能・狂言の舞台で使用される面についてご説明いたします。
能面
翁面・おきなめん
白色尉 はくしきじょう
特別なときに使われる
正月など特別なときだけ上演される『翁』に使用されます。ほかとは違い、切顎になっているのが特徴。白色尉・肉色尉(翁)、黒色尉(三番叟(そう))が通常用いられ、父尉と延命冠者は今はほとんど使われません。
尉面・じょうめん
小尉 こじょう
あらゆる階層の老翁
老人(男)の面。ほお骨が高く、やせ形でヒゲと植毛した白いまげがあるのが特徴。品のある小尉(小牛尉)、庶民的な三光尉など、神の化身などの品格の高いものから漁夫の亡霊までさまざまのものがあります。
男面・おとこめん
中将 ちゅうじょう
老人以外の男性すべて
少年から壮年期の男性の面差しを写した面。年齢や身分、そのときの状況などに応じて区別されるほか、特定の人物の専用面もある。遊芸をよくする喝食、公達を表す中将のほか、神聖を漂わす童子・慈童などがあります。
女面・おんなめん
小面 こおもて
能面の代表的な存在
老若さまざまな女性の面で、面と聞くとまずこれを思い浮かべるほど、能を代表する面といわれます。若くて純真な小面、艶のある若女、増女、孫次郎、中年女性の深井、曲見(しゃくみ)、老女の姥など種類も豊富です。
怨霊面・おんりょうめん
般若 はんにゃ
その迫力に圧倒される
生霊や死霊などを写した面。代表的なものに嫉妬に狂う女性を表す般若がある。2本の角と口、目の表情が特徴的。ほかにも橋姫、鉄輪女、女の幽霊の痩女、地獄に堕ちた男の亡霊の痩男、蛙などがあります。
鬼面・きめん
小べし見 こべしみ
その名の通り鬼の面
鬼や天狗など、超自然的な存在に用いる面でかなり早い時期から存在。猛々しさや力強さが表されている。目を大きく見開いた飛出、口を一文字に引き締め力んだべし見、牙のある顰(しかみ)、獅子口などがあります。
狂言面
黒色尉 こくしきじょう
「翁」だけに使われる
正月など特別なときだけに演じられる「翁」で、狂言方が演じる三番叟がかける面です。豊かな笑いの表情をたたえたこの面は、能が大成する以前から、猿楽の座が本芸として演じていた「翁猿楽」で使われていました。
武悪 ぶあく
怖いけど愛嬌のある顔
神や鬼などの異界の存在に使われる面。「鼻引(はなひき)」は男の幽霊に、「登髭(のぼりひげ)」は末社の神に使われる。鬼を表す「武悪」は能面の「べし見」から派生したものと考えられるが、どことなく愛嬌があります。
乙 おと
醜女(しこめ)を表すおたふく顔
女の役では原則として面をつけないが、醜女と老尼の場合には面が使われる。「乙」「ふくれ」「尼」の面があり、中でも写真の「乙」は柔らかい表情。醜女といっても、憎めないおたふく顔です。
賢徳 けんとく
動物から精霊、天狗まで
馬や牛、犬などの動物から蟹や茸の化け物、天狗まで、人間以外のあらゆる者の役に幅広く使われます。きょろりと斜め上を向いた目とむき出しの上歯が特徴で、口笛を吹くように口をとがらせている「空吹」の面と同じく、大変ユーモラスな表情です。
嘯吹 うそふき
ユーモラスな表情の精霊
蚊の精、蛸の精といった精霊の役で使われる面です。「うそふき」とは「口笛を吹く」という意味で、その名の通り口をすぼめているのが特徴。口にこよりをさして「ぷーん」と飛び歩けば、まさに蚊そのものです。
出典:雑誌「Discover Japan 2010年2月号」(枻出版社刊)
写真提供:国立能楽堂