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え!? 実はタイヤの溝もデザインするんです!どんな仕事? ミシュラン・プライマシー5の進化に迫る【タイヤのデザイン探訪 前編】

[ 2025年2月2日 08:00 ]

タイヤをデザインするということ

タイヤのデザインと聞いて、「タイヤメーカーにデザイナーがいるの?」、「タイヤのどこをデザインするの?」と思う人は少なくないだろう。勘のよい人なら、「あぁ、サイドウォールをデザインするんですよね」と答えるかもしれない。

確かにタイヤのサイドウォールにはブランドマークやロゴなどのグラフィックデザインが施されているが、それだけではない。トレッドパターンにもタイヤデザイナーの創意とこだわりが込められている。

日本ミシュランタイヤでデザインチームを率いる清井友広氏。右はペンタブレットでCGスケッチを描いているシーンだが、他のプロダクトデザインと同様に、手描きスケッチから3次元CGまで使い分けるという。

というわけで、トレッドパターンから、プライマシー5のデザインを紐解いていこう。語ってくれたのは、研究開発本部シニアインダストリアルデザイナーの清井友広(せいい・ともひろ)氏。東北芸術工科大学でデザインを学び、2011年に日本ミシュランタイヤに入社した。「タイヤの見た目に関わるところは、すべてデザインする」(清井さん)というお仕事である。

ちなみにプライマシー5の直接的なルーツは2013年発売のプライマシー3だ。それ以前のパフォーマンス指向のプライマシーHP(06年)とコンフォート指向のプライマシーLC(09年)を統合して、プライマシー3が生まれた。

22〜24年のプライマシー・シリーズは4+、SUV+、e-プライマシーの3モデルで構成されていた。

それが18年にプライマシー4に進化するときにLCの”サイレント・リブ テクノロジー”と呼ぶ静粛性技術を改良して採用し、「プレミアムコンフォート」のコンセプトを確立。21年に低燃費重視のe-プライマシーを加え、22年にはプライマシー4をベースに摩耗末期の性能を高めた4+とSUV向けのプライマシーSUV+(プレミアLTXの後継)を投入して、プライマシー・シリーズを形成してきた。

新型プライマシーは、より選びやすいシリーズに

長い歴史を持つプライマシー・シリーズ。その新製品をデザインするとなれば、プライマシーらしさの継承・進化がひとつの要素になりそうだが、清井さんは「正常進化よりも新しくした部分のほうが多い」と告げる。「従来のプライマシー4+とプライマシーSUV+を統合した後継モデルとして、プライマシー5を開発したので・・」

従来のプライマシーSUV+は新しいプライマシー5に統合。今後のプライマシー・シリーズはこの2モデルとなる。

ユーザー調査の結果、SUVに乗る人のタイヤ性能に対するニーズ上位は乗り心地、低燃費、静粛性、ウェットグリップ。プライマシー・シリーズのターゲットカストマーのニーズも、順位こそ多少違えど項目は同じことがわかった。そこでプライマシー5の登場に伴ってプライマシーSUV+がシリーズから消滅(OEMタイヤでは残る)。今後はプライマシー5とe-プライマシーの2本立てになる。

「プライマシー4+とe-プライマシーはトレッドパターンが似ていて、プライマシーSUV+は違っていた。お客様視点で考えると、どれが自分にとって最適なのか、少し戸惑う人もいたと思う」と清井さん。

左からプライマシー4+、プライマシーSUV+、e-プライマシー。あえて4+やe-プライマシーとは趣の違うデザインにしたSUV+だったが、それがユーザーを戸惑わせたとデザイナーは考えた。

プライマシーSUV+はもちろん、オフロード用のタイヤではない。クロスオーバーSUVがターゲットだが、昨今はセダンやミニバンのタイヤもSUV並みに大径化する傾向だ。その結果、プライマシー4+とSUV+の選択基準がわかりにくくなっていた。

「ミシュランでは、ただカッコいいタイヤをデザインするわけではない。トレッドパターンから性能を感じ取っていただけることを大事にしている」と清井さんは語り、こう続けた。「今回のプライマシー5のトレッドパターンは、プライマシー4+のパターン構成をベースにしながら、耐荷重が大きいSUV+の剛性感も少し感じられるデザインにした。e-プライマシーとはかなり違うものに仕上げたので、お客様が選びやすくなったと思う」

S字型に進化したサイレント・リブ

具体的にプライマシー5のトレッドパターンを見ていこう。まずは4本のストレートグルーブ(主溝)に挟まれた3本のリブの部分だ。ここにサイレント・リブ テクノロジーの第3世代、”サイレントリブ・ジェン-3”が採用され、リブを斜めに横切る横溝がプライマシー4+の円弧型からS字型に変わった。

プライマシー4+のサイレント・リブ テクノロジー説明図。断面A、B、Cどこでも横溝の合計体積を一定にすることで、パターンノイズを抑える。

そもそもサイレント・リブ テクノロジーは、タイヤの輪切り断面のどこでもリブの横溝の合計体積を一定にすることで、パターンノイズ(荷重で圧縮された溝内空気が吐き出されるときの音)の音圧変動を抑え、音圧レベルを小さく保つ技術。従来のプライマシー4/4+では円弧状の横溝を斜めに配置し、さらに中央のリブと左右のリブで円弧の向きを逆にするなどで、横溝の中央でも端部でも溝の合計体積が一定になるようにしていた。

4+では主溝(ストレートグルーブ)とリブの横溝が鋭角で接するが、5はそれを直角に近い角度に改めた。

しかし円弧状の横溝を斜めに配置したので、それと主溝が接するところが鋭角になる。鋭角では先端部分の剛性が弱い。そこでプライマシー5のサイレントリブ・ジェン-3では、横溝をS字型にすることで横溝と主溝が直角に近い角度で接するように改めた。これによりブロック剛性を高めて振動を抑え、静粛性と耐摩耗性を向上させたのがサイレントリブ・ジェン-3である。

リブの横溝のS字型デザインが4+からの性能進化を見る人に伝える。

横溝をS字型にするアイデアは、「エンジニアとデザイナーが一緒に検討を重ねた結果、出てきたもの」と清井さん。どんなS字にするかについても、「トレッドパターン全体の印象に関わるので、いろいろなS字を提案しながら落とし所を探った」という。最終的に選んだのは、直線をRで結んでS字を描くパターンだ。

プライマシー4/4+はほぼ一定の太さの円弧だったが、プライマシー5のS字型は中央部分が太く、両端が細い。ちなみにプライマシーSUV+は太い直線とジグザグの細い溝を組み合わせていた。その太い直線の力強いイメージがプライマシー5のS字中央の太い直線部分に宿る。一方、e-プライマシーは4/4+と同様の円弧型の横溝だから、違いは一見して明らか。清井さんのデザイン意図が、確かに具現化されている。後編に続く。

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