ろうの女優としての半生を振り返る~忍足亜希子さんに聞く~
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耳の聴こえない女優としてだけでなく、本の執筆や講演、手話教室の先生など活動を広げる忍足亜希子さん(52)。夫で俳優の三浦剛さんと長女との和やかな家族生活を紹介した『我が家は今日もにぎやかです』という本も昨年出版した。忍足さんに、ろう者であることの思いや、活動の意義について聞いた。(以下、敬称略)
リアルな姿伝えたい
――女優となったきっかけを教えてください。
忍足)女優になる前は神奈川県の銀行に勤めていました。勤務して5年目になった頃、「定年までずっと銀行で勤めていけるだろうか? 今の仕事が合っているだろうか?」という悩みを抱えていました。そんな時に仲のいい手話通訳士が「手話に関する映像関係の話があるんだけど、興味ある?」と話を持ってきてくれました。私は「やってみたいです」とお返事しました。
最初は見学だけだろうと思っていましたが、話が進んでしまい、NHKのノッポさんの手話番組「ノッポさんの手話で歌おう」に出演することになりました。それが転機となり、5年間勤めた銀行を思い切って辞めることになりました。その頃はまだ、女優になろうと決めたわけではなく、しばらく自分探しの旅をしながら、これからの自分のしたい事を考え続けていました。
その頃、手話を使った登場人物が出てくるテレビドラマが放送され、手話ブームが起こるほど注目されていました。しかし、私には違和感がありました。
ドラマで演じられるろう者は、暗く、寂しく、悲しい雰囲気のイメージだったからです。作られた印象に対し、「ろう者はもっと明るい。リアルな姿を伝えたい」という思いを強く抱くようになりました。私が女優の道を歩み始めることになった大きな原動力のひとつです。
――映画に出演することになったきっかけは?
忍足)27歳の時、映画「アイ・ラヴ・ユー」のオーディション募集を知りました。人前に出ることが苦手だった私にとっては新しい挑戦でした。
――当時、手話を使う主演女優はかなり珍しかったのではないでしょうか?
忍足)「アイ・ラヴ・ユー」は家族愛、友情がテーマの映画です。私が演じたのは聴こえない主人公の女性の役で、聴者で消防士の夫と小学生の一人娘という家族の物語です。彼らの心が触れ合い、愛を深めていくというストーリーです。聴こえない役を、聴こえない人が演じること自体が珍しく、注目されたのではないでしょうか。
日本手話の表現、目の動きなどは、ろう者特有の表現です。聴こえない役は聴こえない人が演じるのがよいのではないかと思いました。