新型コロナ変種が合意なき離脱を回避させた
土壇場でブレグジットに関する協議が纏まりました。
先日、英国が新型コロナの変種とブレグジット交渉の行き詰まりでダブルパンチをくらっているという話をさせて頂きましたが、最後の瞬間に両者が合意なき離脱に対する恐れから歩み寄った様です。
一部には新型コロナ変種が両者を歩み寄らせたとの見方もあります。
これはどういう事かといえば、新型コロナ変種の英国での発生を受け、フランスが英国へのトラック輸送を一斉に停止させたのですが、この動きが合意なき離脱がもたらすインパクトを両者に認識させたという事の様です。
土壇場で纏った両者の合意をドーバー海峡の両岸即ち英国とフランスはどの様に捉えているでしょうか。
英仏のメディアの論調をご紹介したいと思います。
英BBC社説抜粋
当初は不可能と言われていたような大規模な貿易協定を期限内で行ったことは、双方にとって大きな成果です。
皆さんの個人的な見解がどうであれ、EU離脱のキャンペーンを行った陣営には公約を達成した感覚があります。
彼らは貿易割当(Quota)ゼロと関税ゼロを自由貿易協定において獲得し、欧州の法律から英国を開放しました。
政府の経済監視機関である予算局は、合意なき離脱は来年の国民所得を2%縮小させ、大きな失業につながるだろうと警告していました。
また、多くの輸入品の価格上昇につながる懸念もありました。
一方、この取引が英国の他の事業にとって何を意味するのかについては、まだ大きな疑問符があります。
来週、EU単一市場と関税同盟を去るとき、我々は余分な事務処理に直面するでしょう。
しかし、英国とその最大の貿易相手国との間の関税の脅威(輸入税)は取り除かれるでしょう。
仏紙Les Echos記事抜粋
実際には、まったく同意しないよりも同意する方が良いです。
イギリスだけでなく、フランスにとってもです。
週の初めに新型コロナの変種が発見されてから、48時間にわたってフランスと英国沿岸の国境が閉鎖されたことで、「合意なき離脱」がどのようなものかを味わうことができました。
ドーバーで待機している17,000台以上のトラックや、英国で生産された部品の一部を使用するバレンシエンヌ(フランス)のトヨタなどの工場が閉鎖されました。
英国のヨーロッパのバリューチェーンへの統合は明らかに重要です。
そして、フランスは商品と乗客の通路です。
毎年500万台のトラックがカレーに到着し、3000万人の乗客がイギリスからフランスに到着します。
イギリスはフランスの主要な商業パートナーです。
昨年、フランスは340億ユーロの商品を英国に輸出し、210億ユーロ強を輸入しました。
今回の合意により、商品に対する法外な関税、特に航空、自動車、医薬品におけるバリューチェーンの完全な混乱を回避する事ができます。
昨年英国に45億ユーロの商品を販売したフランスの食品産業にとっても英国はは重要な市場であり続けるでしょう。
要するに、この合意は、英国との間で最大の二国間貿易黒字(昨年は120億ユーロ)を達成しているフランスにとって歓迎されるものです。
確かに、金融や漁業などの特定の分野では、合意はあまりプラスの結果をもたらさないかもしれませんが、英国に対する貿易黒字は「合意」がなければもっと少なくなっていたでしょう。
どちらが勝利を得たのか
英仏のメディア論調を見ると、英国もフランスも合意なき離脱は本心では避けたい事態だった様です。
特にフランスにとっては、最大の貿易黒字を記録している英国との間に貿易障壁が出来る事は絶対避けたい事態だった様です。
だとすれば、EUの表面上の強硬姿勢の裏にFTAを結びたがっている本心がある事を見抜いた英国ジョンソン首相の作戦勝ちだったのでしょうか。
まだ結論を出すのは早い様です。
英誌Economistは次の様に警告を鳴らしています。
「大きな懸念は、今回の貿易規定はほぼ完全に商品に関連している事です。
英国の経済の80%を構成し、世界で最も急成長しているサービスに関しての規定はほとんどありません。
EUの金融サービス規制に関する決定や、国境を越えたビジネスの重要な部分である、データの無料転送を許可するEUの規定が含まれていません。」
英国はもはや物づくりではなく、サービス特に金融業で成り立っている国です。
この点に関する合意が同国の将来を左右する事は間違いありません。
英国が国際金融の拠点Cityを死守できるかはこれからの交渉にかかっています。
最後まで読んで頂き、有り難うございました。