「#となりのこもりびと」始めました
7500通。この4年間でNHKのひきこもり特設サイト「#こもりびと」と「みんなでひきこもりラジオ」に寄せられたメッセージの数です。声に応えるため、私たちはさまざまな番組を作ってきました。コロナ禍で孤立が深まる今、より強くつながりながら、一緒に課題や生きづらさを考える場を作りたいと、「#となりのこもりびと」を立ち上げました。
(ディレクター 森田 智子)
「誰もが“ひきこもり”になりえる」 寄せられた多様な声
私たちが「声」を寄せてもらうことを始めたのは2018年でした。
高齢となった親が中高年の子を支える「8050問題」という言葉が広く知られ始めた時期で、
ひきこもりの当事者たちが対話をする場、「当事者会」が盛んになり、発信する動きも加速していました。
「声を直接受け止めて、番組作りができないか」
NHKでは特設サイト「ひきこもりクライシス 100万人のサバイバル(現「#こもりびと」)という特設サイトを立ち上げました。日々ここに届く声はどれも長文で、どこにも吐き出すことができなかった思いが詰め込まれているようでした。
写真は、当初寄せられた投稿を整理していたときに撮影したものです。
「ひきこもるきっかけ」となった出来事を並べていくと、「親の介護」がきっかけで社会との関わりが途絶えた40代の男性。
「セクハラとパワハラ」を理由に職場を去り、そのままひきこもることとなった30代の女性。他にも「パワハラ」「いじめ」「過重労働」「就活の失敗」「リストラ」など。
ひとりひとりが異なる事情を抱えていました。
それは社会生活を送る中で、いつ誰が直面してもおかしくない出来事ばかりでした。
“ひきこもり”の人が生きやすい社会は、皆が生きやすい社会ではないか
私たちはそうしたゴールを思い描いて、寄せられた声をもとに番組を作っていきました。
“ひきこもり”とひとくくりにされてきた人たちの多様な実像、親亡き後に厳しい暮らしを送らざるを得なくなっている人たち。
「“正社員であるべき”“空気を読むべき”など社会のなかでの“あるべき姿”にとらわれてしまう」という声から生まれた「べきおばけ」や、「つながりを感じる場が欲しい」という声から始まった、生放送の「みんなでひきこもりラジオ」など、当事者の声と共に放送を作っていくことを試みました。
“叫び”から生まれた #こもりびとプロジェクト
そんなある日、痛ましい出来事が起きます。2019年6月、農林水産省の元事務次官の父親が、無職の長男を殺害した事件。その数日前には川崎市で無職の男が小学生を殺傷する事件が起きていて、いずれも「ひきこもり」と関連付ける報道がされていました。
投稿は、ひっきりなしに届きました。
「ひきこもりは殺されて当然だと思われているようで苦しい」
「犯罪者予備軍だという視線がとてもつらい」という当事者。
「自分の息子も事件を起こすのではないか不安だ」という親たち。
不安と葛藤に押しつぶされそうになっている人たちの“叫び”のように思えました。
「ひきこもりへの誤解や偏見を解き、理解してもらうことはできないのか」
その声がきっかけとなり、2020年に実施したのが「#こもりびとプロジェクト」でした。
NHKスペシャル、クローズアップ現代といった報道番組や、情報番組のあさイチ、福祉番組のハートネットTV、ETV特集など13の番組が連動。
それぞれの視点で「ひきこもり」をテーマに番組を制作しました。
コロナ禍で複雑化する孤立・・・寄せられた声に応えるために
コロナ禍で日々の生活や社会の在り方が激変していく中、声が寄せられ続けられてきた場があります。
2年前に始めた、「みんなでひきこもりラジオ」です。(ラジオ第1 毎月第1金曜放送)。
今では放送の度に1000件ものツイートを寄せていただいています。
コロナ禍で“ひきこもり”状態から出ることが一層難しくなった人。
「安定した暮らし」を送っていたはずなのに、リストラされ、“ひきこもり”になった人。
物理的にはひきこもっていないけれど、誰とも精神的なつながりを持てずに自分は“ひきこもり”だと考えている人。
あらゆる生きづらさを抱えている人たちが「ひきこもり」という言葉によってつながる、一種の“居場所”となっています。
こうした場を必要としてくれる人が増えていく一方で、多くの人から寄せられる新たな声もありました。
「もっとみんなの声を知りたい」「もっとつながりたい」または、「一歩踏み出すための情報や体験談を知りたい」というものです。
そうした声に応えるために、出来ることは何か。
ひきこもりについて取材を続けてきたメンバーで話し合って決めたのが、誰もが生きやすい社会について、読者の皆さんと繋がりながら考える場として「#となりのこもりびと」を立ち上げることでした。
「#となりのこもりびと」とは?
「#となりのこもりびと」では、みなさんから寄せられた声を元に私たちが記事を書いていき、読者のみなさんは、それぞれの記事にコメントをつけて参加できるようになっています。
記事の感想や、経験・知恵の共有、「もっとこんなことを知りたい」、「この人にこんな話を聞いてほしい」などといったリクエストを寄せていただければ、それを元に私たちがさらに取材をして記事にして、応えていきます。
生きづらさを感じている方はもちろん、ご家族、支援者の方など、ここの情報を必要と感じてくださるすべての人に、参加してもらえたらうれしいです。
居心地の良い図書館のように、一人でいても誰かの存在を感じられるような、そして欲しい情報が手に取れるような、近すぎず遠すぎず、緩やかなコミュニティに育てたいと思っています。
みなさんの声が、私たちを動かす「原動力」になり、「#となりのこもりびと」を形作っていきます。どうぞご協力を、よろしくお願いします。
※コメントは内容を確認の上、掲載させていただきます。
私たちが取材します! 「#となりのこもりびと」メンバー
みんなでひきこもりラジオMC。ラジオを通じて声を聞くひと。
「こんな学校だったら」「こんな職場だったら」「こんな家庭だったら」。ひきこもり当事者の声が響くような社会になるように、みんなで一緒にできることを考えます。
「声を聴いているのは、僕一人じゃなかった」
「“ひきこもりメシ”から見えたもの~みんなでひきこもりラジオ~」
ひきこもり取材13年。NHKスペシャル「ドラマこもりびと」「ある、ひきこもりの死」、ETV特集「空蝉の家」など担当。10代の頃の座右の銘は、「犬とロックは裏切らない」。関心事は家族のあり方と生きづらさ。
「ドラマこもりびと制作者談義」
クローズアップ現代+「ひきこもりルネサンス」「“こもりびと”の声をあなたに」を担当。社会人になるまでずっと人見知りで、今でも大勢の飲み会や人混みには構えてしまう。現在はひきこもりの親や家族の経験を聞く取材を行っている。カレーと餃子が好き。
「“共に作るラジオ”の先へ~孤立に抗う社会を作るには~(前編)」
「“共に作るラジオ”の先へ~孤立に抗う社会を作るには~(後編)」
「べきおばけ」の生みの親。クローズアップ現代+「“こもりびと”の声をあなたに」、「みんなでひきこもりラジオ」の立ち上げ。自身も社会のプレッシャーとの距離感・付き合い方を模索中。 “べき”にとらわれない社会を一緒に作りたいです。
「“~べき”おばけかエンジェルか」
「コンビニへの1000階段」
ハートネットTV、ETV特集「ひきこもり文学」、ノーナレ「みんな先に行っちゃう。」などを担当。当事者の方たちの感覚や思想、表現・言葉、その世界をお届けすることに奔走しています。好きなことは石拾いと石収集。
「動画“ひきこもり文学”」
クローズアップ現代+「ひきこもりルネサンス」首都圏ネタドリ!「追いつめられる ひきこもり“限界家族”」などを担当。現在は三重県津局勤務。取材でつながることができた当事者たちと、どうつながり続けていくのか考える日々です。ボードゲームと謎解き好き。
「コロナ禍のひきこもり支援の現場で起きていたこと」
「ひきこもり 見過ごされた発達障害」
こもりびと取材経験がない、チームのルーキー。自分で選んだわけでも、自分のせいでもないことに悩まされ、苦しむ人たちの声に、向き合いたいと思っています。
「ひきこもりクライシス 100万人のサバイバル」(現「#こもりびと」)発起人。「みんなでひきこもりラジオ」立ち上げ。家庭内にいながら身も心も居場所がない人たちの発信の手助けがしたいです。
特設サイト「#こもりびと」
「みんなでひきこもりラジオ」
毎月第1金曜 午後8:05(NHKラジオ第1・東京)
特設サイト「#こもりびと」
みんなのコメント(30件)
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悩み紫苑2024年5月25日
- 初めまして。資格のための学校に通ってて、予備校を経て、いつの間にか、家の中に追いやられました。大人のリアルを考えると就職が怖いです。どうしたら労働に入れるのかよく解らないです。
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感想ルナ2023年7月13日
- 無作為の深爪さんの投稿読んでたら泣けてきました。
文面からも優しさが伝わってきます。
私は例外ですが、ひきこもってる人や生きづらい人は優しい人が多いと思います。
でも、人を傷つけて平気な人が強いのが今の日本なんだよなって思います。
直接お伝えすることは出来ないですが、深爪さんが譲った幸せがちゃんと深爪さんに返ってくることを祈ってます。
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体験談無作為の深爪2023年6月15日
- こんにちは、一人ではできないことばかりだけど、できることはなんでもしてるひきこもりです。
好きなこと、ものを目にした時いつも、心身ともにしぼんで縮こまり、冷たく、かたくなってしまいます。
「母になんて言われるんだろう」「母の幸せを横取りして生きてるんだから、生に喜びを感じてはいけない」「誰かに譲ろう」とか、頭をよぎるのはそういう不安ばかりです。
時々遊びに行くようにバイト。仕事は楽しい。帰ったら憂うつ、落差がつらくて続きません。
経済的に頼っている人がいるってさびしいこと。だれかに怒られる、からかわれるってひとりぼっちよりずっと、ずっとさびしいです。
ほんとはあのかわいいマニキュアがほしかったけど、譲った幸せのぶん、今日も深爪です。ここのところずっと、一人称を奪われています。
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悩み犬好き 哲学好き 海外好き2023年6月2日
- こんにちは。
ゆきさんや色々な方のコメントを読ませていただきました。
私も、本当にその通りだなと感じました。
同じように感じている方がいらっしゃって、少しだけ安心しました。
ひきこもりの問題は、家族がいても、支援者がいても、居場所があっても、なかなか解決しないものなのですね。
私のような、対人恐怖、人間不信があると余計に問題を解決するのは、難しいと思います。
お話しを聞きます、お力になります、お手伝いします、と声をかけていただいても、言葉を信用することができません。
久しぶりに気持ちを吐き出させていただきました。
失礼いたします。
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悩みネッド2023年3月31日
- 子どもがほしかったのに子宮筋腫で叶わない。そんななか少子化が声高にいわれるようになって、子どもがいない女性は劣等生みたいな、肩身が狭い、居場所がない。ひきこもりたいけど家賃が払えないのでひきこもれない。もうどん底、死にたい。ひきこもりを助長しているのは他でもない行政と世論。子どもが産めない女性対する配慮を、行政はもっとしてほしい
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感想re2022年10月13日
- いつしか「全てから解放されたい」と願うようになりました。
親から、兄弟から、世間から、世の中から、すべての要求から、すべての圧力から、自分が解放されるのが夢です。
同じ苦しみを持つ人達が、もっと話せたらいいのに。ただ生きたい人が誰も傷付けず傷つかずに、生きられる場所があればいいのに。
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提言ゆき2022年10月12日
- こもりびとって言葉が嫌い。好きでこもってるわけじゃないし、疎外感しか感じない。呼び方を変えることを求めてるわけじゃない。支援したいとか助けたいっていう人たちのやることはいつも間違ってる。でも、声を上げれる当事者は少ないと思う。ネット環境がない人もいると思うし、声をあげるってことは本当に勇気のいることですごく難しいことだともっと分かってほしい。
声をあげても無駄だって思って助けを求めるのを諦めた人もたくさんいると思う。それだけ人に傷つけられたり、つらい思いをしてきた。ひきこもっているのが良いなんて思ってないけど、自分を守るにはひきこもるしかない人もいる。
簡単に分かったようなことを言わないでほしい。
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体験談ひろみ2022年10月5日
- こんにちは。はじめまして。
私は46歳、17歳の息子と10歳の娘(養護施設)の2児のシングルママです。
私は幼児期に母親からの言葉の虐待を受け、今もなおカウンセリングを受けています。14歳で微熱や腹痛、中学生なのに夜泣きが始まり、入院させられました。
なぜなら弟の中学受験の邪魔になるから夜泣きして家族が寝不足だったからだと思います。自律神経失調症と診断されました。高校から専門学校に進学し中退。母親に見せつけるために一部上場会社に就職。パニック障害を発症し退職。自分に何の価値もないと約1年くらいだと思いますが自傷をして運ばれた記憶しかない期間を経験しました。28歳で結婚、39歳で離婚。そして40歳で自身が発達障害の診断されました。二次障害のうつ病、線維筋痛症を持ちながら常時ベッドの中にいる生活をしています。今日も明日も同じ。生まれて来なければ子ども達にも迷惑がかからなかったなと思ってます。
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悩みみかん2022年9月29日
- 弟が関東で一人暮らしひきこもりニートです。15年になります。経済的には母が見ていますが、母もそろそろ年金暮らしになるので経済的援助は難しくなりそうです。
弟が5年ほど前から「変わりたい」と言い、主に私がサポートをしています。代わりに通院し処方してもらった薬や、生活に必要な物を送ったりしています(医療費や送る物は私が負担しています)
私には子どももいますので、まだまだ手もかかりますしお金もかかります。母が経済的な支援をできなくなっても、私には代わりにお金を出すことはできません。
弟はどうにか変わろうとしているので、姉としてできることは続けていこうと思っていますが、通院や弟の買物のため、ちょこちょこ時間を取られたりで精神的な負担も大きいです。加えて子ども時代に弟からは暴力を受けたり、弟のわがままでせっかくのお出かけが台無しになるなど迷惑な事が多々ありましたので、これ以上自己犠牲を払いたくないです。
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体験談空の下2022年9月29日
- 40才で、1人暮らしして、10年。
親から、離れるのに、苦労しましたが、やっと、毒親だった母を否定出来るようになりました。例えば「母は、ろくでも無い人だったな」「あの人は、娘に嫉妬して、私の幸せを望めなかったのかも知れない」。本来なら、娘が考えてはいけないような事を思うと、空が広がり、呼吸が楽になっていきました。
実家にいた頃は、失敗を厳しくとがめられましたが、今は、安心して、失敗出来ます。ダメ出しをされない人生は、こんなにも穏やかななものかな、と思います。