“帝京魂”が劇的勝利を呼び込んだ。15大会ぶりの出場となった帝京(東京B)が京都橘に2-1で競り勝ち、開幕戦勝利を飾った。1点リードの終盤に追いつかれるも、直後に勝ち越す勝負強さを発揮した。選手権6度、総体3度の全国9冠を誇る伝統のカナリア軍団も近年は低迷。15年から昨季まで指揮を執った日比威アドバイザー(51=順大監督)がボールをつなぐスタイルを志向し、今季就任の藤倉寛監督(44)が継承した。15年ぶりの大舞台に臨んだ新生帝京が、新国立で初白星を挙げ、日本一への好発進を切った。
◇ ◇ ◇
時代が変わっても、スタイルが変わっても、帝京は帝京だった。1-1に追いつかれた2分後の後半35分、ショートカウンターで途中出場のFW宮本周征(2年)が冷静にゴール右に流し込み、決勝点を奪った。 準優勝した第77回大会で主将だったOBの藤倉監督は「いろいろな人たちの思いを背負って今日ここに来ていますので、この1試合だけにコメントするのはすごく難しいなというような試合でした」と素直な思いを吐露した。
15大会ぶりの聖地。かつてはフィジカル優位のサッカーを展開し、全国で勝つのが当たり前だった。しかし近年は日比前監督の就任以降、ボールを丁寧につなぐスタイルに様変わり。関東近郊のJクラブ下部組織から選手が集まるようになり、着実に力をつけた。
舞台は整っていた。選手権、開幕戦、そして国立。監督自身は高2、高3時に国立での決勝で敗れた経験を持つ。試合前、選手たちに伝えた。「ドラマチックになる」。過去の大先輩たちが何度も名勝負を繰り広げてきた場所で、劇的な展開にならない訳がなかった。選手たちも「士気が上がった」「奮い立たせられた」と口をそろえ、ピッチの上で躍動した。
過去と決別したわけではない。時代の流れとともに名門のスタイルが変化しただけだ。この日、相手の堅守速攻にてこずると、割り切って前線にロングパスを出すなど、状況に応じたプレーを選択した。
終盤に追いつかれても慌てなかった。リードされて逆転する「ドラマチック」なシナリオも描いていた。その上でMF砂押大翔主将(3年)が「笑おう」と声をかけて前を向いた。高2の3学期に川崎Fの下部組織から“移籍”してきたU-18日本代表DF田所莉旺(3年)は「帝京魂という言葉に引っ張られた。ギリギリで点を取って負けないところは歴代の先輩から受け継がれたところ」。砂押も「改めて帝京の伝統、歴史を感じる1日だった」と胸を張った。
伝統と変化-。融合して生まれたシン帝京。藤倉監督は「歴代の帝京OBの方たちも大会を通してたくましくなっていった。その伝統に乗っかりたい。乗っかれる片足を突っ込んだのかな」と確かな手応え。歴代最多を独走する選手権通算81勝目を積み上げた。【佐藤成】
○…帝京OBたちも後輩たちの勇姿を一目見ようと駆けつけた。とんねるずの木梨憲武(62)が、恩師で帝京の黄金時代をつくった元監督で矢板中央(栃木)アドバイザーの古沼貞雄氏(85)と一緒に観戦した。タレントで実業家のローランド(32)や川崎FのDF三浦颯太(24)らも現地に訪れ、声援を送った。
<帝京激闘アラカルト>
◆初優勝 74年(昭49)度決勝。長澤和明(俳優長澤まさみの父)らを擁した清水東(静岡)に3-1。前半終了間際に同点に追い付かれるも、直後に安彦英二の得点で勝ち越し。後半にも安彦のダメ押し点で選手権初優勝。
◆惜敗 82年度(昭57)準決勝で大榎克己、長谷川健太、堀池巧の「三羽がらす」を擁した清水東戦で長谷川のロングシュートに沈み0-1で敗戦。国立初黒星だった。
◆リベンジV 83年度(昭58)決勝で再び「三羽がらす」に武田修宏が加わった清水東にエース前田治のボレー弾で1-0で競り勝ち優勝。
◆まさかのPK負け 86年度(昭61)準々決勝。本田泰人、磯貝洋光、森山泰行らスターをそろえるも、沢登正朗を擁する東海大一(静岡)に0-0、PK戦の末に敗戦。
◆両校優勝 91年度(平3)。準決勝で鬼木達(現鹿島監督)を擁した市船橋に終盤の逆転劇で2-1で競り勝つ。決勝で小倉隆史、中西永輔を擁する四日市中央工と延長戦まで戦う死闘で2-2。エースの松波正信は7得点で得点王に。
◆雪の決勝 97年度(平9)決勝。積雪で白いピッチの上で黄色のボール。中田浩二(現鹿島FD)を擁する帝京は、本山雅志(現鹿島アカデミースカウト)を擁する東福岡に1-2。