の手続き
今回の改正によって、申出者(従業員等)を使用している事業所の事業主(所属企業)が申出者と子の続柄を確認し、事業主による確認欄に確認済の記載をした場合には、上記①の戸籍謄本等の書類の提出が不要となりました。

もっとも、かかる方法により養育特例の申出をするためには、事業主(所属企業)は、戸籍謄本等により申出者(従業員等)と子の身分関係を確認しなければなりません*2。

*2 日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」

(3)添付書類が不要になる条件*3
以下において、それぞれの添付書類が不要となる条件を解説します(必要に応じて、今回の改正で認められることになったもの以外の近時の改正の内容も解説いたします。)。

1. 戸籍謄(抄)本又は戸籍事項証明書の原本(申出者と子の身分関係および子の生年月日を証明できるものを証明できるもの)が添付不要となる場合
こちらの書類が省略できる場面は、以下の3つです。

a. 申出者と養育する子に日本の戸籍があり、申出者と養育する子の個人番号がどちらも申出書に記載されている場合
→令和6(2024)年11月1日より、戸籍法の改正に伴い、戸籍謄本等の添付の省略が認められています*4。なお、この方法により添付書類を省略した場合、審査完了まで1カ月程度期間を要する場合があるため、急ぎの場合は、下記b.(養育特例に対する今回の改正)に従い事業主による身分関係の確認を受けるか、原則に従い戸籍謄本等の原本を添付する必要があります。

b. 申出者が使用される事業所の事業主が続柄を確認し、申出書の事業主による確認欄に確認済の記載をした場合
→前述のとおり、こちらが養育特例に対する今回の改正内容となります。

c. 申出者が世帯主の場合
→この場合は、戸籍謄本等ではなく、申出者と養育する子の身分関係が確認できる住民票の写しでも代用することができ、これを提出することで足ります。

*3 日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
*4 日本年金機構「令和6年11月1日(金曜)から老齢年金請求書等に添付する戸籍謄本等が省略できます」

2. 住民票の写し(養育する子の生年月日および養育特例の要件に該当した日に申出者と子が同居していることを確認できるもの)が添付不要となる場合
→こちらの書類については、令和3(2021)年10月より、申出者と養育する子の個人番号がどちらも申出書に記載されている場合には、省略が可能であるとされています。

(3)改正の背景と目的

(1)手続き簡素化の狙い
養育特例の適用を受けるためには、子との親子関係を証明する必要があります。従来、養育特例の適用に限らず、各種の申請において、親子関係の証明が必要となる場合には、戸籍謄本等の提出が必要とされていたため、各種の申請を行う場合のハードルとなっていました。このような状況を受けて、令和6(2024)年11月1日より、戸籍情報連携システムの本格運用により、養育特例の申出を含む老齢年金請求など複数の手続きについて、申請書に個人番号が記載されている場合には戸籍謄本等の添付が不要とされ、戸籍の取得にかかる負担が軽減されました。*5

*5  なお、かかる改正によって恩恵を受けるのは日本国籍の被保険者だけであり、個人番号による情報照会で身分関係を確認できない外国籍の被保険者等が養育特例を受ける場合には、引き続き戸籍抄本等の添付が必要となっていました(厚生年金保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行に伴う養育期間標準報酬月額特例申出書の取扱いについて
今回の、令和7(2025)年1月1日の厚生年金法施行規則の改正によって、事業主の確認による戸籍抄本等の添付の省略が認められるようになりますので、個人番号による情報照会によって身分関係を確認できない外国籍の被保険者の場合についても、戸籍抄本等の提出が不要となり、事業主及び被保険者の手続きの負担の軽減が軽減されることになります。

さらに、個人番号による情報照会を行う場合、申請後、審査に1か月程度時間を要する場合があることから、手続きを急ぐ場合は、原則に従い戸籍謄本を提出して手続きを進めるか、今回の令和7(2025)年1月1日の厚生年金法施行規則の改正によって導入された事業主による確認の場合を行うことで、速やかに手続きを進めることができることになります。このように今回の改正は、戸籍謄本の添付を省略しつつ迅速な審査を受けられるようになるというメリットがあります。

(2)少子化対策としての改正の意義
養育特例は、次代を担う子供を産み、育てやすい社会的な環境づくりに資するという少子化対策の観点から設けられたものです。他方で、被保険者が就労し、労働の担い手となることを積極的に評価するという側面もあり、子育てと労働の両立を支援するための制度であるということができます。*6

今回の改正により、被保険者と所属企業との間で戸籍謄本の取得・提出をやり取りする手間が少しでも減少することは、養育特例の申出へのハードルを下げることにつながると考えられ、育児中の従業員が、養育特定の適用を受けたうえで子育てのために時短勤務をする、残業を控えるなどの対応が容易になり、究極的には子育てしやすい社会の実現へとつながると考えられます。

*6 第5回社会保障審議会年金部会「産休期間中の保険料負担免除について」p11

(4)法改正が企業に与える影響

(1)中小企業への影響とリスクマネジメント
養育特例の適用を受けることが可能であるにもかかわらず、特例に該当するかの確認を企業が適切に行なわないなどの理由により、従業員および企業が申出を怠ってしまうケースも考えられます。養育特例の要件を満たしているにもかかわらず、申出を行わなかった場合、当該従業員は養育特例により将来の年金額が下がらないという恩恵を享受できなくなってしまいます。

企業が養育特例の適用対象となる従業員を見逃さないために特に注意すべき点としては、(a) 養育特例は、子の養育のために残業時間を減少させるなどして報酬が減少した場合には従業員の性別を問わず特例の対象となることや、(b) 養育特例は、かならずしも育児休業とセットである必要はなく、育児休業を取得していなくても要件を満たせば適用対象となることなどがあげられます。

令和7(2025)年1月1日の厚生年金法改正により、手続き的な負担が減少したことで、養育特例の適用の申出を行うケースが増える可能性があります。そこで、申出に適切に対応できるよう、企業内において、養育特例の適用の要件や手続きの内容等について再確認する必要があると考えられます。

さらに、今回の改正を機に、社内において、養育特例の適用を受けるべき従業員が、適切に申出を行うことができる体制が整っているか見直すのが望ましいです。仮に、現時点で、養育特例の適用を受けられるにもかかわらず、適用を受けていない従業員がいることが判明した場合、養育特例の届出については、申出日が含まれる月の前月までの2年間については遡及して申出を行うことが認められているため、可能な限り遡及して届出を行うべきです。

(2)手続き簡素化がもたらすメリット*7
従業員が子育てを行うという場面では、養育特例の適用に加えて、人事労務の担当者は、出生時育児休業給付金申請、育児休業給付金の受給確認、被扶養者(異動)届など、複数の手続きを行わなければなりません。これらの手続きの必要書類に関しては、対象となる従業員から添付書類を漏れなく受領し、必要であれば従業員に対して催促を行うなどの作業が必要となります。これらの作業は、少人数で業務を行っている中小企業の労務担当者にとって、大きな負担となり得ます。

また。育児休業に入ろうとしている、または既に入った従業員は、手続に必要となる書類について、人事労務の担当者に問い合わせることが負担であると感じる可能性があります。今回の改正により、育児に関する手続きの添付書類が少しでも減少することは、従業員だけでなく、企業の労務担当者にとっても、書類のやりとりなどの負担を軽減することにつながり、有意義であると考えられます。

*7 第12回共通課題対策ワーキング・グループ議事概要 p2~p4

(5)今後の法改正の見通し

(1)現在審議中の議論
現在、厚生労働省社会保障審議会年金部会で行われている改正に関する議論としては、たとえば、以下のようなものがあります。

1. 被用者保険の短時間労働者の適用拡大
短時間労働者を対象として被用者保険の適用を拡大することが議論されています。短時間労働者への被用者保険の適用については、長らく、所定労働時間及び所定労働日数が通常の就労者のおおむね4分の3以上である場合に限られていたところ、平成24(2012)年に「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、①週労働時間20時間以上、②月額賃金8.8万円以上、③勤務期間1年以上見込み、④学生は適用除外、⑤従業員500人超の企業、という5つの要件を満たす場合にはこれを適用することとされ、適用範囲が拡大されました。

その後、⑤の企業規模の要件は、令和2(2020)年からは、50人超規模の企業に変更されています。*8 現在、⑤の要件を撤廃し、さらに短時間労働者への被用者保険の適用を拡大することが議論されています。すなわち、⑤の企業規模の限定は、あくまで中小の事業所への負担を考慮して激変緩和の観点から段階的な拡大を進める目的の経過措置であるとされているため、労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度を構築する観点から、企業規模の限定を撤廃する方向の議論が進められています。*9

*8 厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方]第9 被用者保険の適用拡大」
*9 第 24 回社会保障審議会年金部会「社会保障審議会年金部会における議論の整理」p12

2. いわゆる「年収の壁」問題
いわゆる「年収の壁」とは、第3号被保険者(第2号被保険者に扶養されている配偶者)が働く中で、収入や労働時間が増加することで、本人負担の保険料が発生することによる手取りが減ることを避けるために、就業時間の短縮等の調整が行われ、希望の時間どおり働くことが阻害されているという問題です。これに対しては、3号被保険者のあり方そのものに着目した見直し(たとえば、第3号被保険者が、第2号被保険者として厚生年金に加入する道を開くことなど)を行うことも含めて議論されています。*10

*10 第 24 回社会保障審議会年金部会「社会保障審議会年金部会における議論の整理(案)」p16~17

(2)法改正に伴う申請書式の留意点
今回の改正に伴い、養育特例の申出に必要となる養育期間標準報酬月額特例申出書の様式が新しくなるようです。当分の間従前の様式を用いても差し支えないこととされていますが、手続きの漏れを防ぐためにも、今後は、新様式を用いるのが望ましいと考えられます*11。

*11 厚生労働省年金局事業管理課長「厚生年金保険法施行規則等の一部を改正する省令の施行に伴う養育期間標準報酬月額 特例申出書の取扱いについて」

2. 法務担当者や人事担当者が確認すべきポイント

(1)専門家からのアドバイス

 法務担当者や人事担当者が確認すべきポイントとしては、まず、養育特例についての周知を社内で十分に図れているか、という点が挙げられます。女性の従業員は、産前産後休業および育児休業の取得の手続きとともに養育特例の特例を申し出ることが多いのに対して、男性の従業員は、養育特例を申し出ることができるにもかかわらず、申出を行っていない例も見られます。したがって、性別を問わず、子供が生まれた従業員に対しては、養育特例の存在について周知し、会社に対して申出を求めることができる体制を整えておくことが重要となると考えられます。

さらに、養育特例のほかに、子供が生まれた従業員が適用を受けられる制度としては、①産前産後休業・育児期間中の社会保険料の免除(産前産後休業・育児休業等をしている間の社会保険料が、被保険者本人負担部分及び事業主負担部分ともに免除される制度)、②産前産後休業終了後、育児休業終了後の社会保険料の特例(産前産後休業終了後、育児等を理由に報酬が低下した場合に、被保険者が実際に受け取る報酬の額と、社会保険料の算定の基礎となる標準報酬月額がかけ離れた額となる場合があるため、標準報酬月額の修正を行う制度)などがありますので、これらの制度についても、周知することが望ましいです。

(2)まとめ

 今回の厚生年金法施行規則の改正は、養育特例の適用の際の添付書類を減らすものであり、従業員にとっても、所属企業の労務担当者にとっても手続きの負担を軽減するものとなっています。今回の改正をきっかけに、企業の労務担当者の方におかれては、再度養育特例の適用条件や添付書類を改めて見直していただくのがよいと考えられます。さらに、従業員が、養育特例の適用を受けられるにもかかわらず、知らずに機会を失ってしまったなどという事態が生じないよう、より一層周知を図られることをお勧めいたします。








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