日本・EU協調でサーキュラーエコノミーのモデルを世界に示せ

田辺 靖雄
コンサルティングフェロー

12月10日に日欧産業協力センター主催により「サーキュラーエコノミーの最新状況と課題-成長する循環型社会を目指して」と題するセミナーが開催された。
サーキュラーエコノミーの最新状況と課題-成長志向型の資源自律経済を目指して | EU-Japan

日本、EU双方の当局からサーキュラーエコノミー(CE)政策・取り組みの最新状況について紹介され、双方の民間関係者の取り組みも踏まえて課題認識、経験を共有する政策対話となった。
そこでの議論の概要と筆者の所感をレポートしたい。

サーキュラーエコノミーの経緯

日本においてもEUにおいてもサーキュラーエコノミー(CE)(循環経済)に向けた取り組みが進んでいる。
CEは単にリサイクルにとどまらず、製品の設計段階から再利用を前提とし、サプライチェーン/バリューチェーン全段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、産業競争力強化や経済成長を目指す経済システムである。
日本においては、1999年に循環経済ビジョンが策定され、それを受け2000年の循環型社会形成推進基本法をはじめ次々にさまざまなリサイクル法規制・制度による取り組みが進んできた。
EUにおいては、2015年に初めてCE行動計画が策定され、2020年3月に欧州グリーンディールに位置付けられた新CE行動計画が策定され、そして2022年以降4次にわたる政策パッケージが発表された。これらにより、EUでの製品セクターごとのリサイクルが進むとともに、サステナブルな製品設計の取り組みが強化されつつあるところである。
EUの動きに呼応するように、日本でも2020年には循環経済ビジョンが改定され2023年3月に成長志向型の資源自律経済戦略が策定されるなど、CEに向けた取り組みが進んでいる。

発表概要

欧州委員会環境総局サーキュラーエコノミー担当局長のAurel Ciobanu-Dordea氏からの発表のポイントは以下の通り。

  • EUのCE行動計画2.0の新しい特徴は、①製品の設計段階からのライフサイクルアプローチ、②消費と廃棄にインパクトのある材料の流れ(プラスチック、繊維、電気製品等)をターゲットする、③EU単一市場のため統一ルール(指令から規則へ)である。
  • 最近の規制展開として、①バッテリー規則、②包装規則、③廃棄物輸送規則、④持続可能製品エコデザイン(ESPR)、⑤自動車分野のサーキュラリティ強化規則(検討中)、⑥繊維の拡大生産者責任ルール(検討中)がある。
  • 次期EU政策での重点は、①競争力コンパス、クリーン産業ディール、②ESPRの繊維、デジタル製品パスポート(DPP)、タイヤ、鉄・アルミ等の中間材への展開、③新しいサーキュラーエコノミー法(供給、需要、市場経済に関する)の制定、④REACH規則(化学品)の改定、⑤有機フッ素化合物(PFAS)規制強化である。

田中将吾経済産業省GXグループ資源循環経済課長からの発表のポイントは以下の通り。

  • 成長志向型の資源自律サーキュラーエコノミー戦略により①資源制約・リスク、②環境制約・リスク、③成長機会という課題に対処する。
  • サーキュラーエコノミー市場創造のために、①設計・生産段階の取り組み(サーキュラリティの見える化、サーキュラー設計の証明・ラベル化等)、②サービス分野での取り組み(シェアリング、サブスクリプション等、規制見直し等)、③回収・リサイクル段階の取り組み(廃棄物産業から資源供給産業へ転換、技術・資金的サポート等)、④情報共有のためのデジタルプラットフォーム形成(製品情報のデジタル化等)に取り組む。
  • 産学官連携のためのサーキュラーパートナーズを結成した(現在500以上のメンバー)。
  • GX経済移行債を元にサーキュラー分野で10年で2兆円の官民投資実現を目指し、まず今後3年で300億円を自動車・バッテリー、電気電子製品、プラスチック分野を支援予定。
  • 現在の3R志向の法規制から動脈・静脈産業連携志向のサーキュラーエコノミー型法規制への改正を検討する。
  • デジタルプラットフォームについては、ウラノスシステムでのバッテリー追跡システムに次いで化学・サーキュラー管理プラットフォーム(CMP)を開発中。
  • 今後資源生産性向上を目指した政策としてリサイクル材使用義務化、インセンティブ等を検討する。

三田紀之三菱ケミカルグループ執行役員チーフサステナビリティオフィサーからの発表のポイントは以下の通り。

  • 化学産業はすべてのバリューチェーンにおいてサーキュラーエコノミーの取り組みを通して産業と地域の競争力強化に貢献することを目指す。
  • 三菱化学グループの取り組み事例として、バイオプラスチックの使用、CCU(炭素回収活用)、製造段階での負荷低減、使用段階での負荷低減、プラスチックのリサイクル等がある。
  • プラスチックのリサイクル手法にはメカニカル(材料リサイクル)、ケミカルリサイクルとしてのモノマー化、ケミカルリサイクルとしての熱分解(ガス化、液化)があり、回収の難易度、リサイクル製品の品質、エネルギー消費の観点から一長一短がある。
  • 当社の日本最大のケミカルリサイクルプラントが2025年開業予定。
  • ケミカルリサイクル(熱分解)分野でサプライチェーン企業であるRefinverse社、エネオス社とアライアンスを組んだ。
  • 産業界にとってのチャレンジは、①市場の創造、②研究開発・商業化、③廃棄物へのアクセス、④クローズドかオープンかのビジネスモデル、⑤トレーサビリティのデータ管理、⑥サプライチェーン・製品の複雑性、⑦サーキュラー材料の越境移動等であり、それぞれにバランスの取れた解決を要する。

テトラパック社の循環経済・パッケージング政策担当部長のCristiina Veitola氏からの発表のポイントは以下の通り。

  • サーキュラリティとリサイクルのために、①今後5-10年で年約1億ユーロの投資をサステナブルパッケージングソリューションに行う、②今後3年間でリサイクル率を引き上げるためにローカルな回収・リサイクルエコシステムに約1.2億ユーロ投資する、③段ボール箱の回収・リサイクルの産業協力を主導する。
  • チャレンジとしては、①政策は経済モデル、分野横断的なエコシステム思考を強化しインセンティブ付けすべき、②Circularity by Design(循環設計)がすべての政策の基礎であるべき、③食料システムにおいてパッケージングは不可欠の部分と認知されるべき、④サーキュラーエコノミーと食料安全は連携して開発されるべき。

その後の質疑応答でのやりとりは以下の通り。

Q1. 目標となる指標について

Ciobanu-Dordea:
これまでユーロスタットで各国ごとに集計してcircular material use rate(注:マテリアルフローにおいて投入されたトータルの資源材料に占めるリサイクルされた資源材料の比率)を指標として測ってきたが、近年数値は停滞している(注:2022年11.5%)。(注:EUは2020から2030年にこの数値を倍増することを目標にしている)。その目標は抽象的で実行困難なので、2026年制定目標の新しいサーキュラーエコノミー法においてリサイクル材使用率や製品のライフサイクル長期化等の指標を目標化することをインパクトアセスメントして、EUワイドでもなく国ごとでもない目標に設定することを検討中。

田中:
指標としては、日本全体でインフローを減らし、アウトフローで最終処分、焼却等を減らしたり、製品を大事に長く使うことも重要で、その意味では資源生産性(資源利用量/GDP)を見ている。いずれも改善はしているがゴールを設定するのはなかなか難しい。究極的には枯渇性資源はほぼ使わない世界を目指すのがサーキュラーエコノミー政策であるべき。それを達成するためにどの指標をKPIとして設定するとコスト低く企業活動が全体最適につながっていくのかという観点から、ミクロ指標は企業に分かりやすい形で設定していく必要あり。そのための(国際的な)民間団体や標準化機関での議論に日本も参画して、世界的に通用する、比較可能な形で(指標・目標を)設定するのが重要。

Q2. リサイクル製品・材料のコストアップのためにどのような政策介入が必要か?

田中:
上流側においても下流側においてもインセンティブが必要。そのための設備投資、研究開発に対する財政的支援は行っている。それでも十分ではなく、もともと分散している廃棄物を集めるためにコストアップしてしまうので、途中までは財政的に既存の予算の中で少し乗せるようなこと、あるいはケミカルリサイクルのような最先端なものには値差支援(既存の材料よりコストの高いリサイクル材を利活用をする際のコスト差への補助)があり得るかというような議論もあり得る。それらで対処できない場合は一定のコスト分を圧縮するために原因者負担の拡大生産者責任という形で財源を求めることも必要になるかもしれない。これらの手段をどれか1つではなくよくブレンドしてやる必要がある。
またサーキュラーパートナーズには特定業界に片寄らず中小企業も含めて建設系、IT系、小売り系の企業にも加入していただき、広く薄く負担していただき、誰かに負担を寄せるのではなく、国民も価格負担や廃棄物の回収の部分で協力してもらう、小売りや物流も資源を回収してリサイクル企業に供給していくというような連携により、必ずしも経済的な負担のみでなく物理的な手を動かすような負担により、全体のコストを圧縮していくというパートナーシップによるアクションで実現していくことが重要。

Ciobanu-Dordea:
サーキュラーエコノミーに経済性を持たせるために重要なことは、第一に供給のアバンダンス(大量化)。現在、リサイクルの鉄やアルミニウムは市場で比較的よく回っているが、プラスチックには課題がある。生産者に言わせると、集められるが使われないと言う。そこでリサイクル材の需要を創ることが重要。そのために電気機器や繊維でリサイクル材使用を法的に義務付けて需要を創造する。
第二に価格付けであり経済的手段。拡大生産者責任の原則に基づき生産者に義務付けを行い、品目ごとに、バージン材の多い製品には生産者から高いフィーを徴収し、リサイクル材の多い製品には低いフィーを徴収するような仕組みを検討する。これにより、バージン材は安くリサイクル材は高いという状況を逆転させる。
第三に規制の予見可能性。現在新しいサーキュラーエコノミー法を検討中で、来年2025年早々には欧州委員会案を提案したい。その中で、リサイクル材使用義務を生産者に義務付け、10年後も同じ規制を続けることにして規制の予見可能性を高め、生産者の対応を促すようにしたい。
第四に産業政策。特にプライオリティの高いプラスチックや繊維セクターのリサイクル産業に対して今後2年以内に支援措置を整備したい。そこでは公共調達での優遇措置の活用も検討したい。これにより所要の投資を促す。

これに対して、三田氏、Veitola氏から、異口同音に、規制の予見可能性は民間投資決定のために極めて重要であるとのコメントがあった。

テークアウェイ・所感

以上の議論を聞いた上での筆者のテークアウェイ、所感を以下に述べたい。

第一に、サーキュラーエコノミーの目標として使うべき指標、その目標値については確定したものはなく、現在も模索中である。EUではマテリアルフローによるrecycle material use rateを目標に使用していたが、今後政策方針としては変更するようである。
代表的な指標、ガイドラインとしてはISOによるものやWBCSDによるもの等がある。
ISO - Circular economy
Circular Economy - World Business Council for Sustainable Develop
今後、各国・地域の実情に応じて、関係プレーヤーの道標となるような指標が生成され、国際的にも相互運用、比較可能となることが期待される。

第二に、サーキュラーエコノミー実現のための方法論、特に経済性を確保するためには、規制的義務付け(リサイクル材使用比率等)、インセンティブ付け(値差支援等)、パートナーシップ/自主活動の慫慂等ハード、ソフトの手法が模索されている。
傾向的にEUは規制的アプローチを志向し、日本は自主的な対応を志向する傾向が強いが、今回のような相互対話を行う中から、それぞれの国・地域の実情に応じた政策的なベストプラクティス、ベストミックスが見いだされてくるものと期待される。
EUにおいても規制と合わせてエコデザイン・フォーラムという官民連携アプローチが取られており、日本でも、サーキュラーパートナーズの運動に加えて法的義務化も検討されているのは興味深い(気候変動分野でEUが排出量取引(ETS)という規制アプローチで先行し、日本もGX-ETSに乗り出すことになったことが想起される)。

第三に、日EU関係としては、サーキュラーエコノミーという共通目標に向けて対話・協力・切磋琢磨しつつ、そのプロセスと成果を世界に示していくべきである。
この分野は気候変動分野とは異なり、日本が先行している分野であり、日本のリーダーシップが重要である。EU側も日本の政策的・産業的取り組みに強い関心を示している。
EUの政策、規制が世界の標準になるというEUのルールメーキングの強さが「ブリュッセル効果」と呼ばれるが、サーキュラーエコノミー分野では、日本発のイニシアティブという「東京効果」、あるいは「ブリュッセル効果」と「東京効果」の共同アプローチが期待される。

(セミナー当日の発表資料および録画ビデオについては、日欧産業協力センターの賛助会員になることで閲覧可能である。
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注:文中各スピーカーの発表、発言の紹介は筆者の理解に基づくものである。

2024年12月25日掲載