「意識するのはゴルバチョフではなくスターリン」 ウクライナ侵攻1カ月、保阪正康さんがプーチンの胸中を分析

2022年3月24日 06時00分 有料会員限定記事
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ノンフィクション作家の保阪正康さん

 ロシア軍によるウクライナ侵攻開始から24日で1カ月となる。旧ソ連時代から何度かロシアを訪問しているノンフィクション作家の保阪正康さん(82)に、プーチン大統領が侵攻にこだわる意味やロシア国民の今、日本がどう向き合うべきかについて聞いた。(聞き手・小松田健一)

◆20世紀型戦争

 21世紀に20世紀型の戦争があるとは思わなかった。典型的な帝国主義的侵略戦争が公然と行われたことに驚いた。ウクライナ侵攻は、プーチン大統領が「大ソ連帝国」を忘れがたく、それを再興しようとしているのだと思う。
 プーチン氏が意識する指導者は、ゴルバチョフ氏ではなくスターリンなのだなと感じた。ゴルバチョフ氏は旧ソ連の政治システムを西洋型、つまりいろいろな国と共存する方向に持っていった。それに対して、共存ではなく君臨したいのがプーチン氏。それはとりもなおさずスターリンのやり方だというのが率直な感想だ。

 スターリン 旧ソ連共産党の指導者。1878年生まれ。1922年に共産党書記長となり、24年のレーニン死後に権力を握ると多くの古参党員を投獄、処刑する大粛清を行い、独裁体制を築いた。53年3月没

 プーチン氏はKGB(国家保安委員会)出身。私は1990年から94年にかけて旧ソ連とその後に成立したロシアを10回ほど訪ねている。91年の旧ソ連崩壊で財政が破綻して年金も払えなくなったときに、KGB退職者に会って話を聞いた。
 彼らに共通していたのは、自分たちが国家を支えているという強い意識。KGB職員は自分がなりたくてなるのではなく、国が能力や実行力などを評価してピックアップするので、エリート意識が強い。彼らはウクライナやベラルーシなど、旧ソ連の構成国を独立国とは思っていない。

 KGB(国家保安委員会) 旧ソ連の組織。1954年に発足し、国内外での諜報ちょうほう活動や反体制派の取り締まり、国家機関・軍の監視、国境警備などを任務とした。1991年のソ連崩壊とともに解体された。

 プーチン氏の意識も同じで、それこそ大ソ連帝国の復活だと思う。
 今回驚いたのは、プーチン氏からウクライナは自分たちのものだという言葉が出てきたことだ。ウクライナは大ソ連帝国の一角であって、そこには自主性も主体性もない。われわれの安全のために存在し、背くことは許されないと公然と言い、それを軍事で実証しようとしている。

◆満州国とウクライナ

 プーチン氏のやり方を見ていると、かつての日本が自分たちの権益を守るため満州国を「生命線」と言ったのと重なる部分がある。ロシアはウクライナの親ロシア勢力を「独立」させて条約を結び、それを認めさせる名目で軍を出した。これは日本が満州国をつくったようなやり方。日本はその後、国際連盟を脱退して完全に孤立していく。今のロシアも孤立している。

 満州国 1931年の満州事変で旧日本軍が中国東北部を占領後、翌32年に建国した傀儡かいらい国家。清朝最後の皇帝だった愛新覚羅溥儀ふぎを皇帝に据え、東アジア諸民族が融和、協調する「五族協和」をスローガンに掲げたが、政府の主要ポストに日本人が就くなど、政治・軍事面とも日本の強い影響力下にあった。45年8月の日本敗戦で崩壊した。

 私が会った旧日本軍人の佐官クラスだった人たちは強烈なエリート意識を持っていた。その1つに、自分たちに誤りはないという歴史観がある。自分たちがやっていることが価値基準の中心にあることに対する誇りだ。プーチン氏を見ることで、かつての日本軍の専横、独善を感じ取らざるを得ない。
 一方で、日本が中国へ出て行った1930年代は軍人が密室で好きなようにやった。情報は公開されなかった。今は情報が世界に流れるわけだから、やっぱりあの時代とは異なるのだなという気がする。...

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