ソフトウェア品質は、現代のIT業界においてサービスの品質に直結する要素の一つです。しかし、その重要性を十分に理解し、適切にスキルを磨く機会を持つ人は多くありません。
様々なプラットフォームとつながるような高機能なサービス・製品のリリースが求められる中、品質面の不備はプロジェクトの失敗やユーザーの信頼喪失に直結します。
一方で、開発段階においてメンバー各々が「品質の基準」を理解し、共通認識を持つことは、チーム全体でより高品質な成果物を生み出す土台となります。
本記事では、バルテス・ホールディングス株式会社の布施 昌弘氏へのインタビューを通じ、ソフトウェア品質教育の現状やその意義、そして同社が提供するオンライン教育プラットフォーム「バルデミー」の狙いについて掘り下げていきます。
今回インタビューを受けてくださった方
- 布施 昌弘 氏
バルテス・ホールディングス株式会社 R&C部 副部長
2006年にバルテス入社後は組み込み系から、Webアプリケーション、金融システムなど様々なテストを担当。現在はセミナー講師や社内教育、コンサルティングなどを担当するR&C部にて副部長を務める。JSTQB 認定 Advanced Level テストマネージャ。
著書は、『【この1冊でよくわかる】 ソフトウェアテストの教科書 [増補改訂 第2版]』、『いちばんやさしいソフトウェアテストの本』。
- もくじ
1. 第三者検証のリーディングカンパニーが手がける教育プログラム
―― はじめに、布施さんのバルテス入社後のご経歴を教えてください。
2006年にバルテスに入社し、10年ほどソフトウェアテストのエンジニアとして働いていました。そこで何度かセミナー講師として社内やお客様に説明する機会があり、それをきっかけに「テストだけではなく、講師の仕事にも携わってみないか」とお誘いいただきました。
現在はR&C部(Research & Consulting)でバルテスの研修プログラム開発や研修講師としての業務に携わっています。
――今回リリースされた企業向けオンライン学習プラットフォーム「バルデミー」とはどのようなサービスなのでしょうか。
出典:社内にテスト専門企業と同等レベルの品質力を -バルデミー
バルデミーはバルテスが社員に行っている新人研修のカリキュラムをベースに開発された、ソフトウェアテストの基礎・計画・設計が身につくオンライン教育プログラムです。
もともとバルテスは社員の教育に力を入れており、新人研修に関しては2カ月かけて未経験の人をソフトウェア品質のプロとしての素養を持つレベルまで育てています。
中途採用で転職してきた社員からも「バルテスは研修をしっかりやってくれる」という声を聞いていました。その研修内容をオンラインで受講できるようにしたのがバルデミーです。
――バルデミーを開発した目的とは何でしょうか?
これは弊社の会長である田中の想いになるのですが、バルデミーの開発には「業界全体のスキルを底上げしたい」という目的がありました。
市場の拡大とともにソフトウェアテスト分野に新規参入する企業が増える中、サービスの質にばらつきが生じることが懸念されています。中には十分なソフトウェアテストのノウハウを持たないまま事業を開始する企業も出てくるでしょう。
その結果、品質向上を期待して発注したお客様の期待を裏切ったり、第三者検証として不十分な対応となるケースが発生する可能性があります。
こうした状況が続けば、市場全体の信頼性が損なわれる恐れがあります。そこで、バルテスでは、自社が培ってきたテストの考え方や基準を提供し、業界全体のスキルを底上げすることで、健全な市場環境を維持していきたいと考えています。
――業界の底上げをする目的があるにしてもノウハウの流出に繋がりかねないと思うのですが、そこは問題ないのでしょうか。
確かに、そういった懸念はありますが、そのくらい業界に対して危機感を持っているということです。
今後、テスト・品質保証を必要とする顧客が増えていき第三者検証会社だけではなく、開発会社などさまざまな企業が参入してくるのは間違いないでしょう。
しかし、新しく参入してきた企業のテストスキルが伴っていないと「テストの会社なんてこんなもんか」と業界そのものに不信感や不満を感じられる方が出てくることになりかねません。
そうなってしまう前に、弊社としてもノウハウを溜め込んでおくのではなくしっかりと外部へ出していった方が業界全体のためになるという発想に至りました。
2. よいものづくりに品質教育は必要不可欠
――品質教育を行うメリットはどのような点にあるとお考えですか。
よい製品をリリースするために品質教育は必要不可欠なものです。そもそもの話ですが、「品質」の定義が全くわからない状態では、全員が共通認識を持ってプロダクトの品質を上げようということが困難になります。
ソフトウェアのように「形のないもの」の品質を上げるにはどうすればいいのか?
そこに対する理解を持っていただくだけで、ソフトウェアやシステムの品質を上げていく道筋が見えてきます。
その道を歩んでいくのは、それはそれで大変なことですが、少なくとも「ゴールはこういうものだよ」とイメージができれば、ゴールに向かって歩きやすくなります。そういった意味では品質教育は非常に大きなメリットがありますよね。
――やはり、きちんと教育されていなければ「品質を客観的に見ることは大切だ」とわからないものですね。
そうですね。私の上司がよくいっているのは「かけ算の九九がわからなければ算数のテスト勉強すらできないのと同じ」ということです。
私たちが品質教育で教えているのは、算数でいうところの足し算や九九、格闘技でいうと基本的な型のイメージを持っていただけるとよいかと思います。
3. 品質に悩み出したらみんな根っこの部分にたどり着く
――社員教育やセミナーに関して、どのようなご相談やご要望が多いでしょうか。
バルデミーと同じ内容のコンテンツを外部の対面セミナーで実施すると、どの企業様も「品質の型」の話になります。「そもそも品質とはどのようなものなのか」「どうやって品質を上げていったらよいのだろうか」というご相談が多く、それらの共通認識を得るところから教育することが必要です。
よくあるご相談として、例えば「デグレードが多い」「ソフトウェアの品質が悪い」あるいは「リリースしてもお客さんからクレームが来る」「プロジェクトに遅延が発生する」などがあります。
それらを突き詰めていくと、やはり根元には品質に対する考え方、あるいは要求分析や要件定義の辺りがうまくできてないことにたどり着きました。
――やはり、悩み出したらみんな根っこの部分にたどり着く?
はい。皆さん、とどのつまり、根っこの部分にたどり着きます。そして現場でいろいろな施策を打っているもののなかなかうまくいかない。「なぜだろう?」と考えたときに「教育」に目が行くようですね。
――実際に「品質教育や研修」に関するお問い合わせは増えているのでしょうか?
バルデミーは2024年9月24日にリリースしたばかりですが、バルテスの研修事業に関してはずっと右肩上がりで、新規のお客様はもちろん、何度もリピートいただいているお客様もいらっしゃいます。
このように品質教育への関心は高まっているものの、社内に短時間で提供するための教育ノウハウがあまりない、あるいは時間・コストがないので外部にお願いしようと弊社に問い合わせがあるのだと思います。
実際に研修を受けられた方からは「知らなかった」「こういうふうに考えるんですね」という声が一番多いです。
「こうやって考えていくんだからこうすると抜け漏れがなくなっていくんですね」とか「そういうところは考えていませんでした」と、基本の部分を習得するのに皆さん苦労していることが伺えます。
4. 未経験者を2カ月で教育する実践的なコンテンツ
――バルデミーのコンテンツ開発で工夫した点を教えてください。
工夫した点は、バルテスが実際に行っている研修をできるだけそのまま移植しようと心掛けたことです。普段行っているのは対面形式の研修ですが、今回のバルデミーではeラーニング形式となるため、文字にする苦労がありました。
例えば、対面であれば講師が受講生の反応を見ながら話し方や話す内容を臨機応変に切り替えることができますが、eラーニングでは汎用的にわかりやすくしなければいけません。
そこで、誰が読んでも理解に偏りが出ないような、平易な書き方や言葉の使い方を心掛けました。
場所や時間を選ばず、自身の修得度に合わせて学習できるのがeラーニング形式のメリットなので、ご自身のペースで学習を進めていただきたいなと考えています。
――その他におすすめできる機能や活用方法はありますか?
バルデミーは「新人を2カ月で実践レベルに引き上げる」ノウハウを詰め込んだコンテンツですが、それだけではなく現場で使えるような実践的なツールも公開しています。
バルテスでは、テストケース作成を効率化するために一部の手順を自動化しています。従来、エクセルのプラグインで実現していたこの機能について、Webアプリ化したものをバルデミーに搭載しました。
ご利用いただければバルデミーの中で業務に活用可能なテストケースも作れるようになっています。
社内から「これ、一般公開してもいいんですか?」と質問がくるくらいの内容になっているので、ぜひ使ってもらいたいですね。
5. 業界全体で質の高いテストができるように!
――今後は、どのようなコンテンツを公開していく予定ですか。
現段階では、現場で働けるエンジニアを育成するための研修を公開しているので、次にその現場を回せる人「テストリーダー」を育成するための研修、その次にテストのプロジェクト全体を回す人を育成するための研修、というようなステップで考えています。
つまり、テスト設計エンジニアといわれる部分をひとくくりのターゲットとして教育プログラムを作っているところなんですね。
さらにその次のステップでは、もう少し上のレイヤーとして、計画や見積もり、あるいは全体的なテストの戦略を作るマネジメント層の「テストマネージャー」をターゲットにするようなコンテンツを作ろうと考えています。
――バルデミーを通じてどのようなことを成し遂げたいとお考えですか。
壮大なことを言うつもりはないのですが、やはり「日本のIT業界における品質レベルの底上げ」が成し遂げたいことであり、我々の目指すべきところだと考えています。
第三者検証の業界でバルデミーを標準言語として使ってほしいわけではありませんが、少なくとも品質に対する考え方が、ある一定水準以上保つことができている状態、欲を言えば、質の高いテストができる状態を目指したいですね。
――最後に、バルデミーの導入を検討している読者に向けてメッセージをお願いします。
バルデミーは単にソフトウェアテストを実施するノウハウだけではなく、開発における品質の重要性や考え方といった踏み込んだ部分まで学ぶことができます。
なので、例えばリスキリングとしてソフトウェアテストを学ばせたい場合にはおすすめできるものになっています。
また、若手社員に改めてテストや品質の基本を学ばせようというお考えがあるのであれば、ぜひバルデミーを選んでいただきたいですね。
――本日はありがとうございました。
企業向けソフトウェア品質教育サービス「バルデミー」
バルデミーは、より実践的で質の高いソフトウェアテストのオンライン教育プログラムです。
バルテスの教育カリキュラムをベースに、ソフトウェアテストの基礎から計画・設計などの実践的なコンテンツを提供します。