【時事小観】
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帝國(国)政府の聲(声)明、公明正大なる態度だ。之(こ)れで中外の疑惑も釋(と)けたらう《説明できただろう》。
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今後の局面を如何(いか)に清算するかゞ、政府の重大責任となる。
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我軍事行動は勿論(もちろん)、聲明の趣旨を厳守す可(べ)きだ。斯(か)くして國民の感謝に値する有終の結實(実)を求めねばならぬ。
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日本の爲(た)めにも、支那の爲めにも、禍を轉(転)じて福と爲(な)す用意が必要である。
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米國の態度、同情ある友誼(ゆうぎ)《友達として相手を思いやる気持ち》的精神の披瀝(ひれき)。
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若槻内閣の苦衷(くちゅう)《苦しい胸の内》を諒(りょう)察《相手の立場を察すること》し、理事會(会)参加の勧誘も調査隊派遣も拒絶して靜(静)観のスチムソン國務卿《スティムソン米国務長官》。幣原外相知己あり。
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外交局面に入った満洲事件。幣原外交の本領を發(発)揮す可(べ)き秋(とき)。
(昭和6年9月26日)
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日、支紛争は、両國だけで解決せよと、セシル子《セシル子爵、英国の政治家》の演説。正論である。
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聯(連)盟の努力はよい、然(しか)し、調査隊派遣なぞは、お節介の沙汰だ。
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事件の内容を正解せずに、聯盟の妙な勧告、決議は却(かえっ)て物笑ひとならう。
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日本を信頼せよ。日本にも正論は強い。
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國民政府の排日指導は、支那の信用に自ら墓穴を掘る。
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無智な暴民は、どんな事態を起すやも知れず、南京政府却て危機を招く。
(昭和6年9月27日)
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※時事新報のコラム「時事小観」。明治15(1882)年、福沢諭吉が創刊した「時事新報」は戦後、産経新聞と合同し、「産経時事」と呼ばれた時期もあった。« »は分かりやすく訳を入れた。