事件報道に挑むABCテレビのスポーツ局クルー。コントロールルームの緊張感がハンパないって!©2024 Paramount Pictures.All Rights Reserved. 1972年9月5日、世界で初めてテロを生中継した米ABCテレビのミュンヘンオリンピック放送クルーたちが主人公。上映時間90分と昨今では短めやけど、見応えは2時間30分超の大作クラスです。
先週末、女子アイスホッケー五輪最終予選で日本勢第1号のミラノ・コルティナ五輪出場権を獲得したスマイルジャパン。スキップの藤沢五月が神ショットを連発したカーリングのロコ・ソラーレは日本選手権で準決勝敗退も、9月に行われる五輪代表候補決定戦進出を決めました。来年2月の冬季五輪に向け、これから各競技代表選考から目が離せません。
さて、第97回アカデミー賞で脚本賞にノミネートされている本作。53年前の9月にドイツ・ミュンヘンで開催されていた夏季大会で発生し、五輪史上最悪の事件として語られるパレスチナ武装組織「黒い九月」によるイスラエル選手団の人質事件が、報道側からスリリングに描かれてます。
舞台となるのは、選手村の隣に建てられたABCテレビの放送用制作施設にある調整室。競泳のマーク・スピッツが大会7個目の金メダルを獲得した瞬間、プロデューサーはカメラを2着に敗れて悔しげな独選手に切り替えてから、歓喜のスピッツに再び戻すよう冷徹に指示を出します。
ところが、スピッツの快挙中継に全米が沸いた夜、選手村で銃声が轟いた。ABCのスタジオにもマラソンに出場する選手から「銃声を聞いた」と電話が。「イスラエルの宿舎で銃声」「テロリストらしい」。情報が錯そうする中、たまたま放送施設にいた、まだマイナーリーグ中継くらいしか経験のない32歳の調整プロデューサー、ジェフリー・メイソンが現場を仕切ることになる。
そのとき、衛星回線を使って生中継できるのはABCだけ。他局と時間枠の折衝を続ける制作幹部は一方で、主導権を握ろうとする米国の報道局スタッフに「地球の反対側にいるヤツらに何が分かる?。これは我々の物語だ」と、スポーツ局が人質〝事件〟中継を手掛けると宣言した。
とはいえ、前代未聞の緊急事態。「人質の家族がオハイオにもいる。見るぞ」「生中継で家族が殺されたらどうする?」「緊迫してきたら別の映像を流そう」。ジェフリーはスタジオの大型カメラを施設外に出して選手村方向に固定し、手探りで生中継を続けます。
外部との連絡やスタッフ向けにドイツ語ニュースを翻訳する新入りの女性通訳が、ジェフリーをナイス・サポート。しかし、要求をエスカレートさせる犯人一味と現地警察の迷走が、ABCのクルーに究極の選択を余儀なくさせることに-。
東西冷戦下のドイツの闇の深さゆえ、事件が収束してからもモヤモヤは消えません。しかし、それは実際の映像も使われた90分の間、見る側が中継クルーのヒリヒリ感を共有できてるから。53年前のメディアのリアルと直面してください。(笹井弘順)