3、4年前の話だが、ある中年の外務官僚から打ち明け話をされたことがある。
「もし私がその場にいたら、そいつらを蹴ってしまっていたかもしれません」
そう語った中年官僚が所属していた部署は、大きな国際会議を担当していた。会議の名前は伏せておくが、当時はそれなりのニュースになったし、おそらく後世には歴史的な会議として記憶されることになるだろう。
会議が間近に迫ると準備作業は膨大になる。時差の影響を受けるため、夜を徹して海外とやり取りをしなければならない。徹夜が2日目になろうとしたとき、〝反乱〟が起こったという。
入省1年目と2年目の職員が結束して「これ以上の仕事はできない」と上司に訴えたそうだ。これを伝え聞いた中年官僚は「彼らが外務省に入ったのは国益に貢献したいからじゃないのか。そのまたとないチャンスなのに何を言っているのか」と憤った。
もしも中年官僚が実際に蹴りでもしたら、懲戒処分を受けることになったであろう。激しく叱責するにとどめていたとしても、パワーハラスメントと認定され、何らかの処分を受けたかもしれない。
良くも悪くも、日本はそういう組織に国の盛衰を委ねる社会になった。中年官僚が若手のころ、不眠不休で命を削りながら仕事をした時代は過ぎ去ったのだ。