スペック的にはお買い得なのに? 「日産リーフ」が苦境を迎えている理由
2021.02.24 デイリーコラム2019年から4割減
欧州や中国では、電気自動車(EV)の販売台数が爆発的に伸びている。ところがわが国では逆に、EVの販売台数が急減している。「ホンダe」が出たり、「マツダMX-30 EVモデル」が出たり、つい先日は「テスラ・モデル3」が衝撃的な値下げを発表したり、世を挙げてEVブームみたいな気配だが、実は日本ではメタメタなのである。
原因は、日本におけるEV販売台数の大部分を占める「日産リーフ」が、急激に売れなくなったことにある。
2020年のリーフの年間販売台数は、約1万1000台。2019年には1万9000台売れていたので、一気に4割も減った。
これは日本だけの現象ではない。2020年上半期のリーフのグローバル販売台数は、前年同期比マイナス47%という大敗北となっている。
ただ、リーフの退潮は、日本と海外とでは、少し分けて見るべき要素があるだろう。
海外におけるリーフの販売急減は、強力なライバルの出現によるところが大きい。その筆頭はテスラ・モデル3であり、続いて「ルノーZOE」や「フォルクスワーゲンID.3」であり、はたまた中国の「宏光MINI EV」だ。それらライバルに比べてリーフは、相対的に魅力的でなくなっている。
現行リーフは、初代リーフのビッグマイナーチェンジ版だ。バッテリー容量を大幅に増やした「e+」がラインナップに加わったとはいえ、特にヨーロッパでは、次々と登場する地元ブランドの新型EVと比べると、どうにも古くさく見える。
一方、日本ではEV≒リーフだ。三菱の「i-MiEV」は即身成仏状態(2021年3月末に生産終了)だし、ホンダeは年間1000台、MX-30 EVモデルも年間500台ぽっちの販売目標と、国内では売る気がない。
輸入車は、輸入車である時点でマイナーだ。テスラですら、2020年の年間販売台数は1900台ほどのようだ(テスラの国内販売台数は非公開だが、JAIAの統計の「その他」がほぼテスラであるとの推測による)。前年比約60%増とはいえ、リーフの2割にも届いていない。つまり、リーフから他のEVへ客が逃げたわけではない。
“イメージ”はこわい
では、なぜ国内でリーフが売れなくなったのか。これに関するデータは皆無だが、いくつか理由を推測してみよう。
まず第一に、「リーフのバッテリーは劣化が早い」という説(?)が、急速に広まったことだ。
この説の震源地は、初代リーフの初期型だが、実際のところ初代リーフの初期型は、バッテリー容量が低下し、満充電から100kmも走れなくなった個体が少なくない。もちろんバッテリーのコンディションは使用環境に大きく左右されるが、初代リーフは、10万km走るとバッテリー容量が30%落ちると考える必要があるようだ。バッテリー容量の毀損(きそん)はEVの価値そのものの毀損。一部にせよそういう個体が出たことで、初代リーフの中古価格はメタメタになり、それが現行型の中古価格にも波及し、新車販売にも大きな影響を及ぼしているのだろう。
リーフは、初代も現行型も、バッテリーの積極的な温度管理システムを持たない。今やそんなEVは世界的に少数派になった。現行型は充放電マネジメントの進歩により、初代のようなことにはなるまいと思うが、仮に自分がEVを買うならば、ちょっと割安であったとしても、いまさら時代遅れのモデルに大枚をはたきたくはない。
実を言えば、テスラのバッテリーは綿密なる水冷温度管理システムを持ち、リーフにはないという事実を私が知ったのは、ほんの1年前のことだ(2021年中ごろ発売の「アリア」にはあるそうです)。テスラのバッテリーは25万km走っても、容量低下は10%以下だという。そんなこと、全然知らなかったのです。申し訳ありません。多くの皆さまも私同様、最近になってその事実を知ったのかもしれません。
もうひとつは、新型コロナの影響だ。
欧州では、日本とはケタ違いに新型コロナが猛威を振るっているが、逆にそのことが、EVがもたらす明るい未来への期待(?)を高めている、のかもしれない。
しかし日本では逆に、いざという時、あまり頼りにならないクルマを避ける方向に働いているのではないか。災害の際、クルマは最後のとりでとなる。それが停電であっけなく陥落したら困る、という。
だとしたら、それはリーフの責任ではないけれど、しかし日産が、リーフのバッテリーを徹底してケアする姿勢をみせてこなかったことが、「リーフは頼りない」と思わせた遠因にはなっているだろう。
(文=清水草一/写真=日産自動車、本田技研工業、上汽通用五菱汽車/編集=藤沢 勝)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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