【ETOPS】(いーとっぷす)
"Extended-range Twin-engine Operation Performance System"の略で、双発機が洋上飛行をする際に課せられる制限のこと。
双発機で長距離飛行(特に太平洋・大西洋横断航路)をする際、エンジンが1基停止すれば残りの1基で飛ばなければならず、墜落の危険が大きくなるため
「双発機のエンジンが1基停止した際、60分以内に代替の空港へ緊急着陸することが可能なルートを取って飛行しなければならない」
という規定が定められた。
これが「ETOPS」の始まりで、最初の規定では
「60分以内に代替の空港へ緊急着陸することが可能なルートを取ること」
とされ、この規定は「ETOPS60」と呼ぶ。
このため、当初は双発機による洋上飛行は実質不可能とされ、そうした路線には3発機(DC-10・L-1011トライスターなど)・4発機(B707・B747・DC-8など)を投入せざるを得なかった。
しかし、近年では機体やエンジンの信頼性や単発での推力が飛躍的に向上したことに伴い「ETOPS60」から「ETOPS120」「ETOPS180」と段階的に規制も緩和されつつあり、現在では「ETOPS207」という規定もできている。
これにより、太平洋・大西洋線でも双発機によるフライトが可能となって経済性が向上したことにより、先述のDC-10・L-1011トライスター・B707・B747・DC-8などに代わって、双発のB777やA330が主力として利用されるようになりつつある。
エアバス社の販売戦略におけるETOPS
エアバス社では、このETOPSを参考に機体の販売戦略を敷いている。
(欧州各国連絡路線など)陸上区間の多い路線を運航する会社には双発機(A300、A310、A320、A330)を、(太平洋・大西洋横断路線など)海上区間の多い路線を運航する会社には4発機(A340、A380)を重点的に販売している。
ETOPS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/06 14:16 UTC 版)
ETOPS(英語: Extended-range Twin-engine Operational Performance Standards、イートップス)とは、民間旅客機の安全性確保のためのルールの1つである[1]。エンジンを2基しか持たない旅客機では、仮にそのうちの1基が飛行中に停止した場合でも一定時間以内に代替の空港へ緊急着陸することが可能な航空路でのみ飛行が許されるとして、国際民間航空機関 (ICAO) が取り決めたものである。緊急時にエンジン1基のみでの飛行する場合、飛行可能な時間を定めたものと言い替えることができる。
日本の国土交通省は、ETOPSを「双発機による長距離進出運航」と呼び、実施承認審査基準を設定している。
なお、この規定は今後、新たに提案されたLROPS (英語: Long Range Operational Performance Standards) に置き換えられる可能性もあるが、まだ一般的ではない。その後さらにEDTO (英語: Extended Diversion Time Operations)という概念も提唱され、ICAO(国際民間航空機関)のワークショップ[2]で議論されている。
経緯
ETOPS制定よりずっと以前、エンジンの信頼性が低かった時代において、双発旅客機(エンジン2基)は、近くの空港から100マイルまで、1953年からは空港より60分以上離れたところを飛ぶことが認められていなかった。このため、大洋や北極を最短距離で横断するような航空路に双発旅客機を就航させることは許されなかった。1980年代に入り、エンジンの信頼性が高まると、エンジン1基のみで飛行できる時間を120分に延長することができるようになった。事前に認定を受けた双発旅客機に対して近くの空港から120分以内の距離の飛行ルートを認めたものが、ETOPS-120ルールである(ボーイング767が初)。この規制緩和は、燃費や整備費で経済性に優れた双発旅客機をより広範な路線に就航させたいという航空会社の要望に応えたもので、これによって、従来の安全基準に対応するためにエンジンを3基や4基備えた機種(DC-10、トライスターなど)は発注が減っていった。
その後、エンジンの信頼性がさらに向上すると、ETOPS-180やETOPS-207という規定が設けられ、航続距離の長い双発旅客機では、南極大陸など一部を除き地球上すべての地点を飛行できるまでになった[3]。
ETOPSの認定
ETOPSを実際に認定するのは、アメリカ連邦航空局(FAA)と欧州航空安全機関(EASA)の2機関である。
ETOPSの認定は、まず機体とエンジンの組み合わせにより型式ごとの認定(ETOPS type approval)が行われる。それから実際の運航を行うに当たっては、さらに旅客機1機ごとに個別で認可を受ける必要があり、航空会社によってはコスト削減などのため、同じ機種でもETOPS「認定」と「未認定」の機体が混在することもある。この場合、ETOPS「認定」の機体は主に長距離の洋上飛行に割り当て、「未認定」の機体は主に陸上や短距離の洋上飛行に割り当てられる[4]。
また、ETOPSルールの適用時間は同じ機種・型式の旅客機でも航空会社(の運航実績と整備水準)によって違いがある。
ETOPSルール適用の旅客機は3発機(ボーイング727、DC-10、トライスターなど)や4発機(ボーイング747、エアバスA340・A380など)よりも、エンジンを中心として厳しい検査体制が採られている。
ETOPS-120からETOPS-180へ
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はじめてETOPS-180の認定を受けた旅客機はボーイング777で、これは同機が搭載している2基のエンジンの信頼性が従来のものから飛躍的に向上したためである。その後ボーイング757、ボーイング767、ボーイング737-600/-700/-800/-900、ボーイング787、エアバスA300-600、エアバスA310、エアバスA320、エアバスA330にもETOPS-180が認定されている。
ETOPS-207
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ETOPS-240
2009年10月に欧州航空安全機関 (European Aviation Safety Agency,EASA) がエアバスA330に対して初のETOPS-240の認定を与えた[5]。
ETOPS-330
2011年12月にFAAはボーイング777(777-300ER、777-200LR、777貨物機、GE社のエンジン(GE90)を搭載した777-200ER)に対してETOPS-330の認定を与えた[6]。
2014年5月にはボーイング787がFAAからETOPS-330の認定を受けた[7]。
2015年3月にボーイング747-8がFAAからETOPS-330の認定を受けたと発表し[8]、4発機で初めてETOPSが認定されることになった。
ETOPS-370
2014年10月に欧州航空安全機関がエアバスA350-900に対し、ETOPS-180からETOPS-300・ETOPS-370の認定を与えた[9]。
空港要件
双発機が長距離飛行を行うにあたっては、航空機・エンジンのみならず、空港の要件についても3発・4発機より厳格に定められている[10]。
航路周辺の緊急着陸に適した空港はAdequate Airport(着陸可能飛行場)[11]と呼ばれ、運用時間や飛行場諸元等から安全に着陸できるものでなければならない。これはETOPSでない飛行(空港から60分以内の距離の飛行)にも適用される。
Adequate Airportの要件に加え、より厳しい条件を満足する空港をSuitable Airport(着陸に適した飛行場)と呼ぶ。Suitable Airportは滑走路の路面状態を考慮した十分な滑走路長を持ち、気象状態も滑走路の数や進入方式に応じた所定の条件を満たさなければならない。さらに緊急時の救難・消火体制もICAOの定める「カテゴリー4」以上の能力が必要である。通信状況その他についても様々な条件がある。ETOPS運航においては、Suitable Airportの中から、エンルート用のETOPS代替空港(ETOPS Alternate Airport)[11]を選定しなければならないことになっている。
ETOPS-207の場合は、Suitable Airportの救難・消火体制としてICAOの定める「カテゴリー7」以上の能力が必要で、さらに180分飛行距離以内にAdequate Airportも別途確保しておかなければならない。
脚注
- ^ 例えばUSDOTでは"Extended Range Operation with Two-Engine Airplanes"と表記しており、"ETOPS"の表記にはいくつか存在する。
- ^ Extended Diversion Time Operations (EDTO) Workshop - ICAO Uniting Aviation (英語)
- ^ 参考文献:嶋田久典『世界の傑作旅客機50』ソフトバンククリエイティブ
- ^ “JALの新LCC「ZIPAIR Tokyo」発表会。「太平洋を渡りたい」と西田社長 初年度は2機の787-8で成田~ソウル/バンコク線から”. トラベル Watch. (2019年3月8日)
- ^ 「エアバスの見据える未来とは」『航空ファン』2010年8月号、P.73
- ^ “Boeing to Offer up to 330-Minute ETOPS on 777” (英語). Boeing. (2011年12月12日)
- ^ “FAA、787のETOPS 330承認 単発で330分飛行可能に”. Aviation Wire. (2014年5月29日)
- ^ “747-8、最大330分のETOPS取得 4発機初”. Aviation Wire. (2015年3月19日)
- ^ A350 XWB、最大370分のETOPS承認
- ^ Suitable Enroute Alternate Aerodromes - Transport Canada (英語)
- ^ a b 双発機による長距離進出運航実施承認審査基準
外部リンク
- Great Circle Mapper - Great Circle mapper including ETOPS ranges
ETOPS
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 04:20 UTC 版)
「ツインジェットエンジン」の記事における「ETOPS」の解説
迂回空港から遠く離れて飛行する場合(いわゆるETOPS / LROPSフライト)、1つのエンジンが故障した場合に備えて、航空機は指定された時間内に残りのエンジンの代替機に到達できなければならない。航空機がETOPS規格に従って認定されている場合、エンジンの1つが航空機を空中に保つのに十分なほど強力であるため、推力は問題になならない(以下を参照)。ほとんどの場合、ETOPS認定には、一方のエンジンが故障してももう一方のエンジンも故障しないようにするためのメンテナンスと設計の要件が含まれる。エンジンと関連システムは独立して維持されている必要がある。 ETOPS / LROPSは、長い水上飛行にのみ適用されると誤って考えられることがよくあるが、利用可能な迂回空港から指定された距離を超えるすべての飛行に適用される。迂回空港近くの水上飛行は、ETOPS / LROPSに準拠している必要はない。
※この「ETOPS」の解説は、「ツインジェットエンジン」の解説の一部です。
「ETOPS」を含む「ツインジェットエンジン」の記事については、「ツインジェットエンジン」の概要を参照ください。
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