目薬や塗り薬、基礎化粧品などでおなじみのロート製薬。創業126年の老舗だが、従業員の女性比率は約60%、女性の育児休暇取得率や復職率はほぼ100%という女性活躍の先進企業でもある。
仕事の継続に迷いなし
女性が働きやすい環境がつくられ始めたのは最近のことではない。妊娠検査薬を1992年に日本で初めて一般用医薬品として発売したころから、環境づくりが進んでいる。結婚、出産、育児を経て働き続けてきた多くの女性たちの経験の積み重ねが、今の状況に反映されている。
化粧品などを生産する大阪工場で副工場長を務める金松美さん(54)が初めて育児休暇を取得したのは2000年。出産後に復職する女性はその頃まだ10人に1人もいなかったが、「仕事は続けることを決めていたので迷いはなかった」と振り返る。
当時は品質部門に所属しており、妊娠中は胎児に悪影響がないよう、品質検査などに使える薬品に制約があったという。だが、「上司の男性がうまく仕事の配分をコントロールしてくれたので不安はなかった」と話す。
社内で運動会や慰安旅行、誕生会も
基礎研究に従事していた高木恭子さん(46)は11年に出産。産休・育休後は残業の少ない部署に異動する女性が多かった中で、高木さんは研究を続けることを選んだ。「育休明けも仕事を制限されることはなく、スムーズに復帰できた」という。
2人が口をそろえる「出産、育児に対する周囲の理解」は、1992年の妊娠検査薬発売が一つのきっかけになっている。当初はなぜその薬が必要なのか理解してもらえず、社員が全国の薬局に足を運んで説明して回ったという。発売を主導した社員は、後にロート初の女性役員に就任しており、大きな影響を与えたことは間違いない。
さらにもう一つの要素が、昔ながらの「アットホームな職場環境」だ。ロートでは現在も社内で運動会や慰安旅行、誕生会を開催しており、規模の大きい企業であるにもかかわらず「顔と名前が一致する社員が非常に多い」(金さん)という。産休・育休だけでなく、復帰後も子育て中は急な早退などが避けられないが、相手のことを知っていると「頼る方も、頼られる方も負担を感じにくい」(高木さん)という利点がある。
介護のセミナーに141人参加
そんなロートが近年注力しているのが、仕事と介護の両立を支援する体制づくりだ。ロート社員の平均年齢は42・3歳と比較的高いため、親世代の介護が始まる社員が増えてきている。昨年には介護に関する外部相談窓口を開設。昨年7月に開いたセミナーには141人が参加した。人に寄り添う地道な取り組みを続けることで、男女問わず働きやすい環境が育まれている。(桑島浩任)