考えるヒント
考えるとは、合理的に考える事だ。どうしてそんな馬鹿気た事が言いたいかというと、現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、どうやら、能率的に考える事が、合理的に考える事だと思い違いしているように思われるからだ。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。そんな光景が到る処に見える。物を考えるとは、物を掴んだら離さぬという事だ。画家が、モデルを掴んだら得心の行くまで離さぬというのと同じ事だ。だから、考えれば考えるほどわからなくなるというのも、物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。だが、これは、能率的に考えている人には異常な事たろう。
(小林秀雄「考えるヒント」文春文庫刊)
- 注1 馬鹿気た(ばかげた)
- 注2 積り(つもり)
- 注3 到る処(いたるところ)
- 注4 掴んだら(つかんだら)
(問い「これ」は何をさしているか。
- 考えているつもりだが、考える手間を省いていること
- 対象を手でつかんで離さないようにすること
- 考えれば考えるほどわからなくなること
- 合理的に考える人にとって困難なこと