(2025/1/31 15:00)
NTNは宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケットエンジンに使われるターボポンプ用軸受で、シェア100%を握る。燃料の液体水素と液体酸素による極低温下でも凍らない軸受の潤滑技術で、超高速の回転軸を支える。民間のロケット事業参入拡大も視野に、軸受の成長分野で技術提案力を強める。
「ターボポンプ用軸受はロケットエンジンに液体燃料を瞬時に圧送するため欠かせず、誇れる技術だ」。NTN軸受事業本部技術ユニット航空宇宙技術部の横山和秀部長は、国の宇宙開発に協力する事業をこう説明する。自動車の駆動部品や産業機械用軸受を量産する同社にとり、ロケット向けは「軸受全体のわずかなパーセンテージ」(横山部長)に過ぎない。だが、高度な技術力は事業全般に寄せられる信頼のよりどころにもなっている。
1986年、日本初の航空宇宙用軸受専用工場を桑名製作所(三重県桑名市)に開設。同年に打ち上げが成功した国策のH―Iロケットに軸受が採用されてから、H―Ⅱ、H3といった後継ロケットに一貫して供給を続けてきた。技術の実証と実績の積み上げがものをいう事業であり、代替は効かない。「責任は重い」(同)が、それが事業の励みとなる。
ターボポンプは中の羽根車が高速回転し、液体水素と酸化剤の液体酸素をエンジンに送り込む。ロケットを小型・軽量化するには、超高速で回り、短時間で大量に送り込む必要がある。ポンプの軸は小さく、軸受も手のひらほどしかない。水素と酸素のポンプに、必要な数の軸受が取り付けられる。回転速度は公表していないが工作機械の主軸を上回り、自社の軸受としては最高速。超高速で回るが、軸受そのものの働きに真新しさはない。
技術のすごさは、マイナス253度Cの液体水素や同183度Cの液体酸素の極低温にさらされながら、回り続ける潤滑にある。この潤滑材料は、極低温ならば一瞬で凍り付いてしまう液体のオイルでもグリースでもない。軸受の回転で保持器が転動体へ、転動体が内・外輪へと接すると、保持器から材質のフッ素樹脂が移り付着し、接触面で樹脂が潤滑の役割を果たす。実証された技術だが、実はその潤滑の原理は完全には解明されていない。「特殊な機能であり、それを解明していくのも技術課題」と説く。保持器は強化ガラス繊維で補強もして、過酷な極低温に耐えている。
ターボポンプの軸受は標準がなく、仕様ごとに異なる「一品一様」の世界。1個ずつ手造りし、技能伝承が重要になる。技術や技能が標準的な軸受と共有されることはない。品質管理の国際規格も一般の軸受と異なる。液体水素の中で軸受を稼働する実験は単独だと難しく、JAXAで実施している。異質のモノづくりで、国の宇宙開発を下支えする。ただ民間のロケット参入が増え、固体でなく液体燃料の小型ロケット需要もこれから見込める。国策ロケットで培った独自技術や知見でニーズを探り、民需開拓に挑む。
(2025/1/31 15:00)
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